軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53 二枝 --ふたえだ

「マイヤー夫人…これは持たないといけないものなのでしょうか…」

「ええ、持たないといけません」

問うた女官に、キリッ!と答えるマイヤー夫人の両手には、茂った枝があった…

フィリップ達を見つけた女官と2人、両手に茂った枝を持ちその枝に隠れながら?(隠れているかは…別として)アデライーデとフィリップの近くのちょっと離れた茂みに二人で潜んでいた。

フィリップの居場所を知らせてくれた女官を伴い庭園に来たマイヤー夫人は、遠くに3人の姿を見つけると手近にあった木の枝を力任せに2本ボキリと手折った。

--えっ!!

女官はいきなりの事に声も出せずに驚いた。

「お持ちなさい」

マイヤー夫人に、当たり前のように枝を渡されてどうしていいかわからずにいるとマイヤー夫人は続けて枝を2本手折り(!)、両手に1本ずつ持って隠れながら?フィリップ達に、近づいていく…

え?え??

それでも上司であるマイヤー夫人に逆らえるわけもなく、同じように枝を両手に持ちマイヤー夫人の後をついていく。

少し離れた茂みから枝越しに3人を見ると、皇女様とフィリップ様はベンチに座り楽しそうに話している後ろ姿が見える。

皇女様付きの侍女はベンチの後ろに立っていた。

「ここではあまり聞こえませんね…」

そう言うとマイヤー夫人は、果敢に3人に近づいていく…

--見つかったら、どう言い訳するんですかー!

女官は心の中で悲鳴を上げた。

そんな女官に気がついたのか、マイヤー夫人は振り返えると小声で「何をしているのです…行きますよ」とささやく。

--行くんですかぁ…

1番近い茂みに、運良く(?)着くとアデライーデとフィリップが楽しそうにベンチで話しているのか聞こえた。

「書き取りも計算も、あまり好きではありません…」

「あら…そうなの?」

「はい…」

「フィリップ王子は何がお好き?」

「剣術や乗馬の稽古が好きです」

「体を動かす方が好きなのね?」

「はい!」

--男の子はそんなものよね。興味が出れば俄然頑張るけど、好きと思えないとなかなか…。裕人にも苦労させられたわ…。

九九と繰り上がりの計算の時は付きっきりで教えたっけ。覚えてしまうと何でもないけど、覚えるまでがねぇ。

本人も大変だろうけど、家庭教師も大変だわ。

と、昔を懐かしんでいるとフィリップが嬉しそうに話しかけた。

「今度、一人で馬に乗る事になったのです!鞍も作って貰いました」

「一人で?」

「はい、今までは小型の馬だったのですが今度から大人と同じ大きさの馬になります。とっても楽しみなんです」

フィリップによると、ポニーの様な小型の馬から乗っていき身長に合わせて小型→中型→普通サイズの馬と慣れさせていくらしい。

--補助輪付の自転車から補助輪が取れたって、感じかしら。

「それは、楽しみね。鞍はもう出来ているの?」

「はい! この前見せてもらったから 厩舎(きゅうしゃ) にもうあるはずです。お見せしますから厩舎に行きましょう!」

アデライーデの手を取ってフィリップが立ち上がった。

「伏せて!」

小声でマイヤー夫人が指示を出す。女官はしゃがむと枝で頭を隠しギュッと目をつぶった。

--見つかりませんように…見つかりませんように…こんな姿を見られませんように!

3人が厩舎に行くのを確認するとマイヤー夫人は女官に振り返った。

「厩舎に行かれたようですね… 何を目をつぶっているのです? それではどこに行かれるかわからないでしょう?枝を持っているのですから、ちゃんとご様子を見て。話も聞くのですよ」

--無理ーー!!

しかし口にはできず、「申し訳ございません…」と謝罪するとマイヤー夫人は許してくれた。

「仕方ありません。貴女は初めてですからね。次から気をつけなさい。行きますよ」と言い3人の後を追いかけ始めた。

女官は後をついて行きながら、女官は自分一人なのを納得したのだ。

--それで誰も付いて来てないのね…みんなひどいわ!

そう…彼女以外の女官は一度は経験があるのだ。だから皆王宮内を探しても庭園は探さない。犠牲は最小限で良いのだ。

「………何をしているのだ?マイヤー夫人は…」

「………。」

庭園を横切って王宮に登城しようとしていたタクシスはマイヤー夫人が女官を伴い枝を掲げて移動している様を見て呆気に取られて隣にいたナッサウ侍従長に聞く。

「……マイヤー夫人はきっと、フィリップ様を見守られているのでしょう」

ナッサウ侍従長が、顔色も変えずに重々しく答えた。

「あれで?」思わず指差したタクシスは、貴婦人に失礼な事をしたと引っ込めた。

「陛下がお小さい頃から、あの姿で見守られておりました」

伝統?

「ご一緒にタクシス様もでございますよ」

「は?え? 俺も?」思わず素で聞いてしまった…

「お2人はよく家庭教師からお逃げになっていましたからね…ああやって危ないことをしないか、マイヤー夫人は見守っておりました」

「ああすれば、子供は気が付かないと思っているようですよ」

ナッサウは、にこりとタクシスに笑いかける。

「大人には丸見えです。が、それを言わないのが大人というものでございますよ」そう答えると、呆然としているタクシスにお時間が迫っておりますと告げ登城を急かした。