軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217 提案と困惑

「いろんな病気が蔓延しないために…ですわ。交易は富や新しい文化や知識を運びますが、同時に疫病など好ましくないものも運んできますから」

島に上陸するなら、先ずはお風呂に入ってもらい体を清潔にした状態でペルレ島専属の医師の診察を受け、伝染する病気を見つけた場合やお風呂や医師の診察を拒否する者は上陸を断れないかとアルヘルムに聞いてみた。

「フム…なぜお風呂なんだい?」

「1週間もの間お風呂に入れなくて不衛生だからですわ。それとお風呂あがりのさっぱりした時ならお医者さんに見てもらいやすいと思ったんです。汚れていると診察すると言ってもなかなか服を脱いで診察を受けてはくれないでしょうから」

ペルレ島には船員の希望で大浴場を建設した。当たり前だが港の浴場の料金より割高なので、浴場を利用するのは船員の半数くらいだ。浴場に行って金を払うのなら酒を飲みたいと思う船員は多い。

「義務となる診察費と浴場の利用料金はどのくらいを考えている?」

「船員からはいただきませんわ。義務なのにお金を払うとなると不満が出るでしょうから無料です。でも経費はかかりますから、その分は酒場や食堂の利益から賄います」

船長には島の衛生を保つ為と言っておき、軽い怪我ならついでに無料で手当もすると言えば協力してくれるはずだ。

閉鎖された空間である船の中で病気が蔓延すれば、生きて港に帰れない事にもなりかねない。船長としては無料で診察をしてくれるのであれば得はあっても損はない話である。

ペルレ島には水源は無く、メーアブルグから薪も水も持ち込みなので浴場の運営にはかなりの経費がかかるが、 一度(ひとたび) 疫病が流行れば島を封鎖しなくてはならない。

過去何度か商船の船員が原因と思われる病気がメーアブルグの街を襲い、その後しばらく商船の立ち入りを制限してメーアブルグは疫病からだけでなく経済的にも大打撃を受けたことがある。

そんな事になれば、せっかくの交易の足を引っ張る事になる。それを考えれば1つの経費とも言えなくはないとアルヘルムは考えていた。

「あとは揉め事の防止かしら。島に刃物とか持ち込ませない為にも、お風呂に入らせて島にいる間はガウンのような服とサンダルを貸すのも良いかもですわ」

「ふむ…」

「あと…その…船員用のホテルの従業員で女性の方の働く日を私に決めさせていただけないでしょうか?」

「働く日を決める?なぜ?」

「……そのホテル…娼館なのでしょう?」

「……アデライーデ。貴女は娼館が何か知っているのか?」

「えぇ、知識としては」

アルヘルムは、驚いてアデライーデを見つめた。

男性貴族の場合は閨教育で一通りの知識を学ぶが、女性貴族の場合は輿入れ前に初夜の心構えを教えられるくらいだ。それも夫を信じて任せていれば良いという程度だと聞いている。

娼館の話など結婚してから夫人同士の話で初めて聞くという女性貴族もいるが、慈善活動に熱心な貴族の家では結婚前に孤児院での慈善活動で娼館の存在を知る子女も多いのだ。

確かにアデライーデは自分と結婚しているし孤児院を持っているから、知識として知っていると言われれば納得はするが、あまりにもさらっと言われたのでアルヘルムは言葉をなくしてしまった。

「歓楽街をつくられるのでしょう?踊り子さん達のいるホールとかを手伝ってもらう為にも、月の半分くらいそちらにお手伝いに行ってもらえたらと思うのですわ。ね、ダメでしょうか?」

--こじつけの理由が苦しいわね。アルヘルム様、うんと言ってくださるかしら…。

陽子さんは、オギノ式の避妊法をなんとか持ち込めないかと考えているのだ。

オギノ式の避妊法は、元々明治時代に荻野博士が発表した荻野学説に基づく妊娠法から妊娠しづらい時期を予測する避妊法だ。

排卵日前後の妊娠しやすい時期を生理から予測するオギノ式は、前世では避妊法とは考えられていないが全く避妊に対して知識のないこの世界で、完璧では無くとも望まない妊娠を避ける手助けになるかもしれないと考えていた。

茶髪茶の瞳がほとんどのバルクで、緑の目を持つアベルと黒目黒髪のアンジーは明らかに他の国の血が入っている。

メーアブルグの孤児院にも、同じような色を持つ子供たちがたくさんいた。院長に聞いたことはないが、どうしてそのような子たちがメーアブルグの孤児院に多いかは聞かずともわかることだ。

「フム…」

アルヘルムは、どう返事をしようかと悩んでいた。

アデライーデが娼館の女達の働く日を決めたいと言う理由がわからないからだ。

月のものが始まればいつでも子を孕む事ができるが始まってすぐの妊娠は早産や難産を招きやすく、数年待った方が良いと閨教育で教わったが、自分が知っているのはそのくらいである。

娼館がどのような場所であるか、どのような問題を起こしやすいのかは為政者としてアルヘルムは知っていたが、アルヘルムはアデライーデの申し出の意図が全くわからなかった。

「その事については、少し時間をもらえないかな?」

「……えぇ、もちろんですわ」

--やっぱりね。すぐには返事をもらえないわね。まぁ…すぐにだめだと言われるよりいいけど。

「しかし、医師の診察を受けてからの上陸というのはいい考えだと思うよ。タクシスと相談してみるよ」

「ありがとうございます。お役に立てれば幸いですわ」

にっこりと笑うアデライーデを見て、アルヘルムは何事かを考えながらグラスをテーブルに置いた。