軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184 瑠璃とクリスタル

「クラウゼ公爵夫人。そしてラウラ様、ゾーイ様ようこそ『瑠璃とクリスタル』へ」

メラニアとブルーノがウェイティングスペースで、招待された公爵夫人とご令嬢方を迎える。

「オープンおめでとうございます。そして、お招きありがとうございます。楽しみにしてまいりましたのよ」

ルイーサ・クラウゼ公爵夫人が挨拶をすると、メラニアはにこやかに迎え入れた。

『瑠璃とクリスタル』の前庭の庭木には白と蒼の大ぶりのリボンがあちこちに結わえられプレオープンを品よく華やかに飾っていた。

その前庭を抜けると、従僕が磨きこまれた扉を両側から開けて迎え入れる。

居並ぶ華やかな給仕達を夫人達は、ちらりと見やった。

「専属の給仕がお一人お一人に付きますので、ご指名ください」

「あら、専属なの?」

「ええ、メニューが少し変わっておりますのでご説明の為に専属ですのよ。ルイーサ様はどの給仕を?」

「……、では、そちらの給仕を…」

ルイーサ夫人がすっと目をやって選んだのは、金髪碧眼の背の高い凛々しい騎士タイプの給仕だ。

「さぁ、お嬢様方も…」

「はい…」

姉のラウラは美形の王子様タイプ、妹のゾーイはワイルドなイケメンタイプを頬を少し赤らめながら指名した。

「本日、お嬢様にお仕えできる栄誉を賜り光栄でございます。さぁ、お席へご案内いたします」

そう挨拶をして給仕達は夫人達を席に案内すると、椅子を引きメニューを差し出した。

飲み物のメニュー以外はどれも聞いたことのないメニューである。給仕達はひとつひとつ丁寧に説明をし勧めていく。

給仕との会話を長くさせるために、メニューは文字だけで書かれている。夫人達はまず軽い飲み物を選んだ。ルイーサはワインの炭酸割を、ラウラはコーラでゾーイはレモネードの炭酸割だ。

メニューを見ながらそれぞれの給仕からさらに説明され、夫人達が軽食に選んだのはマロンクリームと生クリームの添えられたふわふわのホットケーキだ。

「お好みの量をお教えください」

給仕達は夫人達の側から離れず、ホットケーキにマロンクリームや生クリーム、好みのフルーツを望むままに添えていく。

「まぁ…なんて柔らかなケーキなの」

「皇女アデライーデ様が作らせたケーキで、今バルクの王宮でも流行っているケーキです。お口に合いましたでしょうか」

「えぇ、とても美味しいわ」

「奥様にお喜びいただき、大変嬉しく思います」

夫人に付いた給仕がそう言って微笑むと、夫人も笑顔をみせる。普段屋敷の給仕にはそのような事をしないが、やはり好みの美形には、ついつい笑顔が出てしまう。

観劇にも行くが、これほど近くでこのような美形と話す事は滅多にない。娘たちを見ると、令嬢としての 矩(のり) を 踰(こ) えずに給仕との会話を楽しんでいるようだ。

「お母様、何か始まるようですわ」

姉のラウラが2階へと続く階段の方を見てルイーサに言ったので振り向くと、階段の下で濃茶の髪を撫でつけ眼鏡をかけた給仕がチェロを奏で始めた。

演奏が始まり4小節程奏でた頃、階段の上から整った顔の給仕が、秋の実りと帝国を讃える有名な曲を美しいテノールの声で歌いながら降りてきた。

カフェの中の皆が聞き惚れる中、給仕は堂々と曲を歌い上げ終わると一礼をした。

各テーブルから上品な拍手が鳴り終わる頃、ブルーノとメラニアが前に進み出て招待客皆に挨拶を始めた。

「本日は『瑠璃とクリスタル』のプレオープンにおいで下さりありがとうございます。ささやかながら帝国を讃える歌と音楽を本日お集まりの皆様にお贈りいたしました。どうぞ、心ゆくまで『瑠璃とクリスタル』をお楽しみになってください」

挨拶が済むと、2人は各テーブルを回りそれぞれの夫人達と言葉を交わしていく。

「毎回あのように歌われるのかしら…」

「1日に何度か歌と演奏が行われます。本日はチェロですが、ピアノやヴァイオリンも予定されております」

「貴方も歌うの?」

「私は、詩の朗読を少々」

「いつ?」

「まだ決まっておりませんが、そのうちに…」

ゾーイの問いかけに、そばに控えていた給仕が微笑んで答えると、ゾーイは頬を赤らめつつも素っ気なく「そう」と応えてレモネードの炭酸割を口にした。

ルイーサ達はその後、いくつかの料理をアラカルトで頼み洗練された盛り付けのバルク風ポークカツレツ−とんかつ−やハニーマスタードのかかったから揚げのプレートやオイルサーディンのカナッペを堪能した。

どの料理も今まで食べたことの無い料理で、一口食べる毎にため息が出るほどである。またどの料理や飲み物を頼んでも専属の給仕が甲斐甲斐しくそして、さり気なく手をかけてくれる。

心地よい時間を過ごしていると、思った以上に滞在していたらしく少し日が傾きかけてきているのに気がついた。

残念がる娘達を引き連れて暇の挨拶をメラニアにするとご挨拶代わりにと、それぞれにガラスケースに入れられた巣蜜とオイルサーディンの小瓶が入った可愛らしい籠を給仕達が夫人達に恭しく手渡した。

「本日はお仕えできて幸せでございました。私はお嬢様のお帰りをここでお待ち致しております。道中お気をつけて…」

決してありがとうございましたとは言わない。

お帰りをお待ちしていますとだけ言い、夫人達の馬車が見えなくなるまで見送った。

馬車の後ろの小窓からラウラとゾーイが見送る給仕達が見えなくなるのを見ているのを、珍しくルイーサは咎めなかった。

給仕達が見えなくなると、ラウラとゾーイがもじもじしながらルイーサにねだる。

「お母様、また『瑠璃とクリスタル』に連れて行って下さる?」

「あら…気に入ったの?」

「えぇ、楽しかったしどのお料理も美味しかったわ。それに…」

「それに?」

「詩の朗読も、あるそうなの。ぜひ聞いてみたいわ」

「そうね…明日にでも使いを出すようにしましょう。来週はお茶会が無いからまた行きましょうか」

「本当に?お母様ありがとうございます」

2人は手を取り合って次回の事を楽しみに話し、巣蜜のガラスケースに感嘆の声を上げていた。

ルイーサも娘達に強請られたから仕方ないと言う体で、次の予約を楽しみにしていたが、ここでルイーサは1つ失敗をしてしまった。

翌日、開店時間に『瑠璃とクリスタル』に予約に訪れた使者は、すでに3週間先まで予約が詰まってしまっているのを知り慌てて空いている日に予約した。