軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2. 決意を固めました

ローザは化粧道具を片付けながら話し続ける。

「アダルベラス王は少なくとも権力と財力はありますから、あとは容姿と優しさ、といったところでしょうか」

「あら、容姿はたぶん、大丈夫よ」

私は笑って返した。

まあ、たぶん、というのがいささか心もとないとはいえ、根拠がないわけではないのだ。

「だってアダルベラス王家は美形の家系だって話だし。国王陛下は、いい男だそうよ」

外務卿がそう教えてくれた。

これから嫁ぐ私に向けて悪い印象は伝えたくなかったという可能性は残されているので、どこまで信用していいものかはわからないけれど。

「ギリギリ四十じゃありませんし、お腹が出ていないといいですね」

「き、きっと大丈夫よ。鍛えてくれていれば」

私の婚約者であるアダルベラス国王陛下は、御年三十九歳。

私が十六歳なので、その差は二十三歳。

親子ほどの年の差だ。

とは言っても私のお父さまはもう五十歳なので、三十九歳といっても父親という感じはしない。

「年の差だけはいかんともしがたいですからねえ。そこは諦めないと」

「でも、フェリクスは二十三歳年上で四十を超えているけど、かっこいいんだから」

『恋夢』の主人公は十八歳で、フェリクスが四十一歳の設定なのだ。

「物語の中の人じゃないですか……しかも一番ありえない人なのに……」

はあ、とため息をつきながらローザはそう零す。

いやいや、そんな、『なに言っているんだろう、この人』みたいな顔をしないで欲しい。

「でも、『恋夢』を書いた人と、それを読んでいる人たちは、二十三歳上でも美形ならアリ! って思っているってことでしょう? なら珍しい話でもないのよ」

「なるほど。一理あります」

ローザは私の話に納得したのか、うなずいた。

「となると、美形であることを願いましょうか。まあ、そんな旨い話はないと思いますが」

権力と財力があるだけで十分ですしね、などと付け加えている。

まったく、ローザの価値観っていったいどうなっているんだろう。

「大丈夫だって! さっきも言ったけれど、アダルベラス王家は美形の家系だから」

「そうかもしれませんね。たいていの王家は美形の家系でしょうから」

「そうなの?」

どうしてそんなことを言い切れるんだろう。各国の王族の姿絵集でも見たんだろうか。

私が首を傾げると、ローザは自信満々な風で口を開いた。

「女というものは、権力と財力があるところに群がるものです。そしてその中から美女が選ばれるものです。それを何代にも渡って繰り返していけば、必然的に美形の家系になるのです」

「そりゃあそうかもしれないけれど」

なにを思ってそんな分析をしたんだろう。

そういえばローザの私生活って聞いたことがなかったな、などと考える。

「結果には必ず理由が存在します」

「……そう」

でもまあとにかく、辛口のローザがそう言うならちょっと期待してもいいかしら。

しかし彼女はこう続けた。

「そして必ず例外も存在します」

「夢も希望もないこと言わないでえ!」

この夢も希望もない侍女は、その特性から今回のアダルベラス行きの侍女に選ばれた。

ある意味、この夢も希望も打ち砕く物言いは彼女の仕事なのだ。

だからといって、なんでもハイハイ聞くつもりもありません。

「ローザはさっきから権力と財力にこだわっているけれど」

「大事ですから」

「恋愛って、そういうものじゃないわよ。もっとこう……魂と魂が惹かれ合うっていうか。そんな、条件ばかり気にしているのは邪道よ」

「姫さまは、恋愛をされたことがおありで?」

「うっ」

それを指摘されるとつらい。

なにせ、生まれた瞬間から婚約者は決まっていたのだ。

恋愛など許されはしなかったし、幸いかどうかはともかくとして、誰のことも好きになったことはない。

物語の中の男性たちに疑似恋愛をするのが精一杯だったのだ。

言い淀んでいる私に、ローザは言い聞かせるような声を掛けてくる。

「姫さまだって、美人の部類に入りますが」

「部類」

それは褒め言葉なのか。

「輝く金の髪。大きな空色の瞳。陶器のような白い肌。たおやかな身体つき」

ローザはご丁寧にも、ひとつひとつ指さしながら確認するように賛辞を呈する。

「まだ十六歳ですから成熟するにはもう少し時間が必要かもしれませんが、美女としての資質は備えておられます」

「あ……ありがとう」

そう具体的に褒められると少し照れてしまう。

特にローザがそう言うと、世辞ではなく本当なんだな、と思えるからいい。

「それだって過去の女性たちの努力の賜物ですよ。権力と財力は大事です。姫さまは過去の女性たちの行動に感謝すべきです」

「まあ……そうかもしれないわねえ」

褒められたあとだからか、なんだか素直にうなずけた。

「それに、条件を求めるのが邪道だと言うなら、姫さまの美形信仰だって邪道ではないですか? 魂が惹かれ合うんでしょう?」

「確かに」

美形信仰、って。

でもまあ確かに、必要以上に容姿にこだわり過ぎているかもしれない。

それはよくない傾向だわ。

私はこれから、アダルベラス国王陛下を愛するって決めているのだもの。

どんなに顔の配置がよろしくなくたって、お腹が出ていたって、頭がちょっぴり涼やかであったって、それも可愛らしいって思えれば、きっと愛することはできるはずよ。

だって私が生まれたときからの婚約者なんだもの。きっと魂が惹かれ合ったのよ。だから私が生まれたのよ。そうに決まっている。

それで私は幸せになるんだから!

見てなさい!

私はその決意を胸に、ぐっと拳を握った。