軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182 社交とベランダ

「それではバルクの宰相公爵ブルーノ・タクシス殿とメラニア公爵夫人、そして両陛下の健康を願って…乾杯」

グランドールの乾杯の挨拶の声に、あちらこちらで軽くグラスが傾けられた。

結局、皇后の着替えの時間まで延々と付き合わされた。

途中から、婚儀の時のスケッチブックを皇后が見せたいと持ってこさせメラニアが皇后の相手をしてくれたから良かったものの、メラニアはスケッチブックの虜になったようで妖しくスケッチブックを眺めていた。

グラスに口を付け、ほっと一息ついた途端に、帝国の貴族たちに囲まれた。型通りの挨拶から始まり、みなが興味を持っていたのは、サンキャッチャーだ。

広間の中央のシャンデリアの下に置かれたハンギングスタンドに吊るされたサンキャッチャーは、揺らめく度に小さな虹を孕んだ光を撒き散らして貴族達の目を釘付けにしていた。

普通サンキャッチャーと言えば、一本のテグスや細い鎖に吊るされるものだが、王宮では一室の広さが違うので昔のベッドメリーの形に似せて造らせている。

好意的にタクシスに話しかける者、アデライーデの名で皇帝の威光をまんまと手にしているなと思う者、上手にその恩恵のおこぼれに与ろうとする者達と、色々な思惑を腹に隠した貴族たちとの社交をこなして、タクシスはベランダで一息ついた。

メラニアは持ち前の社交術で、タクシスよりタフに…そして優雅に貴婦人の間で笑っていた。

「おや…今日の主役がこの様なところにいるとは」

後ろから声をかけられて振り向くと、小太りの老人が目を細めてタクシスに声をかけた。

ダランベール侯爵だ。

「貴公とは、初めてだな」

「ダランベール侯爵閣下、お言葉を交わすのは初めてでございますな」

タクシスが自分を知っている事に気を良くしたダランベールは、益々目を細めてタクシスを見た。

タクシスは型通りの初見の挨拶を交わすと、ダランベールは最近のバルクの帝国での評判を褒め、本当であれば自分の孫のカトリーヌがバルクに輿入れしていたはずだと残念がってみせた。カトリーヌであれば今のバルクの評判をより良くさせれていたのにと匂わせつつ…。

……この狸が。何を考えている?

カトリーヌは降嫁の支度をしているが、すでに婚約相手との仲は冷えている。クルーゲの集める噂からでもそれは明らかなようだ。

曖昧に合わせるタクシスを見て、御しやすいと思ったのかダランベールは、アルヘルムの手腕を褒めそやす。

「炭酸水なる貴重な資源をお持ちで、それを見事に帝国で流行らせ今日またあのような素晴らしい細工物を献上されるとは、アルヘルム殿は戦上手だけでなく、国を導く手腕にも長けておられるようですな」

「いえ、皇后陛下のお引き立てがあっての事…」

「ご謙遜を。バルクと言えばガラスの一大産地ではないですか。あれを見て見なされ、みな度肝を抜かれておりますよ」

光の柱の様なサンキャッチャーを貴婦人方が囲んでいるのを指差してダランベールがにやりと笑っていた。

「陛下は、より強い帝国とバルクの絆を求めておられるはずだ」

ダランベールは、ベランダの隅に控える給仕を手で呼ぶと新しいワイングラスをタクシスに勧め、これからの帝国とバルクの発展の為にと言い口をつけた。

「今、帝国ではどのご令嬢もアデライーデ様のように年上の強き男性に強く望まれ縁を結びたいと夢見ているのですよ」

そう言って、ちらりとタクシスを見る。

−−ゲオルグ殿下の事か。

王弟のゲオルグは25才だ。

年の頃合いだけを見ればカトリーヌと釣り合いが取れている。

あわよくば今の婚約者より、陛下の覚えもめでたくバルクのこれからの発展も含んで今の婚約者から鞍替えをさせたいのだと確信した。

−−つまり、バルク国からカトリーヌ殿下を望めと言う事か。ふざけているな。

「帝国には、先の戦により武功を立てられた方が多くおられますからね。ご令嬢方はどのお方に望まれてもお幸せでしょう」

カトリーヌは、すでに公爵に陞爵された婚約者がいる。そんな皇女を望むなど馬鹿げた話があるものか。それに同じ国に続けざまに2人も輿入れさせるなどありえない。

「お話中に失礼いたします。タクシス様、皇后陛下がお呼びでございます」

すっと、近づいてきた若い侍従がそう告げたのを幸いに、タクシスは残念そうにするダランベールに辞する挨拶をしてベランダを離れた。

−−バルクに嫁ぐのを厭うたお前の孫娘の事を知らぬと、思っているのか。舐められたものよ。

晩餐会に戻ると、皇后はにこやかな笑顔でタクシスを迎え自分達はそろそろこの場を離れるのであとは楽しむといいわと告げた。

「商会のことで忙しいでしょう。雑務は放っておいてあとは楽しんでね」

そう言って、扇で口元を隠して目だけで笑うと陛下と2人で晩餐会の広間から消えていった。

−−お見通しと言う訳か。

タクシスは、その後何事もなかったかのように社交を続けた。