軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91 肖像画と挿し絵画家

「アデライーデ様、絵師の方々から肖像画の仕上げのためにお目通りをと先触れが参りました」

レナードがアデライーデが夕食を終えたあと、ソファで食後のお茶をマリアととっていたアデライーデにそう告げた。

「絵師?」

--そう言えば、マリアがそんな事を言っていたような…

ちらりと横を見るとマリアは歓喜に打ち震えている。余程嬉しいらしい。

「じゃ、明日午後にでもお招きしてもらえる?間に合うかしら」

「村の宿屋に泊まっているとのことでしたので、朝1番に従僕を使いに出せば十分かと…」

「じゃ、それでお願いね」

「かしこまりました」

レナードが恭しくお辞儀をして部屋を出ていくと、マリアが頬に手を当て「とうとう仕上げまできたのですね」と嬉しそうに言う。

「ヨハン様が帝国でも人気の画家と挿し絵画家をお呼びになったので素晴らしいものができていますわ」

マリアは多少興奮気味にアデライーデに説明する。

「肖像画家のディオボルト・ノイラートは帝国御用達の画家の一人ですし、挿し絵画家のティオ・ローゼンは最近帝国で人気の挿し絵画家なんです」

「そうなの…」

「最後のお顔を描かれるのでしょう」

「もう、仕上げなの?でも、私彼らに会ったことないわ」

「結婚披露の際に広間にいらっしゃいましたわ。ご挨拶はできなかったようですがお顔は拝見したと言われてましたし、飾られていたウェディングドレスをお二人とも熱心に見てスケッチされていました。明日はアデライーデ様を間近に見て最後の仕上げをされるのでしょう」

忙しい王族の肖像画は顔以外のところを描いておいて、顔だけ最後にじっくりと描くと言う。

ディオボルトが描くアデライーデ達の結婚式の肖像画は2枚作製され、1枚はアデライーデが、1枚は陛下達に贈られる。

翌日、ホールに縦2メートル横3メートルはあろうかという大きな絵が運び込まれていた。

アデライーデがあまりの大きさに驚いているとレナードは「王宮に飾るご結婚の絵であればごく普通のサイズ」と言われて2度びっくりした。

同じサイズのものをこの離宮に飾るのかと思ったが、離宮の大きさに合わせひと回り小さいサイズのものになるようだ。

それでも陽子さんにとっては大きな絵だ。

絵と言っても玄関に飾っている小さな風景画しか買った事が無い。写真だって持っているのは薫達がそれぞれ成人したときに撮った家族写真がA3サイズだった。

--まぁ一般庶民と王族を比べる方がおかしいんだけどね。

スケールが違うわよね。

そんな事を、思っていたらレナードが絵師を連れてきた。

「アデライーデ皇女様、お目にかかれて光栄でございます。肖像画家のディオボルト・ノイラートと申します。こちらは挿し絵画家のティオ・ローゼンでございます」

「ティオ・ローゼンでございます」

そう挨拶をした紳士は見事な赤ひげを 貯(たくわ) えている禿げた紳士であった。挿し絵画家と紹介されたティオ・ローゼンも同じく燃えるような豊かな赤い髪を編み込みにしてまとめている年の頃は20代後半のほわっとした可愛らしい女性だ。

「私の娘でして、挿し絵画家としては男性名のティオ・ローゼンを名乗っていますが本名はアメリー・ノイラートと申します」

ノイラートは男爵でアメリーは男爵令嬢であるが、令嬢が挿し絵画家と言うのはあまり聞こえが良くないらしく男性名を使っていると言う。

アデライーデは二人の前に座り、ふたりは絵を描き始めた。

ディオボルトは油絵の筆を走らせ、アメリーは用意された机で持ってきたスケッチブックに絵を描き始めた。

マリアはアメリーの後ろに立ち、スケッチブックを見ながらうっとりとしている。

1時間ほど描いて休憩と言う事で、二人をお茶に誘うと恐縮しながらも同席してくれた。

アメリーは絵が好きでディオボルトの後を継ぎたかったらしいが、縁遠くなるのを心配したディオボルトは最初それを許さなかったらしい。

油絵ではなく水彩画をスケッチを描いていたらそれを見た貴族の夫人が自分の詩集の挿絵をアメリーに頼んだ事で、アメリーは一躍人気の挿し絵画家になり今では帝国でも人気の画家の一人になっているという。

--これは…漫画のような感じね。

1枚のページの中に、いろんな場面が描かれ物語のように進んでいく。

アデライーデが見せてもらったアメリーのスケッチブックには、アルヘルムとの出会いのシーンから、アデライーデがアルヘルムの手を取り二人で見つめあっているシーン、馬に乗ってメーアブルクに出かけるシーンまであった。

--ん?アメリーさんはいなかったはずだけど…

「どうしてこのようなシーンが描かれているの?」

「あぁ、それは…マリア様とメイドの皆さんが教えてくれたのですわ。どのシーンも素敵なシーンだったと聞いております」

「え?」

振り返ると、マリアとミア達がいい笑顔で立っている。

「どのシーンも目に焼き付いております」

「あのシーンをぜひ残しておきたくて」

「アルヘルム様やフィリップ様との素敵なシーンを残しておかないのは勿体ないですわ」

「私もお話を聞いて、すごく素敵な絵がかけて嬉しいですわ」

「そう言えば、昨日フィリップ様がいらして…」

「まぁ…それは…!素敵!」

アメリーが人気の挿し絵画家の最大の理由は、聞き取りをしたシーンをまるで見ていたかのように再現できる才能があったからだ。女性ゆえ依頼者の夫人達とはじっくりと話せる。親しみやすい雰囲気もあって話しやすいのであろう。

小物からドレスの細部まで。二人の距離や手の位置、顔の角度まで依頼者の要望にドンピシャ(死語)の絵を描けるのが彼女の強みと言う。

アデライーデがアルヘルムと新婚の時を過ごしていた3日間、アメリーはマリア達からみっちり話を聞いていたのだ。

--まるでカメラね。差し詰め、これはアルバムかしら。

最近は、帝国のご夫人の間で、家族だけの絵を手軽にたくさん見られるこのようなスケッチブックスタイルの絵画が流行っていると言う。夫婦や恋人同士の依頼も多いらしい。

--ロマンチックなシーンを記念に残して置きたいと言うのは世界が変わっても同じね。

「最近は、依頼の数だけで言えば父親の私より多くて…他家のロマンスより本人のロマンスの方を聞きたいのですが…」

どの世界も父親は娘に甘いらしく、ディオボルトはアメリーが挿し絵画家としての活動をするのを認め一緒に仕事をしていると言う。

「そうですわね。本人より親の方がやきもきしますね」

「そうなのです。本人はケロッと生涯独身でもいいなんて言うのですが」

「父親としては心配ですわね」

「そうなのでございます。側にいるのは嬉しいのですが…」

「でも、いざお嫁に行くとなると寂しいなと思って強く言えなかったり」

「そうなのです!アデライーデ様は父親のお気持ちをよくわかってくださる」

あちらではちょっと腐的な会話が盛り上がり、こちらでは親的な会話が盛り上がりレナードはこの混沌としたホールの雰囲気をどうしたのものかと悩んでいた。