軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

364 ブレスレットと婚約者

小道の脇には点々と丸っこいランタンが置かれ、足元を明るくてらしている。少し歩くと分かれ道にきた。

辻の真ん中で器用にほうきをかけながら踊っていた若い小柄な庭妖精が、二人に声をかけてきた。

「こんばんは、見慣れないお嬢さん達。迷子かい?」

「こんばんは、妖精さん。えーっと、そうね。迷子かも」

「そうかい、迷子さん達。綺麗なのものが見たかったら、あっち。お腹が空いているなら、こっち。面白いものがみたいなら、そっちに行くといいよ」

それぞれの小道を指さすと、妖精は軽快なステップを踏みながら二人の周りで器用にほうきとダンスを踊りだす。

「案内をありがとう」と、短いダンスを終えた妖精にコインを渡して二人は『綺麗なもの』の小道に入った。

「ねぇ、ここは妖精の国って趣向なのね」

「ふふっ、そうみたい。私達迷子らしいわ」

くすくすと笑いあって歩を進めると、小さな家にたどり着いた。素朴な木と石づくりの家である。

前庭には明かり取りの 篝火(かがりび) がたかれ、白と黄色の花がたくさん植えられていた。夜目にはわからないが、ハーブも植えられているのかふわりと良い香りがする。

家の前には『ガラス妖精の家』と木の立て札があった。その下には「ノック無用。迷子歓迎」とたどたどしい文字がある。

初めて握る木の取っ手を引くと、中は見たこともないようなガラス細工で埋め尽くされていた。

室内の圧倒的なきらきらに、外の暗さに慣れた目が追いつかない。

ようやく慣れてきた目で見渡すと、たくさんの棚やテーブルにあふれるガラスで出来た髪飾りが所狭しと置かれ、それがまた蝋燭の光を弾いて部屋の中がきらきらとしている。

部屋の隅には、こちら向きに置かれた古めかしい作業台で老妖精が大きな据置きのルーペ越しに髪飾りを作っている。他には何人かの女の妖精が手に持った羽根箒で部屋の中を掃除していた。

「こんばんは。じい様は仕事中には耳が聞こえなくなるから、何か聞きたいことがあったら私達に言ってね」と、 後(うしろ) から若い女の妖精に声をかけられた。

「ここはガラス妖精の家なの?」

「そうよ。うちのじい様はその中でも髪飾りを専門に作っている職人なの」

「どれも素敵だわ。これって買えるのかしら」

「もちろん! 気に入ったものを買ってね。でも買えるのは一人ひとつまでよ」

「ひとつしか買えないの? こんなに素敵なものばかりなのに、ひとつなんて選べないわ」

マティルダが驚いて声をあげると、妖精達はくすくすと笑い出した。

「だって、この村には他にも耳飾りや首飾り、ペーパーウェイトを扱っている家もあるのよ。他のものも見たくない?欲しくない?」

妖精はおどけた顔をして、自分がしている揺れる耳飾りを指さした。

「そ……それは、見てみたいわ」

ドロテアの目が妖精の雪の結晶のような耳飾りに釘付けになって、こくりと頷いた。

「でしょう? だから、一つの家では一つだけしか買えないの。じっくり迷って選んでね」

納得した二人は悩みに悩み、マティルダは金の留め金にブドウの房のような髪飾りとドロテアは銀の留め金のマーガレットのような髪飾りに決めた。

「決まった?」

先ほどの妖精に声をかけられた。

「ええ、こちらにするわ」

「じゃ、名前をちょうだい」

素朴な木の文机に座ると、ガラスペンが差し出された。二人が決めた髪飾りの絵を妖精の一人がささっと紙に描きとった。

「ペンもガラスなのね。きれいだわ。これはどこで買えるの?」

文房具好きなドロテアが目を輝かせてガラスペンを手に取ると、妖精は自慢げにインク壺を置いた。

「どっかの家でつくってるわ」

「どこか?」

「どこの家か忘れちゃった。探してみて」

あっけらかんと妖精は笑うと、それぞれの髪飾りが描かれた紙の名前を確認して、二人に髪飾りをつけてくれた。

「とっても似合うわ。また来てね」と、妖精は二人を家から送り出すと、後から入ってこようとした人達に「こんばんは」と声をかけて家に招き入れた。

庭の篝火に照らされて二人の髪飾りが、きらきらと輝く。

「どこにどのお店があるか、教えてくれなかったわね」

「自分達で探せってことよね」

「だから、この地図なのね」

二人は目を見合わせてこくりと頷くと、篝火の近くで地図をじっくり見て一番近い家を探す。

二人のお目当ては耳飾りのお店だが、一番近い家が耳飾りの家とは限らない。

だが、家に入らないと何を取り扱っている家かわからないのだ。入ってしまってお目当てのアクセサリーでなかったとしても、買わずに家を出る自信がない。

二人は次の家の前で出てくる人を、じっと観察する。二組続けて婚約者同士と思われるカップルがブレスレットを撫でながら出てきた。

あの家はブレスレットの家だと判断した二人は、後ろ髪を引かれる思いで、次の家へ向かう。

ーいいな、婚約者とお揃いのブレスレット。羨ましい。

まだ婚約者候補しかいない二人に、揃いのブレスレットをしている幸せそうなカップルは目の毒だった。

でも候補がいるから正式な婚約者が決まれば、次は絶対ここに来てお揃いのブレスレットを買おうと、二人は心に決めた。