軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

160 休暇の終わりと別れの挨拶

今日も楽しかったと、フィリップは食後のお茶の席でリトルスクールでの話をし始めた。

「そろばんって、初めて使ったのですが面白いですね。計算があんなに簡単に出来るなんて!」

「そろばんを習ったの?」

「はい、大きなそろばんを使って先生が教えてくれました」

特注で作ってもらった先生用のそろばんはとても役に立っているようだ。

「それにみんな計算がとても早くてびっくりしました。女の子の方が計算が早くて正確でした。でも、習うのは計算と物語を読むくらいなのですか」

「そうね。庶民だとそのくらいかしら… あとは就いた仕事で覚えるようね。早い子は12才くらいから働き始めるらしいから」

王子であるフィリップはどの子より学ぶ事が多い。

庶民と王族の違いをリトルスクールで少し感じたようである。貴族も王族も自領や自国の歴史や地理、経営学や周辺国の事を学院で深く教えられる。知っておかなければならない事は庶民より多く深いのだ。

「リトルスクールでは、基本的な事だけ教えるのよ」

「そうなんですね」

フィリップはそう言うと、ティカップの麦茶を口にした。

その後は、夏祭りで輪投げや野菜釣りで皆と競って遊んだが、どれも自分が1番になれなかったと話し次は絶対1番になるんだと悔しそうに…でも楽しそうにアデライーデに話し始めた。

子どもたちは遊びにも一生懸命だ。友達であるフィルにも遠慮なく真剣に遊びで勝負する。男の子も女の子も関係なく接してもらった事にフィリップの何かが成長したように感じられ、アデライーデはフィリップの話を聞き入っていた。

「そろそろ、お休みのお時間でございます」

フィリップ付きの侍女がそう声をかけた。

いつもはとっくにベッドに入っている時間を大分過ぎた時間である。フィリップはかなり残念そうな顔をしたが大人しく頷きアデライーデにお休みの挨拶をした。

昨日はソファで寝入ってしまってお休みも言えずに従僕にベッドへ連れられていったのだ。今日は小さな子供のように挨拶もせずに寝るのではなく、絶対お休みの挨拶をするんだとフィリップは頑張っていた。

「それでは失礼して休ませていただきます」

「お休みなさいませ、明日もリトルスクールへ行かれるでしょう?」

「行きたいです。アデライーデ様… 皆には僕がフィリップだって内緒にしておいてくれますか?」

「……もちろんよ。言わないわ」

「ありがとうございます!おやすみなさい」

そう言ってフィリップは侍女に連れられて客間に帰っていくとレナードがワインを如何ですかと珍しくアデライーデに勧めてきた。

レナードが銀のワイングラスにワインを注ぐ。とくとくと注がれたワインはいつもより甘く美味しい。

「フィリップ様にとって、この離宮での休暇は有意義なものになりましたでしょうか」

「そうだと思うわ。大事なお友達もできたようだし…」

「そのようでございますな。何よりでございます」

昨日より少し傾いた月を見ながら、レナードと言葉少なに交わしアデライーデは、ワインを口にした。

翌日、フィリップはリトルスクールから帰ってくると食堂で次の休みに来るからまた遊んでほしいと言うと絶対だぞ!と約束させられた、拳を合わせて約束したのだと嬉しそうに話していた。

子どもたちからはもちろんだが、食堂のお姉さん達にも別れの挨拶をすると大層残念がられた。

「え〜!もう帰っちゃうの」

「お休み短いわよ」

「今度はもっと長くお出でなさいな」

「ほんとよー」

「待ってるからね。絶対よ」

そう言ってお姉さん達は代わる代わるフィリップを抱きしめた。

母親のテレサとも違う大人のお姉さん達の柔らかい胸に抱きしめられ、フィリップはどぎまぎした。

いわゆるぱふぱふ初体験である。

「あ!あたしも!」

「あたしも」

お姉さん達に抱きしめられるフィリップを見て、女の子達も次々とフィリップを抱きしめる。お姉さん達とはちょっと違うが全体的に柔らかい…。

庶民の別れの挨拶はハグなのかと、アベル達に目を向けると「男はハグしねーよ。気持ち悪いじゃんか」と拳を出され、男の挨拶は拳を軽く合わせるのだと教わり、軽く拳で挨拶をした。

フィリップは、お姉さん達や女の子達からの別れのハグの事はなんとなく言えずに、拳の挨拶の話だけをして「次の休みの時はもっと長く来ます」と名残惜しそうにお辞儀をすると馬車に乗って帰っていった。

長くも短くもある初めてだらけの2泊3日のフィリップの夏休みであった。