軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 真実の愛

「ただいま戻りました」

マルガレーテがグランドールの執務室に入り挨拶をする。

グランドールは何人かの部下たちと書類を交わしながら仕事をしていた。

マルガレーテはグランドールの返事が無いのに構わないまま、執務室隣の給湯室に入り、お茶を入れ皆に配り終わったところでグランドールのお茶を別室に運ぶとグランドールが部屋に入ってきた。

グランドールはソファに座るとマルガレーテに椅子をすすめ尋ねる。

「アデライーデ様はどうであった?」

「贈られたドレスをお喜びのご様子でした。グランドール様によろしくとの事です」

そうかと応え「報告を聞こう」と言った。

マナーに関して申し分なく挨拶もお茶の作法も以前付けていたマナー教師からの報告以上だったこと、本日お伝えした所作も問題ない事をグランドールに告げた。

「そうか」

「ベアトリーチェ様の生き写しのようでございました。所作もお茶を飲む姿も」

マルガレーテは、懐かしそうに話す。

「それでアデライーデ様は明日のことについてはなんと言われていたのか」

「明日、陛下にお会いできるのは光栄とおっしゃられておりました」

「……光栄か」

10年ぶりに父親に会うのに嬉しいとも嫌だでもなく、『光栄』

まるで初めて会う臣下のような返答だ。

「やはり、アデライーデ様は陛下の事をお恨みしているのか」

絞り出すようにグランドールは言った。

当然と言えば当然だ。自分がその立場でもそう思うだろう。

グランドール自身も長年忙しさにかまけて「問題がないのであれば報告の必要はない。仔細は任せる」と侍従に任せていたのだ。

ベアトリーチェ様が亡くなられたときも、陛下が回復するまではとベアトリーチェが亡くなったことを伏せたのはグランドールだ。

ベアトリーチェの葬儀は離宮で執り行われ参列者はなく、皇帝陛下夫妻連名の弔花とグランドールからの弔花だけが添えられたと報告を受けていた。

グランドールは、陛下が皇太子に決定される前、エルンスト王子と呼ばれていた頃からの側近だった。幼馴染と言ってもいいだろう。

幼い頃から真面目で周りの期待に応えようとしていたエルンスト。なまじ才能があるばかりに余計に周囲の期待は高まってゆく。

たまには息抜きしないと、爆発するぞと言っても「僕は国民の手本にならないといけないんだよ」と笑いながら言っていた。

皇太子時代に結婚した皇后と仲は良い。政略結婚ではあったが長年の婚約期間のせいか夫婦というより兄妹のような家族のような関係だった。

皇后との間には子供に恵まれなかったが、思いの外政治に長けていた皇后はエルンストの右腕となりエルンストを支えた。

妃を取らねばいけなくなっても皇帝に跡継ぎは必要だからとあっさり有力な貴族の令嬢を数人推薦し「毛並みはいいのよ」と言ってきた時には、皇后は僕を種馬が何かと思っているようだと苦笑いしていた。

優秀な部下や右腕となる皇后に恵まれても、若き皇帝となったエルンストが治める帝国を狙う輩は国内外にいた。水面下で交わされる諸外国との駆け引きや国政に忙殺されていた頃、妃を1人迎えたいとエルンストが皇后とグランドールに打ち明けた。

王宮の新年のパーティで見初めたという名も知らぬ令嬢だと言う。「家族で楽しそうにパーティを楽しんでいたんだ。兄とダンスをして笑っている笑顔が忘れられないんだ」という。

すぐさま身元を調べ、それがベアトリーチェ・マリアベル・コルファン伯爵令嬢とわかったときには、皇后とグランドールは反対した。

有力でも裕福でもなんでもない弱小な伯爵家の令嬢だった。

妃として召してもなんの利益にもならない、むしろ他の貴族たちの混乱を招くと反対したがエルンストは諦めなかった。

どうか許してほしいと2人に繰り返す。

結局、皇后が折れてグランドールを説得し始めた。

「エルンストはね、真実の愛を見つけたのよ」

そう笑って皇后は言う。

エルンストは誠実なの。

真面目に誠実に、勉強でも政務でも行事でも取り組むわ。

同じように私との事も誠実に向き合ってくれたの。

政略結婚でもね。

もちろん、今も皇后として大切にしてくれるわ。

皇帝としてね。

それがこの国の王子に生まれた自分の努めだと思っているのよ。

与えられたことに対して、何一つ手を抜かずに誠実に向き合うの。

でもね。エルンストは1つも自分から望んだことなんてないのよ。

だからね。

何か1つくらいいいかと思って。

皇后はお茶を一口飲んで悪戯っ子のような表情をした。

実はね。

エルンストには、しょうがないから許してあげますって言っちゃたの。

そしたらね。ものすごく喜んでね。

次は貴方を説得すると張り切っていたの。

だから、彼女にはもうお話はされたのですか?って聞いてみたら

まだだって。

君達の理解を得てからだって言うじゃない。

しかも、声かけすらされてないって聞いて

もう呆れてしまって…

そんな魅力的なご令嬢なら

こうしている間に、どなたかとご婚約されてしまうかもしれませんよって言ったら血相変えて飛び出して行ったのよ。

抑えきれないと言った風情でくすくすと笑う皇后を前に

グランドールはため息をついた。

皇后が後押しするなら、どうしようもない。

それに自分も1つくらい陛下の望みを叶えてやりたいと思う。

それからは五月蠅い蝿を払いつつ、陛下の望むようにした。

陛下は、自分が今まで見たこともない幸せそうな顔をするようになった。

あの隣国との戦争が始まるまでは。

国内の一部の有力貴族の内通で始まった隣国との戦争は、莫大な戦費と兵力だけでなく、国内の貴族の結束の崩壊も引き起こした。

再度結束させるには、どうしても有力貴族達の力が必要となり新たに数人の妃たちが召された。

そして、グランドールはベアトリーチェのもとに通うのなら、その分新たな妃たちのもとに通ってほしいと進言した。

新たな妃たちの実家は、抜けた貴族たちの穴埋めになるような家だった。

その貴族達の力が今の帝国にはどうしても必要だからと。

陛下は顔を強張らせ、わかっていると言いベアトリーチェのもとへは段々と通わなくなっていった。

帝国の危機が1番深刻だった頃、ベアトリーチェの父親が戦死し義父への 餞(はなむけ) に行くとベアトリーチェの離宮に行ってから渡りが途絶えた。

恨まれるのは陛下ではなく、進言した自分だ。

「いえ、そうはお見受けいたしませんでした」

マルガレーテの言葉に、グランドールは意識をもどした。

「アデライーデ様から、そのような事は感じませんでした。ただ皇女の務めを果たすとその決意だけははっきりと伝わってまいりましたが…」

「そうか…」

「…アデライーデ様も陛下にどう接すれば良いかお悩みなのではないでしょうか。まだ14才なのですから。しかし、とても14才とは信じられないくらいの落ち着きと風格と申しましょうか。品がございました。今までのどの皇女様よりもです。これまで離宮のみでのご教育とは思えませんでした」

「そうか…わかった。

マルガレーテ夫人ありがとう。もう下がって休んでくれ」

マルガレーテはグランドールに淑女の挨拶をして下がっていった。