軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

458 お揃いのセーラー服

「ふむ。ノアーデンの姫君は太刀筋がとてもよろしいですな」

「そうなの?」

「はい。姫君の太刀筋は……で……が……ですから」

と、離宮の警備隊長であるラインハートは詳しく話してくれたが、剣どころか竹刀も木刀も持った経験がない陽子さんは、説明を聞いてもちんぷんかんぷんである。

ただ、フィリップとの稽古をみていても努力する姿勢は言葉多く褒めるが、太刀筋を手放しに褒めたりしないラインハートがリネアの太刀筋を口にするのだからリネアには余程剣術の才能があるのだろう。

そう思いつつ、視線を前に向け兵士達に混じって汗を流しているフィリップとリネアの訓練を眺めながらお茶に口をつけた。

ノアーデン一行がバルクに滞在するのは約2週間。その間休養日以外の予定はリネアもみっちり組まれていた。だが本日はペルレ島でのノアーデンに発注していた巡回艦や護衛艦の引き渡し日で、迎えるのは軍の一部とアルヘルムとタクシスのみ。移動途中にリネアが抜けても貴族達には分かりにくいからだ。

離宮への再訪問日はこの日に決まり、午前中リネアは目立たぬ馬車でフィリップと共に離宮を訪れた。

「リネア様、フィリップ様。ようこそ、離宮へ。またお会いできて嬉しいわ」

「お招きありがとうございます。お誘いを感謝致しております」

玄関で出迎えたアデライーデに、リネアは王女らしく優雅なカーテシィで応える。

今日のリネアは白銀に近いストレートの長い金髪を緩くハーフアップに編みあげ、銀糸の小花の刺繍が施された淡いピンクのシルクタフタのドレスを纏っていた。

ー本当にお人形のようにきれいねぇ。フィリップ様と並ぶと西洋版のお雛様みたい。

そんな事を思いながら二人を笑顔で出迎えて、まずはお茶の用意されている居間に招いた。もちろん今日もアメリーは臨時の侍女としてミア達と一緒に壁際に控えている。

まだ少し緊張気味のリネアにリラックスして貰おうと、琥珀糖やカルメ焼きを摘みながらリネアのノアーデンの暮らしやバルクに招かれてからの話など当たり障りのない話題を肴にお茶を飲む。

最初は緊張していたリネアも、同じ年頃のアデライーデが自分の話を興味深く聞いてくれているとわかったからか、段々と緊張もほぐれてきて自然な笑顔が出るようになった。

和やかである。

「え、ほんとに?」

「それって見てみたいわ」

「では、今度お贈り致しますね」

居間には三人の少し砕けた口調になったおしゃべりの声が満ちる。

控えるレナードやミア達もころころと笑い合いながらおしゃべりをする三人を微笑ましく見ていた。

ただ一人リネア付きのあの女官だけが、貼り付けた笑顔を崩さず、この歓談を見守り続けている事を除いては。

ー姫様。その調子です。お願いですから、そのままでいてくださいね! お相手は帝国の皇女様なのですから! 失礼無きように! このまま無事に1日が終わりますように!

だが、そのリネア付きの女官エディットの願いは、その後のアデライーデのひと言によって無残にも砕かれる。

「そうそう、リネア様は剣術の嗜みもあるんですよね? フィリップ様からお聞きしましたわ」

「はい! 我が国では女性も剣術を教えられます。もしかしてアデライーデ様もですか?」

ーぎゃー! 姫様ぁ! それを皇女様に聞くんですかぁ??

貼り付けた笑顔はそのままで、エディットの顔色が段々青白くなっていった。

「いいえ、私に剣術の嗜みはないんですが、応援するのは大好きなのです」

そう。陽子さんは運動するのは苦手だが、オリンピックや駅伝中継を観るのは好きなのだ。高校の時剣道部に憧れの先輩がいて、学校の武道大会でこっそり応援した思い出がある。

「あ、母上も好きだと思いますよ。若い頃一通り剣術は教えられたと聞いてます。乗馬が特に好きだったとも」

「まぁ…、テレサ様も剣術をお嗜みに? それにアデライーデ様は剣術にご理解があるのですね」

他国の貴族令嬢は剣術を嗜まないと教えられていたリネアは驚き、テレサが同じ嗜みを持ちアデライーデが女性が剣術をするのに理解があると聞いて目を輝かせた。

「ええ。で、もし良かったらなのですが、この後離宮の警備隊とご一緒に訓練に参加されませんか?」

ーな、な、な、なにをおっしゃる皇女様!! 姫様!お断りを!

アデライーデの突然の申し出に、口をパクパクさせたエディットが「姫様、本日はお支度のご用意がございません」と、リネアに声をかけようとするより早くフィリップが「良いですね!」と、返事をした。

「離宮の訓練場にはアデライーデ様が作らせた『波乗り装置』があるんですよ」

「まぁ、その『波乗り装置』ってなんですの?」

フィリップが以前アデライーデが作らせた簡単な船の揺れを再現する 疑似体験装置(シミュレーター) の話をすると、リネアは目を輝かせて是非体験したいと言い出した。

「でも…私、本日はドレスしか…」

ーそうそう! 本日は予備もドレスしかご用意がございませんよ。

リネアがちょっと残念そうに言いエディットがほっとしていると、アデライーデはそこは抜かりがないという顔をしてリネアに微笑みかける。

「大丈夫ですよ。そう思って勝手ですが、こちらでご用意しておきましたの」

アデライーデがそう言うと、ミア達が隣の部屋からセーラー服を羽織らせた二体のトルソーを運び込んだ。

日本の水兵さんが着るような白の上着に三本ラインの入った紺の大きな襟に紺のリボン。一体は普通の紺色トラウザーズだが、もう一体は一見細身の紺地のスカートに見えるが、ゆったりとしたキュロットに仕立ててあるものだ。

「以前テレサ様達とお話をしていて、新しくできる護衛艦の制服にしようかと思っている服なのです」

「素敵ですわ。大きな襟なのですね」

「これは、甲板で音を聞きやすくするように大きくなってます」

アデライーデの説明に、ミアはすっとセーラー服の襟を立てて見せた。

「せっかくだからお二人には『お揃い』でと、思いましたの」

同じ髪と瞳の色が多いバルクには自分の色を贈る習慣はあまりない。それでも婚約者同士は二人に 因(ちな) む色の物を揃いで持ったり、衣装の差し色に使ったりする。

アデライーデの言葉にフィリップとリネアは頬を赤らめ、エディットは諦観の色をした瞳で事の成り行きを見守った。