軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 お支度とマリア

翌朝、マリアに起こされた陽子さんは伸びをして、ネグリジェの裾を整える。

マリアが銀のトレイに小さなティーカップのハーブティーを用意してくれていた。

(ベッドで1杯のハーブティーから朝が始まるのね)

差し出された銀色のトレイの上のティーカップを受け取り、寝ぼけ眼でハーブティーを味わう。アデライーデの好きなハーブティーだ。

(若いと良いわね。起きて痛いとこないし。くっきり見えるし)

豪華なベッドで華奢な少女がハーブティーを飲みながら思うことではないけど、まだ14に戻って数日だから仕方ないわよねと苦笑いしながら飲んでいた。

ハーブティーを飲み終わる頃にはすっきりと目が覚め、ベッドから出てマリアに身だしなみを整えてもらいダイニングルームに移動した。

ダイニングテーブルには朝摘みの白いマーガレットが飾ってある。

席につくと、小さな壺のような白いカップに入ったオニオンスープが出てきた。

オニオンスープを一口飲んで料理人に感謝する。

王宮勤めの料理人なので味は太鼓判を押せる位に美味しい。

朝食やお弁当作りに早く起きてバタバタせず、酷いときは家族は食べても自分は食べ損なう(時間的・食べつくされた)ことも無く、給仕をしてもらいお片付けも無い。

子どもたちが成人してから、朝はみんなコーヒーくらいになったが家族が飲んだコーヒーカップを洗っていくのは陽子さんだった。

次にバターの香るスクランブルエッグときのことベーコンのソテー、1/4ほどにカットされたフライドブレッドが出てきた。

(朝食は、イングリッシュ・ブレックファストに近いのね)

前世の戦争のような朝食風景だった我が家とは大違いだと思いながら、カトラリーを手にとる。

(人様に作ってもらうご飯の美味しくありがたいこと!)

スクランブルエッグをスプーンですくい、たっぷりのバターの香りを堪能しつつもちょっとお醤油が欲しいなと思ってしまう自分は根っからの庶民だとおもいつつ朝食を終えた。

食後の紅茶を飲みながら、アデライーデはマリアに尋ねた。

「ねぇ、マリア。この王宮には図書館とかあるかしら…」

「図書館…。王宮大書庫室でしょうか」

「ええ、そこで本を読んだり借りたりすることはできるかしら」

「はい。持ち出し禁止になっていない本でしたらアデライーデ様でしたら何冊でもお読みいただけると思います。刺繍の図案とかでしょうか?」

「いいえ、いろいろな本を眺めて勉強しようかなと思って」

「勉強…でございますか?」

マリアは微妙な顔を一瞬したが少しお待ちくださいと言って、下がっていった。1時間ほど経っただろうか、戻ってきたマリアが2時間ほどしてからであれば大書庫に行けると教えてくれた。

図書室に行くだけなのに予約がいるとは王族って大変ね…と思っていたら、マリアに鏡の前に連れて行かれた…。

鏡の前で丁寧に髪を梳られ編み込みの入ったハーフアップにされる。

フローラルな香りのお化粧水をつけられ軽くお粉をはたかれお化粧される…

マリア…何でもできるのね。

手際の良さに感心して見ていると今度は着替えだとクローゼットから数着のドレスとアクセサリーを出してきた。

「マ…マリア、書庫室に行くのよね?」

「はい。さようでございます。どのドレスにいたしましょうか?今日はお天気もよろしいですし明るい色のドレスがよろしいかと…」

「本を読みに行くのに着替えは必要?」

今着ているドレスでも十分だと思う陽子さんがおずおずと尋ねると

「必要でございますとも!」

マリアは、謎の迫力でにこにこと楽しげにドレスを並べる。

「アデライーデ様がこちらの王宮に来て初めてのお出かけでございます。どなたにお会いしてもおかしくない装いにいたしますわ。お任せください!」

マリア…目がちょっといってるわよ?

マリアは喜々としてドレスはどれが良いかと陽子さんに迫った。

陽子さんはマリアのハイテンションに気圧され、若草色のドレスを選ぶとアクセサリーはこれがお似合いだとドレスと同じ色の蔦を模したエメラルドの髪飾りと揺れるイヤリングを選ぶ。

(ひぃ〜! 書庫室に行くだけで宝石を着けるの?落としたらどうするのよ…)

マリアがアクセサリーBOXから指輪にも手をかけたときには、丁重に断った。本を傷つけでもしたら申し訳ないからと。

残念そうなマリアを尻目に、これ以上のアクセサリーは心臓に悪いと思っているとマリアは「アデライーデ様は慎まし過ぎます。お綺麗なのですからもっと着飾っても良いくらいです」と言い残念そうに手にとっていた指輪を置いた。

確かにアデライーデはきれいだけど、本を読むのにこれ以上アクセサリーは必要無いわ。

陽子さんは今つけているアクセサリーですら外していきたいくらいだが、これ以上なにか言うとお出かけできないんじゃないかと思って、早々にマリアに着付けてくれたお礼を言った。

ようやく支度が整って部屋から出ると、扉の前にいた2人の護衛の騎士が一礼する。

陽子さんはドアの前に騎士がいたのねと驚いたが、騎士たちに軽く笑顔を向けマリアに先導され書庫室に向かって歩き出すと、すっと一人の騎士がアデライーデとマリアの後ろにつく。

お城の中でも護衛がつくのね…

高貴な人はちょっとした移動も大変だわ。

しばらく歩いて、書庫室の扉の前に着いた時間は

マリアがアデライーデに書庫室に行けると告げたぴったり2時間後であった。

2時間は、マリアがアデライーデの支度を愉しむ…もといお支度をするのに必要な時間だったのだ。