軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

206 プリンアラモードと自由時間

「あら…もうこんな時間?」

アルトとあーでもないこーでもないと知恵を出し合ってキッチンで過ごしていたら、マリアがアメリーが来たと知らせにやってきた。

--珍しいわね、いつも時間より早く来るのに今日はぎりぎりだわ。

アルトに仕上げをお願いし、丁寧に手を洗ってエプロンを取るとマリアと居間に向かった。

「お待たせしたわね」

「いえ、アデライーデ様。ご機嫌麗しゅうございます」

--ん?アメリー、泣いてたの?

いつもの笑顔の挨拶だが少し目の縁に赤みがあり、あの朗らかさがない。

「そろばんの教科書とカタログが仕上がりましたので、持ってまいりましたわ」

「ありがとう。楽しみにしていたのよ」

差し出された教科書とカタログを見ながら目線は上げずに視野を広くしてアメリーを見るとつくった笑顔を頑張って保っていた。

マリアもミア達もさり気なく、素振りを見せずに気遣う目をしていた。

--何かあったわね。何かしら。マリア達と喧嘩…はありえないわね。宿でトラブル?それなら真っ先にマリアが報告してくるはず。お化粧で誤魔化しているけど、うっすらクマがあるし昨日寝てないみたいね。何か悩み事かしら…。まさか帝国のお父さんに何かあったとか?いやいや、それだったらすぐに帰ってるはずだわ。

アデライーデに会う前に、マリアはもう一度クマを隠すようにお化粧直しをしたが、陽子さんの目は誤魔化せなかったようだ。

トリプル二十歳の経験に、若い視力は無敵である。

「アメリー。すごくわかりやすいし可愛いわ。蜂蜜好きの子熊に赤い頭巾をかぶった白いうさぎがそろばんの勉強を一緒にするのは良いアイディアね。これなら楽しく勉強できそうだわ」

--前世だったら版権侵害で訴えられそうだけど…。

どこかで見たことのあるようなキャラクターによく似た子熊と小うさぎが楽しげにそろばんの使い方を説明している教科書は秀逸だった。

「バルクと言えば蜂蜜です。蜂蜜と言えば熊ですからね。子熊と、バルクの女の子に人気のあるうさぎのお人形に赤ずきんをかぶせてみたのです」

アメリーは楽しげにキャラクターの話をし始めた。その後はいつものアメリーに戻りカタログをチェックして印刷に回すことで話は終わった。あとはみんなでおしゃべりがてら今日の試食を楽しむのだ。

「アルトに試作を持ってきてもらって」

「また何か作られたのですか?」

「うーん、新しいメニューではないのよ」

アルトがワゴンに載せて持ってきたのは、プリンアラモードだ。確かにプリンはこの世界になく目新しいが、それだけでは見た目の華やかさに欠ける。

華やかにプリンを演出するなら、やっぱりプリンアラモードよねと、アルトとキッチンでプリンアラモードを作っていたのだ。

「秋だからマロンクリームをプリンにのせて、扇のように薄くスライスして重ねた林檎とくし切りにした 無花果(いちじく) 、皮を剥いた葡萄に梨、そしてマロングラッセをのせた生クリームにはキルッシュワッサー(さくらんぼ酒)を香り付けに使ってみたの」

シンプルな銀の脚付きのオーバル型の器に盛られ秋の実りを纏った大人の女性のプリン・アラモードに皆が目を輝かせて見る。

「こっちは、子ども向けにしてみたの」

アーモンドを抱っこさせた人型のクッキーとうさぎにした赤と青の林檎がグレナデンシロップで赤くして細かく刻んだ寒天を散らした生クリームの山のそばに添えられていた。

「まぁ…綺麗ですわ。食べるのがもったいないくらい」

「こちらも可愛いわ。お子様用と限定しなくても良いのではないですか?」

「果物は季節ごとに変えてもらおうと思っているのよ。冬になったら、アイスクリームを取り入れても良いとアルトと話していたの。果物が手に入りにくくなるでしょう?」

この世界で氷室を持っているのは、王族と限られた高位の貴族だけである。前世でいつでも気軽に口にすることができるアイスクリームは、この世界では冬にしか食べる事のできないお菓子であった。

--確かプリンアラモードは日本発のデザートだったわね。

ヨーロッパを旅した時にプリンはあったが、確か名前が違っていた。あれは何だったっけと思い出そうとしていたが思い出せなかった。

きゃっきゃっと、プリンアラモードの容姿の品評をし早速口にすると、皆もうスプーンが止まらなかった。

「そう言えば、コーエンにカタログを見てもらったの?」

何気なく放った言葉に、一瞬場の空気が凍りつく。

忙しく動いていたアメリーのスプーンがゆっくりと動くようになった。

「ええ、『良いのではないでしょうか。高級感がありますね』と言われましたわ…」

「ええ!確かに!確かに高級感が溢れていますわ?そうよね?」

「そうです!溢れてますわ!」

マリアが後ろのエミリア達にそう言って振り返ると、エミリア達も、激しくこくこくと頷いていた。

--え?もしかしてコーエンと何かあったの?最後に見た時は2人とも割といい雰囲気だったけど…。もしかして、付き合い始めて初めての喧嘩なのかしら?

貼り付けたような笑顔のアメリーとマリア。それに冷や汗をかいていそうな笑顔のエミリア達を見て『当たり』はコーエンだと陽子さんは確信した。

--皆、アメリーを気遣っているわ。

ここはこれ以上、話を聞かないほうがいいわね。

「本当ね。すごく高級感が溢れているわね」

焦っている皆に気が付かずプリンに夢中になっているふりをすると、マリアとエミリア達が少しほっとした顔をしたがアメリーはまだ笑顔を貼り付けながらプリンを食べていた。

陽子さんの中ではコーエンとアメリーは付き合っていることになっているが、実際は付き合うどころかお互いの思いも告げないまま、 潰(つい) えてしまいそうな崖っぷちの際にいる。

--まぁ…若い頃は色々あるわよね。

傍から見たら可愛らしい行き違いやすれ違いでも、当人たちにとってはこの世の終わりのような事がある。きっと、それだわ。みんなで相談に乗ってあげているのね。

親戚のおばちゃん感覚で、陽子さんはみんなを見渡していた。

--時間が必要よね。

「ねぇ、マリア。もうすぐ王宮にいくからそれまでの間、早く寝ようと思うの」

「はい?」

唐突にアデライーデが、言い出したことにマリアは戸惑いつつ返事をした。

「王宮では、お茶会や夜会があるでしょう?だから早く寝て体力を貯めておきたいの。王宮に行くまで晩餐が終わったらすぐに寝るわ。マリア達も王宮についてくると1日中私に付いてその間お休みもなくずっと仕事でしょう?離宮にいる時のようにはいかないだろうし、今日から晩餐の後は自由時間にするわね」

アデライーデは、スプーンを置いてにっこりとマリア達に申し付けた。