軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

357 幸運、幸福、勝利の女神たち

「かなり多種多様になるんだな」

アルヘルムは、その一つを取ってしげしげと見る。

謁見室の机の上に置かれた平箱の中に、ずらりとガラスのペン先と胴が並ぶ。

「はい、胴部分がガラス以外のもので作られますのでその分趣向を凝らしたものを作ることができます」

持ってきたヴィドロは、まだあるぞとばかりに次々と平箱を並べていく。

胴は、それぞれ草木や花の文様が細かく彫刻され、金箔や半貴石が埋め込まれていた。どれ一つとっても一級品であり、同じものは一つとなかった。

「胴部分は、工房の細工職人の作にございます」

「ふむ。どれも良いな」

アルヘルムがガラスペンを置いて隣の机の平箱に目をやると、そこにはまた変わった形のインク壺があった。

「これは…インク壺なのか? 置物ではなく?」

アルヘルムが指さした先には、 妖精(ニンフ) と思われる美女が泉から桶で水を汲むような仕草でインク壺を持っているものがあった。

「はい、『ただの広口のインク壺ではおもしろくない』とメラニア様からご要望があり、メラニア様お抱えの彫刻家の方々とご一緒に作らせていただいたものです」

ヴィドロがニッコリと笑って応える。

他にも、ずんぐりとした厳つい 土妖精(ドワーフ) と思われるおっさんがインク壺を抱えているものや、人魚がインク壺にもたれかかっているものもあった。

「もちろん、庶民向けにただの広口インク壺もあるぞ」

タクシスが、ひょいと摘んだそれは確かにただの広口インク壺だったが、小洒落たラベルが貼られていた。

「こちらも、同様に彫刻家の方々との合作の蝋燭カバーでございます」

蝋燭カバーも凝ったステンドグラスの物や、インク壺と同じく立像の女神が薄いヴェールを広げたものもあった。

ーヴェール部分が、ステンドグラスになっているー

アデライーデが考えたのはシンプルに筒型のカバーであったが、メラニアが「それだけではもったいない」と、囲いの彫刻家達に蝋燭カバーをテーマにして好きに作らせたのだ。

「メラニア様のお抱えの方々により、細工職人達も刺激されたのか、このようなものも作っております」

ヴィドロが取り出したそれは、ガラスの花だった。いや、花というよりススキに近い。真鍮の枝に鈴蘭のようにクリスタルが下げられている。

「傷や歪さでシャンデリアに使われなかったものや、ステンドグラスの端材で作っております。一本では見劣りがしますが、数があればそれなりに見えます」

ヴィダがキャリーカートに似た手押し車を押して、アルヘルムの前に進み出る。

手押し車の上には草が植えられた土入りの平箱が置いてあり、その箱にたくさんのガラスの花が煌めいていた。

群生する光る花達は、手押し車で押された振動で揺らめき誇らしげに光を反射させていた。

「商品にはなりませんが、ガラスの街を飾るくらいはできるかと…」

ヴィドロは恭しく頭を下げた。

ヴィドロが控えの間に下がったあと、女神の蝋燭カバーを手にとってじっくりと眺めながら呟いた。

「メラニアも、色々考えるな」

「アデライーデ様ほどではないがな」

アルヘルムが笑うと、タクシスがにやりと笑ってちょいと肩をすくめた。

「メラニアは、あるモノをいかに実用的に美しくつくらせるかという才能があるな。今回も何度も細かいところを指摘して作り直させていた。妥協を許さぬあの姿勢は見上げたものだ」

タクシスは、うんうんと真顔で真剣に惚気ける。

「そうだな。そして、テレサもな。テレサは人の目に触れぬところでの守りを作っているぞ」

こういう時は下手に褒めたりしてはいけない。延々と惚気話を聞かされる事になると、身を以て知っているアルヘルムは、刺激せずにさらりと流した。

そのテレサはひとり、ガラスの街と新しい街の警護網と緊急対応手順を作っていた。

もちろん 大綱(たいこう) は父である将軍をはじめとした軍部のものが作るのだが、それを元に自分だったらどう攻めるかを、新たに作らせたガラスの街と新しい街の立体模型にテレサのチェスの駒を置いて検証していた。

そして、穴を見つけると父将軍を呼び出して埋めているのだ。とても楽しげに。

「それは…頼もしいな…」

「あぁ。アデライーデにしてもテレサにしても…もちろんメラニアもだが、なんというか……。元々素質があるのは認めるが、これ程とはな。俺たちも、うかうかしてられないな」

くっくっと笑うアルヘルムは、手に持っていた女神をもとに戻すと、ソファにどかりと腰を下ろした。

「そうだ、ガラスの街だがな。名を付けようと思う」

「あ? あぁ、いつまでもガラスの街ではな。で、なんと名付ける。アデライーデ様はご自身の名に由来する名付けは嫌がられているんだろ?」

「あぁ、そこは頑として譲ってくれない」

「変わったお方だ」

「なので、こう名付ける。フォルトゥナガルテンだ」

「ほう。幸運、幸福、勝利の女神の庭か」

「ああ、我が国には3人の女神がいるからな」

アデライーデひとりの名を冠するのが嫌なのであれば、彼女達3人を象徴する名にすればいい。

アルヘルムは、にやりと笑った。