軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 文官達とワイン入りのフルーツパンチ

「それでは… 王宮大書庫の皆さまのご健康と繁栄を、そしてフローリア帝国の安寧を願って…乾杯」

「アデライーデ様のご結婚を祝して」

「アデライーデ様のご健康とお幸せを願って」

只今王宮大書庫では、グラスを掲げ乾杯が交わされていた。

あれからきっちりお支度をされ、いつもより多くのお飾りをつけられた。

本は読まないのですから♪と、指輪とブレスレットも追加され本日はローズ色のドレスを纏って最後のご挨拶と王宮大書庫に来たらば、いつもは見ない文官が20名ほど並んでいた。

こんなに居たのかとびっくりしたが落ち着いて挨拶を済ませると、端の方にマルクを見つけた。

「マルク。おひさしぶりね」

アデライーデが近づくとマルクが慌てて挨拶をした。

「アデライーデ様、ご機嫌麗しゅうございます」

「そんなに畏まらないで」

「いえいえ…そんな」

…アデライーデ様の後ろの先輩方が怖いんですよ〜。

前回たまたまグリフォン様に捕まってお茶出しした後、

「どーしてお前なんだよぉ」と軽く小突き回された時の、先輩方の目が怖かった…

ここ一週間程、アデライーデ様が王宮大書庫においでくださる事がパタリと途絶え、どんよりした雰囲気になったのだ。

元々バルク国に降嫁されるとは聞いていた。短い間の大書庫通いとわかっていても何故かみんな嫁ぐ前日まで通ってくださると思い込んでいた。

今日はお出でになるかもと毎朝掃除とミントのタップダンスをして先触れを待つが…

来ない…

お昼になっても…来ない

「そうだよな。女性は嫁入り前にやる事ってたくさんあるだろうしな」

「まして、皇女様だもんなぁ」

「もう、お越しにならないのかな」

「俺…なんであの日休みをとったんだろう…」

そんな事を口々に言い、最後に決まって

「いいよな… アデライーデ様とお話できた奴は…」で締めくくられる…

マルクは汗をかきながら「いや、でも明日来てくださるかも」と誤魔化し続けたが明日は帝国でのお祝いのパーティの日。

流石に、今日いらっしゃれなければお会いできないかもしれない。

そんなどんよりした気分で掃除をしていたときに、厨房からパティシエ直々に文官殿たちは何人いてどんなグラスがどのくらいありますかとやって来た。

驚いていると、先程アデライーデ様の侍女の方がいらっしゃって、2時間ほど後のアデライーデ様がお出ましの時に、王宮大書庫の皆さんにお飲み物を振る舞いたいと頼まれたと言うのだ。

侍女も忙しく自分が先触れと場所を確認しにやってきたと、パティシエは言う。

文官達は歓喜した。

お振る舞いもそうだが、アデライーデ様は王宮大書庫を忘れていなかった。

最後にやってきてくれると喜んだ。

「まともなグラスなんてありません!人数はグリフォン様を含めて24名です!」

嬉しくてみんな自信満々にパティシエに答える…

それがどんなに情けない答えでも、今は胸を張って言える。

パティシエはやれやれと言った顔をして、では後ほどと帰って行った。

休日の文官を寮に呼びに行き、それから1時間みっちり掃除し

その後1時間かけてみんなで身だしなみを整えた。グリフォン様は少し遅れてやってくるそうだ。

そうして皆でアデライーデ様をお迎えした。

本日はローズ色のドレスをお召しで薔薇の妖精のように可憐でお美しい…

そして皆にアデライーデ様は淑女のご挨拶をしてくれた。

「アデライーデでございます。このような素晴らしい大書庫を少しの間ですが利用できた事をとても嬉しく思います。管理も分類も素晴らしい素敵な場所ですわ」

そう皆に言葉を下さった時には大書庫の文官で本当に良かったと思った。

他の部署から地味で出会いもない職場だと敬遠されがちだけどこれから皇女様に褒められた誇りを持って大書庫の文官って言えると感動した。

「皆さまに初めてお会いする日が最後の日とはとても残念ですが、王宮大書庫は私の大切な思い出の場所となりました」

…お会いするのは初めてではございません…

皆が少しぎこちなく笑う…

「?」

(変なこと言ったかしら…? あら!マルクがいるわ)

アデライーデがマルクに声をかける。

アデライーデ様は、その後マルクに声をかけられた…

くそっ!羨ましい。

「ようこそ、王宮大書庫へ」

グリフォンが笑いながら大書庫に入ってきた。

「グリフォン様!」

アデライーデはグリフォンに近づくと淑女の挨拶をした。

「本日は皆様へのご挨拶と、お借りしていた本を返却に参りました」

「これはこれは…ご丁寧に…。文官達への挨拶、痛みいります」

グリフォンはニコニコしながら返礼をする。

「お借りした紀行本、とても素晴らしい本でした。バルク国のことをより知る事ができましたわ」

「それは良かった。おすすめしたかいがあるというものですよ」

アデライーデがグリフォンと話しているときに、パティシエがやってきた。

二人の助手それぞれティーワゴンを押している。

1台のワゴンにはグラス。

もう1台のワゴンには、空の大きな硝子で出来たブランデーグラスのような形をしたパンチボールを載せていた。周りにはグリーンと花が取囲みとても美しく飾られている。

大書庫のホールの真ん中に硝子のパンチボールのワゴンを置くと、パティシエはワゴンの下からワインの瓶を取り出し硝子ボールに注ぐ。

その後、フレッシュオレンジジュースとさくらんぼジュースを混ぜ、細かく刻んだオレンジとさくらんぼと桃を入れ、スライスオレンジを入れてゆっくりとかき回し香りつけをすると、銀のレードルでワイングラスに注ぎ始めた。

ワイン入りのフルーツパンチ

人数分のワイングラスに注ぎ終わると、助手達が銀のトレイにグラスを載せて皆に配る。

全員に行き渡ると、パティシエがアデライーデとグリフォンのグラスを小ぶりな銀のトレイに載せ恭しく差し出した。

二人がグラスをとると、すっとワゴンの横に並ぶ。

「皆に行き渡ったかな? 本日アデライーデ様が皆と大書庫に感謝と言う事でのお振る舞いじゃ… 一緒に過ごせた時を感謝しようぞ」

そう言って軽くグラスを上げる。

「では、アデライーデ様。皆に一言いただけますかな?」

グリフォンが、アデライーデに水を向ける。

「それでは… 王宮大書庫の皆さまのご健康と繁栄を、そしてフローリア帝国の安寧を願って…乾杯」

「アデライーデ様のご結婚を祝して」

「アデライーデ様のご健康とお幸せを願って」

皆はグラスを軽く掲げ、アデライーデとグリフォンは軽くグラスを交わす。

パティシエ特製のフルーツパンチはとても美味しい。

ワインの味を残しつつも新鮮なフルーツの味が次々に浮かんでくるようだった。

「美味しいわ…」

パティシエはアデライーデが思わずこぼした一言に満足げに頷くと、フルーツパンチをかき混ぜていた。

「アデライーデ様、よろしければ皆に一言ずつお声がけしてくださらんか」

グリフォンはアデライーデに小さくウインクして茶目っ気たっぷりに囁いた。

(これは…園遊会とかのお声掛けって奴よね)

陽子さんは毎年春秋に放送されるテレビ放送を思い出して、近くの文官に声をかけた。

「お名前はなんと仰るのですか」

「私はディルク・クラウゼと申します。歴史書の分類を担当しております」

そして一言二言言葉を交わすとグラスを軽く交わす。

女性や貴人は口をつけるだけだが、下位の者は高齢でない限りグラスを飲み干す。

その時に祝いの言葉をできるだけ短く言うのがフローリア帝国風の習わしだ。

そうやってアデライーデは全員と言葉を交わし、祝いの言葉をもらった。

楽しい時間が過ぎるのは早いもので、マリアがそろそろお時間…と言う目配せをしてきた。

マリアがさり気なくアデライーデを誘導してくれ、皆に別れの挨拶を済ますとグリフォンに紀行本を。マルクに地図を手渡してお礼を言い大書庫のドアの前で淑女の挨拶をして大書庫を後にした。

アデライーデの護衛の騎士たちによって大書庫の扉が閉まる。

「私は今日の日を一生忘れない」

「私は今日を人生最高の日の記念日にする」

文官達は、そう口々につぶやき手のグラスを握りしめていた。

その後、王宮大書庫の郷土料理の書棚の近くの椅子の周りにポールが置かれ誰も座れなくなった。

また厨房の備品台帳から王宮大書庫にワイングラスが24個、永久貸与と記載されるようになった。

しかし…書庫長室のグラスボードの中の1つのグラス以外誰も見ることは無かった。