軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

389 帰国報告と新婚夫妻

「アデライーデ様、シリングスご夫妻が帰国のご挨拶に来られました」

「時間通りね。こちらにお通しして」

レナードの案内に嬉々として答えたアデライーデは、二人を迎えるべくソファから立ち上がった。

シリングス夫妻は、居間に入るとすぐにアデライーデに帰国の挨拶をした。

「お久しゅうございます。過日帝国での披露宴をすませ、本日は帰国のご挨拶に参りました。私達の結婚にご尽力いただき、心よりのお礼を申し上げます」

「お帰りなさい。結婚おめでとう。帰国を兼ねた新婚旅行はどうだった?」

幸せそうな二人は、にこにこと顔を見合わせる。

「はい、アメリーに帝国の博物館や美術館を案内してもらい目を肥やさせてもらいました。バルクでは滅多に見ることの無い素晴らしい細工物もあり、今後の螺鈿細工の役に立つのではないかと思います」

「今回初めてライエン伯領の旦那様のそろばん工房の予定地を訪れましたが、森の近くでとても景色の良いところでした。私、森は初めて訪れたのですが、旦那様に色々な木々や植物を詳しく教えて貰って、とても勉強になりました」

今まで「アメリー様、コーエン様」と呼び合っていた二人が「アメリー、旦那様」と呼びあう姿はマリア達の目に眩しく映ったらしく、羨ましそうな顔をしていた。

「楽しかった?」

「はい、とても」

アデライーデの質問に、二人が頬を染めて見つめ合う姿を見て、内心の陽子さんの頬が緩む。

薫達が新婚旅行から帰ってきたら、こんな感じで報告に来るのかとちょっと想像したが、薫は「お母さん、これお土産! 楽しかったけど胃もたれた! 暫くお肉は見たくない」と、言ってそうだし(実際、留学して帰って来た時の第一声がこれだった)、 裕人(ひろと) は、「ん、楽しかった」と父親譲りの口数の少なさでお土産を渡してきそうだなと、苦笑した。

ーまぁ、どんな報告でも楽しかったと聞ければ幸いよね。

エマ達にお茶を用意してもらってソファに座ると、アデライーデに代わってマリア達が詳しく新婚旅行の話を聞き始めた。

話題に花が咲き、お茶をポットで交換するくらいになった頃には、日も傾きはじめレナードの声かけで解散となった。

コーエン達は、アルヘルムから下賜された土地に先に工房を建てたため暫くは村の家で過ごす。工房は既に完成しているので、コーエンは屋敷が完成するまで村の自宅から新工房に通うらしい。

「お屋敷の完成迄にどのくらいかかるの?」

「そうですね。設計図を拝見させていただきましたが、そう大きくはないので二、三年程ではないでしょうか。お子様がおできになり歩き始める頃には完成するかと思います」

アデライーデの問いにレナードはさらりと答えた。

「え? 二、三年も?」

「早い方でございます。規模や様式によってはもっとかかる場合もございます。新男爵家で出来るだけ簡素にとシリングス卿が希望されたので、規模も部屋数も少なくしてそれくらいですね」

ー確かに現代と違って全て手作業だけど、そんなにかかるんだ。

陽子さんちが家を建てた時にも1年程度かかったが、土地探しと手続きを除いた工事期間は半年程度。だがしかし、現代の一般庶民の家と貴族の家を比べるのはどだい無理な話である。

「ちなみにこの離宮って、建築までどのくらいかかったの?」

「十二年程と聞いております」

さすが小国とはいえど、元王様達が住まう離宮である。庶民とは規模が違う。

「そう考えたら、二、三年って早い方なのね」

「さようでございますね。離宮の孤児院などは特別早かったと思いますが、貴族向けのものに時間はかかるものでございます」

ー確かにフォルトゥナガルテンの貴族向けの小劇場は、来年できるって言ってたわね。

アデライーデが納得した顔をしていると、レナードは言葉を続けた。

「それにシリングス卿宅は内装や家具も揃えなければなりません。一から揃えるとなるとそのくらいの時間があった方が、奥方様の負担も抑えられます。 設(しつら) えは奥方様の差配になりますので」

確かにと陽子さんも思った。

あの小さな家も使えるものは持ち込んだが、カーテンや家具も大分買いなおしたのだ。貴族の家ともなると揃える物の数も大変だろう。

レナードの話に頷いていると、レナードは思い出したかのように「お伝えすることがございます」とアデライーデに向き直る。

「なにかしら」

「明後日、アルヘルム様がご訪問されるとの事です」

「昨日のお手紙には、フォルトゥナガルテンの事で暫く忙しくなりそうって書かれていたんだけど…、なにかあったのかしら」

「なんでも帝国からのご招待客について、ご相談したいことがあるとの事です」

「そう。いつものように準備をお願いね。なにか新しいレシピを考えておくわ」

アデライーデはそう言って、レナードの差し出したお茶に口をつけた。