軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 次に生やすもの

番所での騒動から数日後。

ミーヤは新築の毛玉用ツリーハウスの縁側で、秋の柔らかな日差しが作るレース編みのような木漏れ日の中にいた。

シャレオツな感じで言うと、ウッドデッキでサンベイズ(日光浴)である。

木の枝に抱かれるようにして建てられた小さな家は、まだ木の香りが濃く残っている。

(風通しが良くて、気持ちいい!)

秋の森は、ゆっくりと色づきはじめていた。

赤、黄、橙。

どの葉も、夏の名残を少しだけ抱えながら、静かに季節を受け入れている。

『平民父ちゃん』の大工スキルは全くもって素晴らしかった。ミーヤの細かい注文に全て『おう! 任しとけ!』と応えてくれた。

頑丈かつ無駄のないフォルム、森の景色に溶け込むナチュラルな外観ながらも、三角屋根や丸い両開きのドアなど可愛らしさもある。

室内だってすごい。断熱や結露防止効果のある壁材を惜しみなく使い、綺麗なグリーンの壁紙まで貼ってくれた。

実はヒューゴはこのツリーハウスの制作時に、それなりの葛藤があった。

内心では『城で暮らせば何の不自由もないだろう』と思っていたし、あまり快適な住まいを整えてしまっては、城に帰って来なくなるのではと心配になったからだ。

だが、毛玉がしっかりした自我を持っていることを知ったからにはその意思を尊重するべきだろう。何よりも、ミーヤの家出は記憶に新しい。

森での活動を容認するならば、出来るだけ安全な場所として機能させなければならない。

ヒューゴは父ちゃんスキルを遺憾なく発揮して毛玉ツリーハウスの制作にあたった。

そしていそいそと出かける準備をしているミーヤをつかまえて、約束ごとを取り付けた。

1.日暮までには城に帰ること

2.森に泊まる時には事前に申し出ること

3.危険なことに出会ったら、迷わずすぐにヒューゴを呼ぶこと

『3』は、システム頼りだが、おそらくミーヤのピンチ要請には対応してくれる。ヒューゴは謎のシステムを、共にミーヤを守るためのものと理解している。

この三つの約束をすべて守るとすると、ミーヤは『半野良毛玉』ではなく、『放し飼い毛玉』だ。ヒューゴはわかっていたが、黙って魅惑の微笑を浮かべて誤魔化した。

『平民父ちゃん』だったならば、アタフタして隠し事はバレてしまうだろうが、今のヒューゴは変身を解いて『イケメン皇帝陛下』に戻っている。

変身スーツがなくとも、色々なスキルを持っているヒューゴは、やはり高スペックなのだ。

ミーヤよ! これが世に名高い『スパダリ』だ!

ちなみにミーヤは小学生女子の記憶しかないので、ロマンスファンタジー(TL含む)には明るくない。

さて。

そんな訳でミーヤは本日、毛玉ツリーハウスに初のお出かけである。たんまりオヤツも持たせてもらってご満悦だ。

ミーヤは森で毛玉として、じっくり考えたいことがあった。それは貯まった『愛されポイント』を使って、何を生やすか……ということだ。

今までに生やしたのは、頭の『黄色い花』、背中の『白い翼』、お尻の『お尻尾』。

一番最初の頭の花は、『生やす』の意味がわからず無駄にポイントを消費してしまった。今となってはミーヤ自身も『他の毛玉と区別がついて良いかも!』と割と気に入っているが、他に毛玉がいない現状としてはやはり何の役にも立っていない。

次に生やしたのは背中の翼だ。熟考に熟考を重ねて決めたのだが、初期性能はイマイチだった。実は上限値の定められていないチートオプションなのだが、ミーヤは気づいていない。

その次に生やした尻尾はというと、大変役に立っている。何より文字を書くことでヒューゴと意志の疎通が出来るようになったことが大きい。他にもぶら下がったり物を掴んで引き寄せたりと便利に使っている。伸び縮みするのも素敵仕様だ。

そして今回。

(何を生やしてもらおうかなぁ……)

毛玉に必要なもの。

まず頭に浮かんだのは『武力』だった。

森にはミーヤを捕食対象とする、怖い動物がたくさんいる。蛇や猛禽類、猫科の肉食獣、大きな猿っぽい動物……。ミーヤが行ったことのない森の奥からは、毛が逆立つほどの危険な気配さえある。刃物や銃を持った人間も怖い。

いくらヒューゴという守護者がいたとしても、それらに対抗する手段、または防ぐ手立ては必要だろう。

鋭い牙を持った大きな口、刃物のように切れ味の良い爪、敵を押さえつけて投げ飛ばすことの出来る筋肉もりもりの腕……。どれも魅力的だ。

だがミーヤにはひとつ制限がある。

毛玉に生やしたものは、人間の姿になった時も生えているのだ。

鋭い牙のある大きな口の人間では、街に出ることは出来ないし洗濯の仕事にも行けない。

(目からビームとか、どうかな!)

ほうほう、なかなか邪悪で格好良い。確かエジプトにそんな感じの神様がいる。

(口から火が出るとか!)

うーん、森で火はちょっと。森林火災が怖い。

(全体的に巨大化出来ないかな!)

それでは人間になった時に困るだろう。

ミーヤが鼻唄まじりで思案に耽っていると、『ピコン』というお知らせ音が鳴った。

《今ある部位に、機能を追加することは出来ません》

(えっ、聞いてたの? なんか恥ずかしい……)

ミーヤの独り言未満の思考が、バレバレだったらしい。ちょっとプライバシーについて説教したい。そしてもっと簡単な言葉で説明しろ。

(えっと……ぶいって、何ですか?)

《解説の対象年齢を一時大幅に引き下げます》

いや、一時じゃなくて引き下げてやれよ。

しばらくの沈黙ののち、再びピコンとお知らせ音がなる。

《『目からビーム』ではなく、『ビームが出る目を新たに生やす』となります。同じように『火を吹くことの出来る口を新たに生やす』。巨大化は出来ません。あくまで、追加オプションです》

それはちょっと……かなりSAN値が削られる。目や口の増えた毛玉は怖いし、人間になったら更に怖い。

(そっかぁ……)

ミーヤの頭の花が、少し萎れて俯いて見える。この花は、徐々にミーヤの感情に反応するようになった気がする。脳波とか脳内伝達物質とかに反応しているのだろうか? 意外に高性能なのかも。

そもそも毛玉の小さな身体に、今後どれだけのものを生やすことが出来るのだろう。いずれ針山のようになってしまう。

(追加オプション……うーん……)

ミーヤは色々な説明を受けて、再び思考の海に沈む。

いつの間にか日が傾きはじめ、月が黄色味を帯びている。

昼間の日差しが甘みとなって流れるように、久しぶりの森の日が暮れてゆく。