軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 はちみつ色のドレスとマダム・シュナイダー

アデライーデの祝賀のパーティの1時間程前にアデライーデはマリアと一緒に王族の間の控えの間にいた。

陛下からアデライーデに贈られたドレスとお飾りを身に纏っている。

今朝、先触れの時間通りにアデライーデに届けられたドレスは皇帝陛下からの贈り物に相応しく素晴らしいドレスだった。

光沢のあるはちみつ色の生地に金糸の刺繍がされ地紋の様になっている。裾の方は淡いローズ色の小花が所々刺されたっぷりのドレープが動くたびに美しく波打つドレスは皇帝陛下の贈り物の名にふさわしい一級品である。

共に贈られたお飾りは3種。

エメラルドの髪飾りと首飾り。それにサファイアの耳飾りだった。

(ベアトリーチェとエルンストの瞳の色ね…。ドレスも二人の髪の色)

この国では自分の髪や瞳の色の装身具やドレスを婚約者や夫婦は贈りあうらしい。陛下はベアトリーチェと自分…両親の色を贈ることでアデライーデの側にいる。見守っているとの思いを込めているのだろうと陽子さんは少し切なくなった。

マリアが感動してドレスの周りをぐるぐる回っている。

どの角度から見ても計算されたデザインだと興奮気味にアデライーデに説明してくれる。

イブニングドレスらしく、胸元は大胆に開いている。

ドールに着せられたドレスを見て素晴らしさに感動しつつも、14才にはちょっと背伸びさせすぎだわ…と思っているとベルが鳴った。

王族御用達デザイナーの、マダム・シュナイダーがお針子を2人連れてやって来た。お針子はトラウザーを太くしたような黒いキュロットスカートを履いている。マリアはお待ちしていましたとばかりに3人を招き入れた。

「私はシュナイダーと申します。幸運にも王宮に出入りをさせていただいております。アデライーデ様、ご婚儀おめでとうございます。そしてご披露のパーティでのドレスをつくる栄誉に預かり身に余る光栄をありがとうございます」

14才のアデライーデより小柄で、白髪をアップにしているこの高齢のご婦人…マダム・シュナイダーは、アデライーデにお祝いの言葉とドレスの製作を任されたことへの感謝を告げると淑女の挨拶をした。

「お祝いありがとうございます。マダム・シュナイダー。こんなに素敵なドレスをありがとうございます。着るのがとても楽しみです」

(依頼者は陛下だけど言うのは無粋よね)

アデライーデは軽い淑女の挨拶を返す。

「ありがとうございます。アデライーデ様。でもこのドレスはまだ完璧ではありません。今から仕上げをいたしますわ」

そう宣言すると早速マダム・シュナイダーはお針子たちに指示を出してアデライーデにドレスを着せる。

今も昔もそうだが、男性は女性のサイズを知らない事が多い。

では、ドレスを贈る場合どうするか?

あたりをつけて仕立てさせるのだ。

そんないい加減な!と思うだろうがデザイナー側も慣れたもので仕立てる際に調整できるように仕立てておく。

遊びなれた紳士などは、一度ダンスを踊れば相手の女性のサイズをピタリと当てることができるらしい…本当かどうかわからないが…

そしてドレスは女性に贈られたあと、侍女を何人も雇える高位貴族であればドレス管理をしている侍女が調整を。

そうでない場合はドレスを仕立てたデザイナーがアフターサービスとしてお針子を連れて調整に行く。

気に入ってもらえれば新規顧客の獲得である。

ドレスの調整の間のおしゃべりで、依頼主の聞きたい事や女性の好みなどをさり気なくリサーチして報告したりと、調整するのはドレスだけではないようだ。

「こちらの靴をお履きになってお試しになってください」

踵の高さの違う靴を勧められる。

ドレスの 裾(すそ) の動きが1番美しくなる高さの靴を選ぶためだ。

アデライーデはマダムの前で歩いたりカーテシィをしたりと忙しい。

マダムの納得のいく靴が選ばれると「侍女殿。首飾りはどれですか?」

マダム・シュナイダーがマリアに尋ねる。

「こちらでございます」

マリアが陛下から贈られたいくつもの大粒のエメラルドの周りに繊細な金細工が施された首飾りをアデライーデの首にかけた。

マダム・シュナイダーは

「なんと素晴らしい…」とつぶやき、アデライーデに近づいたり離れたりしながらじっくりと観察する。

ブツブツと言いながら、お針子が持参したかごの中からドレスと同色のオーガンジーに小花の刺繍がされたものを取り出しドレスの襟を縁取ってゆく。

仮止めのピンが打たれ、マダム・シュナイダーは背の高い方のお針子に目配せする。

「アデライーデ様、お針子の失礼をお許しください」

「え?」

アデライーデが意味がわからず戸惑っていると、背の高い方のお針子が自然にアデライーデの手を取って腰に手を回し、「皇女様、失礼いたします」と男性パートでダンスを始めた。

短くダンスを済ませるとアデライーデに礼をして、「マダム。問題ございません」と報告する。

満足げな笑顔でマダムが頷くと、アデライーデの試着が終わったようでドレスはドールに移されお針子達は襟のオーガンジーを丁寧に縫いつけ始める。

着替えたアデライーデとマダムはソファに移動し、マリアが淹れたお茶を飲んでお針子達の仕上げを待つこととなった。

「正式なドレスのご注文でございましたがアデライーデ様のお年では、このドレスの襟は少し開きすぎております。陛下もご覧になった時にご心配のご様子でしたので、今回は襟元をオーガンジーで飾らせていただきました」

どの父親も娘のドレスについて考えることは、同じらしい。

「こちらのドレスはお輿入れの際の品の1つとなると伺っております。ご結婚後はオーガンジーをとってお使いください。アデライーデ様に、私の最後の最高のドレスをお持ちいただける事となりとても嬉しいですわ」

マダム・シュナイダーは嬉しげな顔でそう言う。

「最後のドレスですか?」

「私、このドレスの納品でドレスデザイナーを引退しますの。ひ孫も生まれますしそろそろ孫娘にメゾンを譲りませんと…もうすぐ60ですので」

どうやら、マダムは陽子さんと同い年らしい…

(それにしてもひ孫…すごいわ。結婚年齢が低いと世代交代のサイクル早いわね)

「それは…おめでとうございます?」

「ほほほ…私、今度はベビー服と子供服のメゾンを作る予定ですのでアデライーデ様にお子様がお生まれになった時には、ぜひご贔屓に!」

流石マダム…その年まで現役ドレスデザイナーだったのは伊達ではない…

商魂も逞しい…

お針子がオーガンジーを仕上げたと報告がされると再びドレスを着せられ靴を履き首飾りをつけてのマダムの最終チェック。

それでは…失礼いたしますとマダムが部屋を出る頃にはすでにお昼の時間になっていた。

(………嫁いだらドレスは絶対作らないわ…今持っているドレスを着回すからね!)

もう午前中だけでヘロヘロになって、ランチを頬張りながら陽子さんが決心している時マリアはランチをサーブしながら心躍っていた。

(バルク国にお輿入れされれば王妃様としてバルク国風のドレスをたくさん仕立てられるはず…今から楽しみだわ〜)

別々の思惑を抱えたランチは、こうして過ぎていった。

午後からはいつもより入念にお支度をされ、パーティ前には水分を控えての軽食を取り着替えてから2人は今やっとこの王族の間の控室に来ている。

(長かったわ…でもこれからが本番なのよね……)

控えの間のドアが開き、陛下の侍従がアデライーデを呼びに来た。