作品タイトル不明
なんか見てるだけでお腹が空いてくるんですけど
まるで鉄パイプのような太さの、蟹脚を拾ってみる。殻はトゲトゲで、鉄よりも硬い。一方で、その断面からは、柔らかく透明な身がギチギチにつまっているのが見える。ほんの少しほじくって、つまみ食いをすると、甘い蟹の味が口の中にいっぱいに溢れる。ぷりぷりとした蟹の身の繊維を、じっくりと噛みしめるたびに、味が広がる。
鈴木さんが蟹と交差すると、見事に蟹の脚とハサミが断ち切られる。動く事が出来なくなった蟹はその場に転がされ、もう何もする事ができない。いや、口から水と泡は吐いてくるが、その程度だ。もはや脅威ではない。『アカガニ』で一番危険なのは、やはりその顎とハサミだ。顎の方はよほど近づかない限り問題はない。
つまり、ハサミと足をもいでしまえば、あとは、(普段なら)ネットにくるんで食用として出荷されるのを待つばかりの状態になる。と言っても、実践で初心者にそんな芸当が出来るかと言われると、無理と言うしかない。
一方で、金田さんと蟹が交差すると、鉄より硬いはずの甲羅で覆われている胴体が、左右に真っ二つに断ち切られて、半分となった胴体の中身をじっくりと観察できる様になる。切られた半身と半身は、意思を失ってピクピクと痙攣するばかりだ。
「右側、2体あがってくる。堺。できるか?」
「すいません、処理できません。中川さん。」
「鈴木、頼む。」
「了解っす。」
堺さんは、一匹一匹倒すのに時間がかかっている。足を切り、爪を弾き、殻を砕き、急所を潰すという、通常の『アカガニ』の倒し方であるので、決して弱い訳ではないし、倒すのが致命的に遅いわけではない。そもそも私にはあんな動きはできない。…それでも鈴木さんが、蟹に対処すると、一瞬のうちに、足とハサミが宙に舞う。
「終わりっす。」
「…申し訳ありません。鈴木さん。中川さん。」
「問題ない。そのためのチーム行動だ。」
こうやって見ていると、やはり堺さんは弱い訳ではない。ただ、堺さんと藤井さん、そして私を除く全員が、いわゆるベテランの探索者だ。新人の戦闘と比べるのは酷というものだ。
「海中から『バイシロ』複数。」
「問題無ぇ。」
バツン
海中から上がってきた巻き貝が、金田さんの一振りで、これまた真っ二つになって今出てきた海へと沈んでゆく。
「…うーん。バイも普段なかなか食べれないんやけどなぁ。」
「いちいち拾って、食ってる時間が惜しいんだ西園寺。別に、食べに来た訳じゃ 無(ね) ぇんでな。まぁ気持ちは分かるがよ。」
いま金田さんが切ったのは『バイシロ』と呼ばれる貝のモンスターだ。やはりこれも食用で人気がある。白く硬い貝殻に、軟体の身がつまっている。刺身にしてよし、煮付けにしてよし、そのまま焼いてもよい。ただし、普段は水底でじっとしているため、捕獲が難しい。好戦的ではないが、水魔法も使ってくるので、地味に厄介…なハズだ。
現在私達がいるのは、第7・8階層になる。顔見せである低層が終わって、9・10階層を越えるといよいよ中層と呼ばれる領域になる。つまり、本来ならばそろそろ本格的にダンジョンが、探索者に対して『牙』を向けてくる難易度になってくる。
にも関わらず大して戦闘らしい戦闘をせずに、このチームは、どんどんとダンジョンを進めている。モンスターは次々と下からやってくるのに。
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Aランク1名、Bランク2名、Cランク3名、Dランク(ただし戦闘はCランク相当)1名。ランクも経験も十分な面子に加えて、探知に優れた中川と霧島。そして全体指揮に慣れている佐藤。頼れる前衛の鈴木と金田。新人2名と仮免許1名が加わっても、この階層であれば、何も問題ない。
そもそも、このダンジョンの難易度の大部分が、海中や海底にいるというモンスターの『討伐の難しさ』と、貝やら蟹やらといった『貝類・甲殻類』の防御力の高さにある。普通は、金田のように頑強なこの『アカガニ』の甲殻を真っ二つにすることができないのだ。だが金田はそれを平気でやる。これでもう少し真面目なら、今頃CランクどころかBランクにも手が届いてるのだが、それは別の話だ。
だが、一方で、自信を失いかけているメンバーがいた。
「(Dランクでも真っ二つにできる『アカガニ』と『シロバイ』ごときにCランクの俺が手こずるのか…。)」
堺である。