軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68 空と海の青と瑠璃唐草

「海だわ! アルヘルム様!海が見えます」

小1時間程馬を走らせただろうか、森を抜けると眼前の景色が抜けて海原が広がる。キラキラと海面が眩しく光り仄かに潮の香りがする。

海岸線の手前には港町メーアブルグのレンガ色の町並みが広がっていた。一際大きな尖塔は教会のなのだろうか。街の中心にそびえている。

「きれいだわ…」

「貴女が来たがっていた海ですよ。あれは港町メーアブルグです」

どこまでも続く大海原を小高い丘の馬上から二人でしばらく眺めていた。

時折風に乗ってかもめの鳴き声がかすかに聞こえてくる。

「アルヘルム様早く行ってみたいわ。素敵な街なのでしょう?」

先程は急がなくて良いと言ったが、アデライーデは早くあの街に行ってみたくてわくわくしていた。街歩きも久しぶりなのだ。

「まだですよ」

「はい?」

「しっかり 掴(つか) まっていて下さい。怖かったら目を 瞑(つぶ) っていてもいいから」

そう良い笑顔で笑うアルヘルムに、アデライーデは引きつった。

--まさか…目を瞑れって!

はっ!そう掛け声をかけアルヘルムは、馬の腹を蹴り港町に続くであろう道とは別の道に馬を駆けた。

--やっぱり!

森を抜けるまでに、アルヘルムが並足と 速足(はやあし) を交互に繰り返してくれたおかげで大分馬のスピードに慣れてきたが、いきなりの駆け足にアルヘルムの胸にぎゅっとしがみつく。

アルヘルムの広い胸板に、華奢なアデライーデはすっぽりと収まってしまう。左手で手綱を、右腕でアデライーデをしっかりと抱きアルヘルムは馬を駆けた。

どのくらい走っただろうか…

「もう、目を開けても良いですよ」

気がつくと馬はとまっていて、声をかけられて恐る恐る目を開けると目の前にアルヘルムの顔があった。

--近いー!

抱きついていたのはアデライーデだが、ぐいとアルヘルムを胸を押すと困ったような顔をしたアルヘルムは「怖がらせ過ぎたかな…ほら、前を見て」とアデライーデの前を見る。

「あ……」

二人はネモフィラの大海のような花畑の中にいた。

ネモフィラは 瑠璃唐草(るりからくさ) と呼ばれ、丸みをおびた青い可憐な花である。

見渡す限りの丘一面のネモフィラの青の中。空の青と混ざりあって何処までも青い。

アルヘルムはアデライーデを馬から降ろすと手を引き歩き始めた。

まるで空の上を歩いているような幻想な景色に、アデライーデはアルヘルムに黙って手を引かれていた。

「ここに来るにはどうしても、馬でなければ来れないのでね」

「それで馬で来たのですか?」

「あぁ、貴女に見せたくてね」

「よくここにはいらっしゃるのですか」

「春のこの時期だけだが。政務に疲れた時に時々ね」

そう言って、立ち止まると彼方を指差した。

「あちらは空の青」

ネモフィラと空の青がグラデーションをつくっている。

振り返って「あちらは海の青」そう指差す方には海の青と混じり合ってキラキラする青がある。

「ここに立つと空と海が交じるのが見える…」

「本当に…今まで見たことも無いようなきれいな景色だわ」

圧倒的な青の景色の美しさにうっとりと見ていると、アルヘルムがアデライーデを抱き寄せた。

「貴女の青だ」

「え?」

急に近くなったアルヘルムに鼓動が激しくなる。

「この花は貴女の瞳の色と同じだ。淡い青の瞳を見てここに連れてきたいと思ったんだよ」

「私の?」

「そうだ。バルクに来て自分の場所はここだと。嫁いできて後悔しないような…貴女が気に入ってくれるところが、この国に1つでもできればいいと思った」

アルヘルムの指がアデライーデの頬を包む。

「後悔などしてませんわ。それどころかとても楽しみなのですよ。ここもとても気に入りました。とっても素敵な場所なのですもの」

アデライーデが、アルヘルムを見上げてそう答えると「気に入ってもらえて良かった」とアデライーデの髪を撫でた。

「来年もここに来ましょう。花の盛りに」

「ええ。きっと」

アデライーデが笑ってそう答えるとアルヘルムは、アデライーデの額にキスをして「そろそろ港町に行きましょう。馬も十分休めたはずだ」とアデライーデの手を引いて歩き出した。

繋ぐ手が熱い。

馬はやっと来たかと言うような顔をして、こっちを見るとアデライーデ達に脇腹を寄せた。利口な馬だ…

アデライーデの腰を抱えひょいと馬に載せたアルヘルムは、メーアブルグに向かって馬を進めた。

花畑の入り口に控えていた騎士達もアルヘルムのあとに続くとメーアブルグを目指す。30分程して街につくと街の入り口の大きな建物の前にメーアブルグ代官らが勢揃いしていた。

「国王陛下、並びに正妃陛下。ご結婚おめでとうございます。そしてメーアブルグへの行幸、ありがたき事にございます」

筆頭代官が恭しく2人を出迎えた。

「ヴェルフ、出迎え大義であったな。今日もお忍びだ。出迎えだけで十分だ」アルヘルムはアデライーデを馬から下ろすと出迎えの代官達の労をねぎらった。

「お出迎えありがとうございます。どうぞ気を使わないで下さい」

アデライーデもアルヘルムに続いて挨拶をする。

ヴェルフと呼ばれた代官は日に焼けたガッチリした大柄な初老の男性だった。港町の男性らしくなかなかに厳つい面立ちである。

「馬をお預かりいたします。警備だけお任せ下さればいつもの様に…。あちらに着替えを用意しております」

そう言うと、礼をして下がっていった。

「いつものようにですか?」

「視察の時は、庶民の服を色々借りるのですよ。少し失礼します」

そう言うとアデライーデを騎士達に預け、アルヘルムは着替えにいった。