作品タイトル不明
43 対面
アルヘルムとの晩餐も終わり、自室に戻ると先程のメイド達が入浴のお手伝いをとやってきた。
「ありがとう。では入浴はメイドさん達にお願いしようかしら。マリアは食事がまだでしょう?」
「アデライーデ様、私は後でも大丈夫でございます」
「人手があるときはお願いするのも大事な事よ。お互いに慣れない環境なのだから、気が付かないうちに疲れが溜まっていることもあるわ」
メイドの一人が、一歩進み出る。
「侍女様のお食事もお持ちしております」
「ありがとう。流石ね。マリア冷めないうちにいただかないと」
「わかりました。ドレスだけお預かりしますわ」
マリアは渋々ながらメイド達に入浴を任せることにした。
支度前の入浴でメイド達の手際の良さは見ている。
「それではアデライーデ様の入浴をお願いしますね」
メイド達にお願いすると、アデライーデの脱いだドレスを持って出ていった。
アデライーデは3人のメイド達に入浴を手伝ってもらい、今日の晩餐のメニューの話で盛り上がった。海老のアクアパッツァは料理長自慢の一品らしく国外からの賓客に好評だと言う。
明日の陛下のご家族や重鎮貴族たちとの顔合わせは午後からだから、午前はゆっくりしていいらしい。
ふかふかのベッドに入るとどっと疲れが襲ってくる。
--明日はたくさんの人に会うのよね。結婚式前の親族紹介みたいな感じになるのかしら…。午後からだからお茶しながら?
そんなことを考えているとすぐに意識は遠のいた。
翌朝目を覚ますと、いつもより少し陽は高く登っていたので、昼食と兼ねてブランチをお願いし、午後からのアルヘルム様のご家族や重鎮達へのご紹介に備えた。
午後になり、陛下から贈られたドレスとお飾りで貴賓室に向かうと既に入室していたアルヘルムとタクシスに、笑顔で迎えられた。
先導してくれたマイヤー夫人が他の女官やヨハン・ベックと並んで控える。
「ゆっくりできましたか?」
アルヘルムがアデライーデを気遣い声をかけてきた。
「ええ、おかげさまでゆっくり休めましたわ」
--午後からにしてくれて本当に良かったわ。おかげ様で大分疲れは取れましたよ。
「今から家族を紹介しますが、お声がけをお願いできますでしょうか」
「もちろんですわ」
2人の会話が済むと、侍従の一人が「ご入室でございます」と告げ扉を開く。次の間から男性を筆頭に入室があった。
アルヘルムとアデライーデの前に1列に並ぶ。
「アデライーデ様、紹介します。先王ご夫妻はすでに亡く、私の兄弟はこの弟のゲオルグだけです」
紹介されたゲオルグは一歩前に進み出て胸に手を当て挨拶をした。
「お初にお目にかかり光栄です、ゲオルグ・バルクと申します」
アルヘルムによく似た顔立ちで、同じ濃茶の髪と黒みががったグリーンの瞳の20代半ばの男性だった。
「私の同母弟で今年25になります」
アデライーデは軽く会釈し「初めまして、アデライーデと申します」と挨拶をした。
--そうか…異母兄弟がいる場合もあるのね。裕人と同じくらいね
「妃のテレサです」
紹介されたテレサは一歩前に進み出て、深いカーテシィをした。
「テレサと申します」
明るい茶色の髪を結い上げたテレサは落ち着いた30才くらい優しげな顔立ちの美しい女性で茶色の瞳は緊張している風だった
--薫と同じ年くらいかしら。年上の奥様なのね
アデライーデの「初めまして」との挨拶を受けると、テレサは隣の男の子達に前に出るように促した。
ムスッとした10才くらいの明るい栗色の髪の 闊達(かったつ) そうな男の子は一歩前に出ると、その茶色い目でアデライーデを睨んでいた。
同じ髪と瞳の幼稚園児位の男の子は乳母に手を引かれて笑いながらもじもじしている。
3人目は女の子のようで2才くらいのようで乳母の腕の中ですやすや寝ていた。午後のお昼寝の時間のようだ。
ーーあらまぁ、ご機嫌斜めねぇ。この年だとこういう席は不機嫌になる子がいるわよね。
「第1王子のフィリップ、第2王子のカール、そして第1王女のブランシュです」
アルヘルムがそう紹介するとテレサがフィリップに小声で「ご挨拶は?」と声をかけるがフィリップはアデライーデを睨んだまま動かない。
ーー第1王子?ゲオルグ様のお子さんじゃなくて、アルヘルム様の子なの?
アデライーデが戸惑っているとテレサがフィリップの背に手を添えて「ご挨拶しましょうね」と優しく声をかけた瞬間、フィリップはアデライーデを睨んだまま指差して大声で叫んだ。
「母上を追い出そうとしているくせに!お前なんか帰れ!」
「フィリップ!」
アルヘルムの怒声が飛ぶと、隣にいたカールがびっくりして泣き出してしまった。そしてその泣き声につられて今まで大人しく寝ていたブランシュまで起きて泣き始める。
あっという間に貴賓室に、子供達の泣き声が響き渡った。
タクシスが乳母たちに「退室を」と短く指示を出すと、乳母達と一緒にテレサがフィリップを引きずるように連れて退出していった。
「アデライーデ様、愚息が失礼をいたし大変申し訳ございません。愚息に代わり謝罪いたします」
アルヘルムは、アデライーデに膝をついて侘びた。
この非礼を理由に輿入れの取りやめになどなったら、帝国からどのような報復があるかわからない。ましてアデライーデが噂通り正統な皇女だった場合、バルク国など帝国の前に簡単に消し飛ぶ…
アルヘルムは今更ながら、この婚姻の重さを思い知らされた。
上手く行けばいいが、そうでない場合この国は…
「私からも甥に代わりましてお詫び申し上げます。何卒、お慈悲を」
ゲオルグもアルヘルムの横で膝をつく。
青ざめて成り行きを見守っていたタクシスを始め使用人全てが、深々とアデライーデに頭を下げている。
「膝を上げてください、お二人共。年端のゆかぬ子供のことですし。戸惑われているだけでフィリップ様はお母様が大好きなのでしょう」
ーー私もこの状況に戸惑っているのよ…早く顔を上げて!
なかなか膝をあげないアルヘルムに陽子さんは実力行使で、アルヘルムの手をとり「さぁ」と声をかけた。
ようやくアルヘルムは膝をあげアデライーデの手をとりかえした。
「愚息をお赦しいただけるのでしょうか」
「赦すも赦さないも子供のしたことですし、私は気にしてなどおりません」
「寛大なお言葉、感謝いたします」
アルヘルムは再度頭を下げた。
「お慈悲をありがとうございます」
ゲオルグも膝をあげ礼をする。
「ゲオルグ殿下もお気になさらずに。アルヘルム様、次は要職の方々へのご挨拶でしたでしょうか?」と、笑顔で言うとアルヘルムは安堵した顔をしアデライーデをエスコートし謁見の間に移動した。
謁見の間でバルク国の大臣達や高位貴族からの挨拶を受けたが、陽子さんは別のことを考えていた。
--テレサ様は、アルヘルム様の妃なのね。で、フィリップ様を筆頭に3人お子様がいる…早熟なこの世界で30前後なら日本の40くらいのイメージかしら。
--そりゃあ結婚して跡継ぎもいるのが普通よね。まして国王なら跡継ぎ残すのも役目の一つだろうし…お父様も12人も子供が居たし。アラサーでこれから結婚が普通の日本とは違うわよね。
--つまり子供もいるバルクご夫妻のところに、中学生2年生の女の子がやって来て正妻になるから奥さんを第2夫人にしましょうねって話なのよね。紫の上と女三宮みたいに、身分が上だと後から来ても年下でも正妻なのね。
--いくら王族でそれは国の為なら当たり前と言われても、あのくらいの年の子には受け入れられないわ…。まして男の子でしょう。お母さんは僕が守る!ってなるわね…。
アデライーデは貴族の挨拶を受け終わると、慣れぬ事をしたので今日は、早く休みますと、なにか言いたそうなアルヘルムに気が付かないふりをして笑顔で早々に自室に引き上げた。
部屋に戻ると、マリアは何も言わずお風呂の用意をしてくれ入念なマッサージをしてくれる…。「今日は美容マッサージではなくお疲れを取るためのマッサージにしますね」と。
--マリア…良い子だわ。
マッサージが終わり部屋着に着替えを済ますと、ブーケがアルヘルムから届けられた。「お詫びと感謝を込めて」とのメッセージ付きのブーケを受け取ると陽子さんはため息をついた。
--国の公式行事に未成年を出さない理由がよくわかったわ…許す方も許される方も後始末に大変なんだわ。
--確かに親族の冠婚葬祭で子供がやらかして、後々親の躾がどうのと言われるけど国レベルだとヒソヒソ話くらいじゃ済まないって事よね。
マリアにブーケを渡し、夕食は一緒に食べましょうと誘うとマイヤー夫人にメイド達の食事のお手伝いの許可は貰っているらしく「ご一緒させていただきますわ」とすんなり返事をされた。
その日の夕食はお魚づくしのコース料理だったので、料理の話をあれやこれやとマリアとして、寝る前いつものようにワインを頼むと飲み慣れた赤ワインが出てきた。
驚いているとマリアが「お輿入れの品の中にちゃんと入れていただいています。ベック文官に出してきていただきました」と言いながらグラスを用意する。
「ありがとう。さすがマリアね」
「アデライーデ様付きの侍女でございますから」
マリアが出ていくと陽子さんはグラスにワインを注いだ。