軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211 お茶の時間とフィリップ

コンコンと扉がノックされ、女官が扉を薄く開けるとすぐに

「アデライーデ様!」と息を弾ませたフィリップが入ってきた。

「まぁ…フィリップまで…」

こめかみを押さえて、テレサはため息をついた。

小さなカールならばいざ知らず、貴族学院に通うようになったフィリップが先触れもなく私的なとは言え王と正妃もいる大人のお茶の時間に入ってきたのだ。

「良いではありませんか。家族なのですから」

「正妃様…」

アデライーデはニコニコと笑い、フィリップに手を振る。フィリップは早足でアデライーデのもとに向かうと笑顔で挨拶した。

「お久しぶりです。王宮にはしばらくいらっしゃるのですか?豊穣祭においでになったのですよね」

「ご挨拶もせずに…」

テレサの呟きが聞こえたのか、フィリップはテーブルの前できちんとアルヘルムを始めとしてアデライーデとテレサに正式な挨拶をした。

ちょっと見ないうちに背が伸びたようで、ふっくらとしていた頬はしゅっとしてきて男の子が少年になりかけていた。

挨拶を受けてアルヘルムが座りなさいとフィリップに席を勧めるとフィリップは、すとんとアデライーデの隣に座った。

テレサの隣の席にはカールが座っていて琥珀糖を頬張っている。正式にはテレサ側のソファにフィリップは座るのだろうがアデライーデと話したいフィリップは迷わなかった。

少し驚いた顔をしたテレサを 余所(よそ) に、フィリップはソファに座った途端にお泊まりの後の自分の話をアデライーデにし始めた。貴族学院に入学して初めて級友ができた事、授業の事、先生の事などを途中で出されたコーラを飲みつつ楽しげに話す。

貴族の子供たちだけであるが、初めて同年代だけで過ごす学院は、楽しいようで話題はくるくると変わりフィリップの顔は輝いていた。

--裕人も小学校までは、こんな感じで学校であった事をずっと喋っていたわね。中学に入ると途端に喋らなくなったけど…。

懐かしさにかられてうんうんと話を聞き、裕人にしてやっていたように、話に水を向けると更に饒舌に喋り始めた。

アルヘルムやテレサもじっとフィリップの話を聞きつつ、時々それはどういうことなのかとフィリップに問うと、フィリップは目を輝かせてアルヘルム達にも話し始める。

--アデライーデ様は子供の話を聞くのがお上手なのね。

一生懸命アデライーデに話すフィリップを見ながらテレサは笑みを浮かべたまま、ぼんやりと見ていた。貴族教育は少しでも早く子供を大人にさせようとする。

大人の中で育ち大人と対等に話せるようにさせるので、兄弟がいても自分より小さな子供と接する時間は極端に少ない。

テレサにも弟妹がいたが、フィリップを産んで初めて赤子に触れたくらいである。そして貴族の子育ては主に乳母や決められた教育係の女官がするのだ。

まして、将来の王となるべきフィリップには学ぶべき事が山積みでテレサにも王妃としての役目があった。夜会ともなれば、午後いっぱいを使っての身支度があり自然と子供達の教育は教育係からの報告を聞くことが多くなる。

フィリップは初めての子で、世継ぎの王子でどう接して良いかと戸惑う事が多かった。テレサもテレサの母親も侯爵夫人や王妃としての振る舞いはマナー教師から教えてもらえても母親としての学びは手探りだった。テレサは3人産んでやっと母親としての実感を感じられるようになっていた。

陽子さんは、当たり前だが自分で子供を育てあげている。幼稚園や学校の先生にもたくさん助けられたが、イヤイヤ期も反抗期もがっぷり四つに組んで来たのだ。子供の話を上手く聞き出すことは慣れたものである。

アデライーデがフィリップが聞いてほしい事を深く聞き、共感してほしい事にはそうなんだと頷いているのをテレサは眺めていた。

「兄上!この石美味しいよ」

話の中に入りたいのかカールが、急に残り少なくなった琥珀糖を掴んで渡すと、フィリップはきょとんとした顔でそれを受け取った。

「そうだぞ。食べられる宝石が我が国で見つかってな。これを諸国に売り出そうと思っているのだ。フィリップも食べてみたらどうだ」

アルヘルムが、真剣な顔で言うとフィリップは恐る恐る「石を食べるなんて…歯が欠けたりしませんか」と聞き返した。

「虫歯があると欠けるらしいが、健康な歯なら大丈夫だぞ」

大真面目に答えるアルヘルムと、琥珀糖を頬張るカールを見比べておっかなびっくり琥珀糖を口にしたフィリップの口からカリッと、音がした。

「父上! 石ではないじゃありませんか!」

「まぁ…フィリップったら…」

珍しく声を出して笑うテレサに、フィリップも「母上もひどいです!知ってて黙ってるなんて」と頬を膨らますと「あら…私も陛下にはびっくりさせられたのよ。次は誰をびっくりさせましょうか」と琥珀糖を一粒摘んだ。

笑い声は部屋の外まで聞こえ、居並ぶメイドや女官、侍従達も自然と笑顔になっていた。和やかなお茶の時間は過ぎ晩餐の着替えの為に各自が部屋に帰った頃には、メイドや従僕達によって、アルヘルム達の仲の良さが瞬く間に王宮に働く者の間に拡がっていった。

ナッサウは何も言わずに、噂が広がるのを静観していた。