軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話

日の出と共に起床し、2時間にも及ぶ早朝訓練をこなす。朝食を摂った後は騎士団内の雑務に取りかかり、場合によっては街への巡回にカルガモの子どもよろしく先輩に付いて回ることもある。

そして昼食を終えればあとはひたすら訓練。実践してみれば中々にハードなスケジュールだ。

そんな生活を続けること早2週間以上経過したが、ハロルドにはなんの変化もなかった。それは自身も周囲もである。

まず訓練に関しては体力的にも技術的にも苦労していない。どれだけ動いても体力は底をつかないし、どんな訓練でやり通せる。

一方でTPOという概念なんぞ知らんとばかりに上官に暴言を吐き出し続ける口の悪さによって、訓練のメニューが追加されてばかりなのは悩みどころである。追加されても易々とこなせる体ではあるが、上官への心証が地べたを這いずり回っているだろうと考えると、その内辞めさせられるのではないかと怯える日々だ。

周囲の状況に関しても相変わらずで、同期生には避けられ、アンチハロルド勢力にはしょっちゅう絡まれている。

ちなみに同室となった面子についてはよく分かっていなかった。部屋の沈黙に絶えきれず、自由な時間は常にトレーニングにあてているからだ。完全に寝るためだけの部屋と化している。

つまり人間関係が壊滅状態であること以外は特に今のところは致命的な問題は起こっていなかった。

そんなわけで本日も午後の訓練に備えて昼食にありつこうとしていると、唐突に教導室への呼び出しを食らった。まさか本当に解雇されるのか?と戦々恐々で教導室に赴いたハロルドへ、教官は前置きなく告げる。

「ハロルド、お前には基礎訓練課程の最終試験に臨んでもらう」

「最終試験だと?」

「そうだ。合格すれば晴れて新兵を卒業し入隊となる」

そういえば騎士団の規則をまとめた法典にそんな内容も載っていたような、とおぼろ気な記憶を掘り起こす。

その記憶が正しければ確か基礎訓練課程の最終試験を受けるには入団後1年以上の者にしか資格がなかったはずである。

「俺はまだ入団して一月も経っていないと思っていたが?ここでは時間の流れが違うようだな」

「今回は特例措置だ。お前の実力はすでに新兵の域を大きく越えていると判断された」

「そんなことは入団試験の時点で分かっていただろうが。まあ特例措置を取ったことは英断だと褒めてやる」

上官に対しても当然のように上から目線。ハロルドとしては我がことながらこんなふざけた態度で未だに追い出されていないことが不思議でならない。

そしていきなり最終試験というのも驚きだ。だが受けることに迷いはない。

原作でのハロルドの役職は不明だが、時には部下を引き連れていたことも考えれば多少なりとも上の立場だったことが窺える。ハロルド自身としては出世にこだわりはないが、ある程度自由に動けるようになるならそれに越したことはないだろう。

「最終試験は数日後だ。内容は当日に知らされることになるが、遠征の準備は整えておくように」

「話はそれだけか?」

「ああ、以上だ。健闘を祈る」

「祈るだけ無駄だ。結果は明白だからな」

教官の激励に対し、素直に「頑張ります」も言えない。これで落ちれば笑い者である。

せめて行動だけは真摯に努めようと心構えを新たにするハロルド。

そんなことがあってから4日後。早々に最終試験の日が訪れる。

騎士団の象徴でもある甲冑をガシャガシャと鳴らしながら一歩一歩進んでいく。ほぼ真上から降り注ぐ太陽の日差しを受けて伸びた影は9つ。

ハロルドにコーディー隊の4名、小隊長2名、中隊長とその補佐官1名という編成である。

試験の内容は要約すると野外演習だった。現在は徒歩で目的地まで行軍している最中だ。

これも演習の一環であり、かれこれ3時間は歩き続けている。

「どうだハロルド、疲れてきたんじゃないか?」

無言で足を進めていると背後から声がかかる。心配というよりはからかいを含んだ声色だ。

その声の主であるシドに疲れた様子はない。

「もしそう見えるなら医者にかかれ。手遅れかもしれないがな」

「余裕だねぇ。さすがご実家で討伐遠征に参加してただけはある」

「……なぜ貴様が知っている?以前もそうだったな」

「以前?なんのことかな?」

「とぼけるな。エリカのことだ」

「ああ、ハロルド君の婚約者の」

婚約者、の部分を強調するコーディー。

ハロルドは墓穴を掘った。あの話を自分で蒸し返すという愚行。

なぜかコーディーが自分の情報を得ていることを訝しみつつ、前門のコーディー後門のシドという不利な形勢にハロルドは押し黙る。戦略的撤退というやつだ。

ところが予想だにしない方向から追撃を食らう。

「興味深い話だ。ストークス君には婚約者がいるのかね?」

甲冑よりスーツが似合いそうな、七三分けの中隊長・サクリスである。エリート官僚のような見た目とは裏腹にこの手の話題が好きなのだろうか。

おまけにサクリスが話を振ってきたおかげで全員の視線がハロルドに集中する。はっきり言って慣れたものだが、それでも無視するのは決まりが悪い。

「……いるが?」

未だ表立って否定することもできず、そう答えた途端に緊張が走る。特に補佐官の表情が強張った。

さすがに中隊長へのタメ口は許容されなかったか。ここは甘んじて叱責を受けるしか、などと覚悟を決めて次の一声を待つ。

が、返ってきたのは哀愁漂う寂れた声だった。

「そうか、そうなのか……20以上も年下の少年でも婚約者がいるのに、私ときたら……」

ぶつぶつと何事かを呟くサクリス。それを補佐官が「大丈夫ですよ!」と励ましている様子を、コーディーと小隊長二人は笑いを噛み殺しながら窺っている。どうやら不敬な態度を咎めらたわけではなく、サクリスの地雷を踏み抜いてしまったようだ。

恋人のいない団員は似たような反応をするなぁ、などと思いながらハロルドはアイリーンを見やる。

「潰すわよ?」

目が合った瞬間にそう警告された。何を潰そうというのか定かではないが、中々に理不尽である。彼氏がいないのも納得の言動だった。

どんな部位であれ潰されては堪らないので前方へ向き直って歩くことに集中する。が、それもすぐに途切れてしまう。

「ハンマートレント2体!こちらに接近してきます!」

ロビンソンが声を張り上げた。見れば5メートルほどの高さの木が、幹と同じくらい太い2本の巨大な枝を松葉杖のように使いながら動かしながら迫ってくる。

当然なから普通の植物ではない。

ハンマートレントとは木の形をしたモンスターだ。移動の際にも使う巨大な枝を棍棒のように振り回し、相手を防御もろとも叩き潰すことからハンマーという名前を冠している。

幹には目や口のようなものも付いていることから人面樹とも呼ばれている。紛いなりにも植物でありながら、その口で動物を捕食して養分にすることも可能だ。人間が相手でも例外ではない。

「ふむ、狙いは私達のようだ」

「まだ距離はあるので逃げ切れますが、後方の丘を下れば街道もあります」

「ならばここで仕留めておくべきだろう。ストークス君は――」

「下がっていろ、などとは言うなよ?」

食い気味で参戦の意思を表明するハロルド。

「ハンマートレントとの遭遇は予定外だ。試験の成績には影響しないが?」

(しないのかよ!)

野外演習なのだからこうした不測の事態に対応するのも試験の内かと気張ったのが裏目に出た。かといってこれで引き下がるのも格好がつかない。

それにハロルドにもハンマートレントには肋骨にヒビを入れられた恨みがあるのだ。リベンジマッチにはちょうどいい。

「点数など知ったことか。アイツは俺が殺る」

「……分かった。念のためサポートにルーカスとセリムを付ける。無理はしないように」

サクリスの采配によりハロルドと小隊長の二人、それ以外の二手に別れる。ハンマートレントもその動きに釣られてバラけた。

各個撃破のチャンスである。

「後ろには僕達がいる。安心して戦ってくれ」

「噂に聞いてる実力を楽しみにしてるぜ。でも危険を感じたらすぐに下がれよ?本来あれは新兵には荷が重い相手だしな」

ルーカスとセリムがハロルドを勇気づけるようにポンポンと背中を叩く。非常に頼もしい先輩方である。

(そういえばこの人達って俺に敵意ないよな。それだけで助かるわー)

当の本人はそんなことを考えるくらい余裕ではあったが。

リベンジマッチとは言うものの、胸に期する想いは特にない。怪我を負わされた当時でさえ兵士を守ろうとしなければ手こずらずに倒せた相手だ。

ましてや今回は試験中に起きた予定外の事態である。余計な時間はかけずにさっさと倒すべきだ。

剣を抜くこともなく、散歩でもするかのように淀みない足取りで間合いに入る。それに対してハンマートレントは攻撃に移り、右の枝――ハンマーを振り上げてハロルドに叩きつける。

ドゴォン!という重々しい破壊音と土煙が上がり、地面が揺れる。ハロルドはその攻撃を跳躍することで躱していた。

しかし宙に浮いたことで格好の的となる。間髪入れずに左のハンマーがハロルドを襲う。

直撃は免れないタイミング。

だがハロルドは空中でくるりと1回転し、紫色のオーラのようなものをまとった右足で襲いくるハンマーを蹴り下ろす。

『 鳳仙脚(ほうせんきゃく) 』

剛打掌と並ぶ素手による打撃技。プレイヤーの間では『踵落とし』とも呼ばれる蹴り技だ。

本来なら鳳仙脚もコンボの最中に組み込む技だが、剛打掌と違って単体での威力もそこそこ高い。それでも攻撃判定のリーチが短いので単体で使用することはあまりないが。

ちなみにゲームと同じく蹴る際に発生する紫のエフェクトが何なのかはよく分からないが、出そうと思っていなくても自然と出るのでそう言うものなんだと納得済みである。

ハンマートレントの硬質な樹皮とハロルドの右足がぶつかり合う。体重50キロ台のハロルドと、数百キロあるハンマーの衝突だ。その質量は桁が違い、普通に考えれば軽い方が弾き飛ばされる。

しかしそれをよしとせず、時に相手にとって不条理なまでの結果をもたらすのが原作キャラクターという存在だ。

交錯した瞬間にガキィンという甲高い音が響く。打ち負けたのはハンマートレントだった。

そればかりかズドン、と音を上げて先端部が地面に埋まる。ハンマーはひしゃげ、蹴られた部分の樹皮は剥がれ落ちていた。

その光景にルーカスとセリムが呆然としている。よく見ればもう1体のハンマートレントと戦っているシド達もポカンとしているが、とりあえず仕留めることを最優先に動く。

埋まったままのハンマーを足場にして接敵し、ようやく鞘から抜いた剣を口に深く突き刺した。そしてハンマートレントに苦痛の声を上げる暇も与えずに勝負を決する。

「『火焔剣』」

ハロルドが握っていた剣から炎が噴出する。しかし体内を直接焼かれる苦しみは、ハンマートレントにとってほんの一瞬の出来事だった。

口に突き刺した剣をハロルドが真上に切り上げる。

それによりハンマートレントは炎の大剣で、その身を内側から真っ二つに焼き切られ絶命した。

5メートル近くはある体がふたつに別れ、あっという間に炎に包まれる。燃え盛りながらハンマートレントは大地に倒れ伏した。

時間にすれば1分にも満たない交戦。決着は、文字通りの秒殺だった。