軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

396 妖精と妖精の家

「何度言わせるの? 私が選んだものを全部渡しなさいって言っているでしょう?!」

「……先ほどもお話した通り、フォルトゥナガルテンでは、一つの家で買えるのは一つだけという決まりなんです。一つだけお選びください」

その家の妖精は震える声で打たれた頬を押さえながら、それでもカトリーヌにフォルトゥナガルテンの 規則(ルール) を告げた。

「それがおかしいのよ、いい? 王族から目をかけられるのは栄誉なのよ? それを断るのは不敬なの。まして買い上げると言っているでしょ?! 他国の王族にも失礼だわ。こんな規則無いほうが余程バルクの為になるのよ?」

「夫人。ここはバルクです。バルクにはバルクの考えがあっての規則です。我らは客人で、客人は 主(あるじ) の決めた趣向の中で楽しむべきかと…」

エリアスが今にも妖精に掴みかからんばかりのカトリーヌの前に立ち、その背に妖精を庇う。

「その趣向がおかしいといっているのよ。小国で他国の王族を喜ばせるやり方がわかってないだけなのよ。後でアデライーデにも伝えるわ。きっと感謝されるはずよ!」

バルクにいれるのは今夜までで、茶会で思うようにアデライーデと関われなかったカトリーヌは、何としてもバルクに関われるきっかけを作るために必死だった。

「その規則を決めたのは私です。そしてそれを変えるつもりはありません」

興奮して大声をあげていたカトリーヌの後ろから、アデライーデが静かに声をかけた。

「ここに…フォルトゥナガルテンにある全てのガラス製品は、バルクの最高級品です。一人のお客様に全て買い占められてしまうと、すぐに補充はできません。だからこその規則で、またどなたにも一つしか選べないという制限を楽しみとしてもらう為に私が決めました」

突然妖精の姿をしマリアを従え現れたアデライーデに、エリアスは帝国式の最上の礼をとる。振り返ったカトリーヌはふるふると震えながらアデライーデを睨んでいた。

「バルク国正妃様に、夫人の失礼をお詫び致します。夫人はあまりのバルク国のガラス製品の美しさに心を乱したようでございます。御前を失礼させて…」

「心を乱してなんかいないわ! 私はよりバルクの為になる事を教えてあげているのよ!」

場を穏便に収めようとするエリアスの言葉をカトリーヌは叫ぶように遮った。

その言葉を聞いてアデライーデは、はぁ…と小さくため息をつくと、エリアスに微笑んだ。

「クレーヴェ公爵、外でお待ちになってもらっていいですか? 少しあなたの奥さんとお話があります。マリア、妖精さん達を下げさせて。そして、誰もこの家に入って来ないようにしてくれる?」

「アデライーデ様?」

いつものんびりとしているアデライーデの声音と違い、ぴりっと厳しい口調にマリアも戸惑いを隠せなかった。

「早く」

「は、はい」

エリアスも戸惑いを隠せない顔をしたが、この場で一番地位の高いアデライーデの命令に逆らえない。マリアは震えている妖精の肩を抱きながら扉に向かい、エリアスはそれ以上カトリーヌを庇うことなく、その扉を閉めた。

ぱたん。

扉が閉まったのを陽子さんは確認してカトリーヌに目を向けた。

「カトリーヌさん、ちょっといいかしら?」

「失礼な! 姉に対する言葉遣いも礼儀も弁えてないの?!」

「今の貴女を姉とは扱いたくないわね。ちょっと落ち着きなさい」

激昂し噛み付いてくるカトリーヌに陽子さんはしれっと応える。

ー懐かしいわね。薫の反抗期もこんな感じだったわ。

触るものみな傷つけるって感じできゃんきゃん言ってたわね。

娘の薫は、ちょうど反抗期と部活の人間関係の悩みが重なって家の中で荒れてた。当たり散らかす相手は主に同性であった母の陽子さんにだ。

逆に 祐人(ひろと) は、ムスッと押しだまりこちらの話は聞かず、自分の要求だけしてくるような反抗期だった。

そんな子供達の反抗期を育て上げた 経験(よゆう) で、陽子さんは、カトリーヌを見ていた。

が、傍目には19歳と15歳である。

「くっ!」

カトリーヌは大きく振り上げた扇でアデライーデを打ち据えようと扇を振りかぶった。

すかっ

すかっ

カトリーヌの扇は2度空を切る。

陽子さんはフットワーク軽く大ぶりのカトリーヌの扇を避けた。

アデライーデが着ている妖精の服は現代のワンピースに近い。そして毎日のお散歩とこっそりしているラジオ体操でキープしている10代の体力と視力。

対してカトリーヌも十代だが着ている服はスカートが広がった動きづらい重いドレスである。陽子さんの目から見てもカトリーヌの動きはとてもゆっくりだった。

「生意気に避けるなんて!」

「避けるの、当たり前でしょ」

もとより当たる気なんてサラサラない。

痛いのはごめんだからである。

カトリーヌの扇をあえて受けていた離宮のメイド達は打たれなければより酷い罰があるから敢えて受けていただけである。

「さて、動いたところで気が済んだ?」

「……」

「貴女、私経由でバルクと繋がりを持つようにお祖父さんのダランベール侯爵に言いつけられているんでしょ? でも、残念ながらそれはできないわね」

「バカなの? お祖父様と懇意になればよりバルクの利益はでるのよ」

「より利益が出るのはダランベールさんでしょ? バルクは今のままで十分よ。むしろこれ以上の速すぎる発展はどこかに無理させるから必要ないわね」

「なにを言ってるの? せっかく目をかけてやろうとしてあげているのに」

「大きなお世話よ。貴女がなにを言おうとも、私からアルヘルム様に何か働きかける事はしないわ。でも、なんにも出来なかったとは言いづらいだろうから、私と手紙のやりとりを約束したと言うと良いわ。それで当分お祖父さんを黙らせる事は出来るはずよ」

「………」

カトリーヌがきゃんきゃん怒鳴っているのは、ダランベールから期待された事をこなせない焦りからだと陽子さんは思って、とりあえずの手柄を持たせる為に手紙のやりとりをしてあげると条件をぶら下げた。

思った通り、険しかったカトリーヌの表情が少し緩んだ。

マリアに馬車で聞いた話の一つに、帝国では皇族公爵もちろん下位の貴族も帝国の許可がない限り、他国に出ることはできないと聞いた。

来年以降のフォルトゥナガルテンへの帝国の招待客に、カトリーヌとダランベールは暫く入らないと思いたい。なんなら皇后様にそれとなくご遠慮したいと手紙を書けば、彼らと今後会うこともないだろう。会っても数年先だと願いたいところだ。

ーこの子の気が他に行ってるうちに、早く退散しましょ

言う事は言った。手柄話も持たせた。

あとは、おさらばするだけだ。

「この話はこれでお仕舞いよ。でも、せっかくフォルトゥナガルテンに来てくれたんだから、新婚の旦那さまと楽しんで行って」

アデライーデがそう言って、マリアを呼ぼうと扉に向かおうとした時にカトリーヌがボソリと呟いた。

「新婚……エリアスと楽しんで…ですって?」

ーん?

カトリーヌの呟きに、陽子さんは思わず足を止めて振り返ってしまった。