軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

73 シードルフ村

新婚3日目。

アデライーデ達は、離宮の近くの湖に来ていた。

すぐ近くにこれから住む離宮があるが、改修工事が終わって綺麗になってから案内したいとアルヘルムは、連れては行ってくれなかった。

ちょっと残念と思う反面、楽しみが増えたと思うことにする。

この湖の側には60人程の村があると言う。以前はもっと住人が居たようだが、主に畑と湖の魚を取るくらいの産業しかなく、それでも先王がいた頃にはメイドや侍従の家族がここに住んでいて今より人は多かったらしいが、若い人は港町や王都に移り住んでしまって今は20軒が空き家らしい。

そんな説明を昨日と同じようにアルヘルムから馬上で聞いた。

やはり今日も馬でも移動だ。密着している。

何でも馬でおおっぴらに外出出来るのは、滅多にないらしい。

「それにすぐに離宮に行ってしまうではないですか。ゆっくり過ごせるのは今日までなのですから」と微笑まれてしまった。

--確かに離宮暮らしを受け入れてくれたのだから、新婚3日間くらいは二人だけで過ごしても良いわよね。

そう思って、馬に揺られていたらメーアブルグに行くより若干早く湖の村シードルフに着いた。

鏡のように澄んだ水面の大きな湖の近くに、白の漆喰のような壁とオレンジの屋根が森の緑に映える可愛らしい家が並ぶシードルフ村は絵本の挿し絵のような村だった。

--絵になる村だわ。

森の中の湖の側の村なんて御伽話の村みたいね。港町のメーアブルグはレンガ造りの建物だったけど、小人が住んでそうな村だわ

「可愛らしい村ですね」

「離宮に合わせて建てられているからね」

「そうなのですか」

「夏の離宮もそうだが、王族が住まう場所の近くだからたまに国外からの賓客も招く。その時に余りにも廃れた村だとちょっとね」

そう言って、アルヘルムは村へと馬を進めた。

アルヘルムの馬を見つけたらしく、村からわらわらと人が出てくる。

子供は数人で殆どは女性と老人だ。村長と思われる 矍鑠(かくしゃく) とした白髪の老人が、アデライーデを馬から降ろしたアルヘルムに近づき挨拶をした。

誰かに似てる…。太い白髪の眉と口ひげと顎髭。

大きな犬と一緒にスイスの山に住んでいそうなおじいさん…。

「お久しぶりでございます。アルヘルム様。この度はご結婚おめでとうございます」

「久しいな。ガリオン」

アルヘルムはガリオン村長と握手を交わすとアデライーデに振り向いた。

「紹介しよう。彼は私の剣の師で近衛騎士団長だったガリオン・グリフ。彼女はフローリア帝国から来た私の正妃のアデライーデ皇女だ」

「お初にお目にかかる。近衛騎士団長だったのは遠い昔、今はこの村の村長のただのガリオンでございます」

「アデライーデでございます。どうぞよろしく」

そう言うとガリオンは胸に手を当て騎士の挨拶をした。落ち着いた所作は年をとっていても騎士のそれだった。アデライーデも淑女の挨拶で応える。

「彼女はあの離宮にこれから住まうのだ。ガリオンよろしく頼む」

「ほぅ…離宮に」

「うむ…まぁ…色々あってな」

「そうですか。村もまた少し賑わいましょう」

「そうだな。警備の者たちがまた世話になる」

「さすがに、もう教えることは無いでしょう」

「そうであれば良いんだがな」

「先の戦では武勇をたてられたと聞いておりますぞ」

ガリオンと話しているアルヘルムは、王というより師と話す弟子と言う雰囲気で楽しそうに話している。城でも見たことのない少年のような笑顔で話すアルヘルムはガリオンに心を許しているのが見て取れる。

ひとしきりガリオンと話したアルヘルムは、アデライーデを湖の湖畔の散歩に誘った。

村から離れた湖畔に白いテントが建てられ中に軽食が用意され敷物の上に座って湖を眺められるように沢山のクッションが敷き詰められていた。

アデライーデに座るように勧め、アルヘルムはゴロリと横になりあの村は先王に仕えた使用人や騎士が余生を過ごす村でもあると説明してくれた。ガリオンも先王に仕え身罷るまで共にここで過ごし、見送った後もこの村に住んでいると言う。

「この村は、先王の村とも呼ばれていたがこれからは貴女の村になる」

「私の村ですか?」

「王妃は 化粧領(けしょうりょう) として、私有地を実家から貰うのだが貴女は帝国から嫁がれてきてこの国に領地がない。だからこの村を貴女の村にしようと思う。他の領地のように租税がほとんど無いから名前ばかりで申し訳ないが必要な物は全てこちらで用意するので遠慮なく言ってほしい」

「多分、しばらくは陛下が持たせてくれた持参金や輿入れのお道具があると思いますのでそれで大丈夫かと思いますわ」

確か輿入れの目録の中に現金の項目があった気がする。品物も一生分あるのではないかと思うほどの品数が書かれた辞書のような目録が数冊あった。

「それに、離宮暮らしに必要なものはそれほど多くないと思いますわ」

社交をする予定もなく持たせてもらった大量のドレスで充分事足りる。村を貰うということ自体ピンとこない。

「貴女は、本当に無欲なんですね」

アデライーデの方を向き、下から見上げるアルヘルムは少し寂しげに見えた。

「皇帝陛下に比べたら頼りないかもしれませんが、一応この国の王なのですから私を頼って下さい。それに貴女の夫なのですよ」

「頼りにしておりますわ。ただ何をどうしていいかわからないだけです」

--確かに余りに頼りすぎないのも良くないわね。

アルヘルム様のプライドを傷つけちゃったかしら… でも何をどう頼るべきなんだろう…王族の基準がわからないわ…

「では、困った時はお手紙を出しますわ」

「それはだめです」

「え?」

「困った時は会いに来て下さらないと。馬車で1時間とかからないのですよ」

「……」

「どのくらいで困りますか?」

「え?どのくらいでって」

「月に1度は困ってください」

「はい?」

「せめて月に1度はお会いしたいですし。あぁ、そうですね。私が馬で困ったことはないですかと会いに来れば良いのか」

ちょっと待ってほしい。それでは御用聞きじゃないのか。王様はそんなに暇なのか?馬に乗りたいだけじゃないの?

答えに窮して目を白黒させていると、アルヘルムは肩を震わせて笑い始めた。

この少女は他の令嬢とこうも違うのか。他の令嬢は少しでも思わせぶりな事を言うと熱のこもった目をするが…。

--からかわれてる!

「困った時には会いに行きます!」

アルヘルムはアデライーデがからかわれたとむくれているのに気がついて、身体を起こしてアデライーデを抱きよせた。

「怒らないで、私の正妃様。貴女は約束をしてないとここにずっと引き篭もっていそうですからね」

--また!近い!

「ちゃんと、会いに行きますから!」

「本当ですか。月に1度はちゃんと困ってくださいね」

アルヘルムは今日が二人だけで過ごす最後の日なのが残念だと思いつつアデライーデの額にキスをした。