軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 毛玉様、確保!

毛玉捕獲のためにエレンとイレーヌ、そしてミーヤは森へと向かう。その道すがら『ピコン』とお知らせ音が鳴った。

《アップデートのためのメンテナンスが終了致しました》

(ほんと? わーい!)

ミーヤは『遅れても良いから詫び石くれ!』などとは言わない。素直に喜ぶピュアな毛玉だ。

《ただいまより新システムとして稼働いたします。『汎用毛玉タイプA』と『ヒューマンタイプ』の切り替えが任意で可能となりました。切り替えには新要素『だいしゅきポイント』が消費されます》

『稼働』はともかく『汎用』や『任意』は小学生にも毛玉にもハードルが高い。対象年齢を引き下げた方がいい。

だがミーヤはどうやら毛玉と人間の切り替えが出来るようになったことは理解したらしい。さすがは令和の小学生。

(わかりました! あとでお願いします!)

ミーヤは、ふんすと気合いを入れた。思い立ったら吉日。今から『洗濯下女のみんなに捕まっちゃおう作戦』を決行してしまうつもりだ。

ミーヤはエレンの袖をちょいちょいと引いた。

「わすれもの、あるの。せんたく室にいきたい。いい?」

寄り道の提案に、二人は快く頷いてくれた。今日はレギュラーで働きに来ているほとんどのメンバーが揃う日だ。このタイミングならば、多くの下女に報奨金のチャンスを渡すことが出来る。

「すぐ、もどるから」

二人にそう伝えて、ミーヤはいそいそと洗濯場のドアを開ける。中では朝イチの大仕事である仕分け作業が行われていた。

城中から集められた洗濯物の山を、布地ごと、汚れの具合ごとに分ける作業だ。現代日本のように『洗濯表示タグ』など付いていない世界だ。手触りひとつで『絹』『綿』『麻』等を仕分けする。個人の洗濯物、各部署の制服、シーツなどの備品もそれぞれ別にしておかなければならない。

そんな面倒な作業を鼻唄まじりにこなしていたマルタが、ドアからぴょこりと顔を出したミーヤに声をかけた。

「おやミーヤ。具合はもう良いのかい?」

こっくりと頷くミーヤ。

「さすが子供は回復が早いねぇ」

ささっとミーヤに近づき、ふわりと前髪を上げて額に手を当てる。カサカサのマルタ手がくすぐったくて、ミーヤは思わず首をすくめて『ひゃっ』と小さく声を上げた。

「まあ、熱は下がったみたいだね。朝ごはんは食べられたのかい?」

「おいしかった」

ミーヤの返事にマルタが、よしよしと頷く。

「そりゃー良かった。でも今日は仕事は休んで寝てた方が良いよ」

「うん、わすれもの、取りにきたの」

ミーヤはそそくさと荷物置き場の小部屋へと入り、心の中で叫んだ。

(毛玉に戻りたいです!)

《汎用毛玉タイプA、個体名ミーアリーヤ。ヒューマンタイプから毛玉へとモデルチェンジします》

さてここで。せっかくなので変身シーンをじっくり観察させてもらおう。毛玉が人間になる時は、キラキラエフェクトがいい感じに目隠ししていた。毛玉へ戻る場合はどうなのか。

ボヨヨヨーン!

バネが弾むような効果音が鳴り、モクモクと煙がミーヤを包んだ。毛玉からヒューマンタイプへの変身がキラキラの魔法少女仕様とするならば、こちらはまさかのギャグ仕様である。

もくもくの煙が霧散して、ミーヤの着ていた服の中から毛玉がモゾモゾと顔を出す。

毛玉は脱ぎ散らかされた服を、尻尾を使ってせっせとミーヤのロッカーへとしまうと、洗濯場へと続くドアを開けた。

* * *

ドアの開く音がして、何人かの下女が顔を上げた。下女たちは当然、ミーヤが出てくると思っていたのに、飛び出して来たのは黒っぽくて小さな丸い何かだった。

「きゃあー、なに?」

「いやぁー! こっちに来ないで!」

その黒っぽいものは、着地すると今度はチョンチョンと跳ね回りはじめた。

下女たちの悲鳴にエレンとイレーヌが何事かと洗濯場へと入って来た。マルタが数人の下女を背に庇って、黒っぽい何かと対峙していた。

「二人とも来るんじゃないよ! 変な鳥が迷い込んだみたいなんだ。急いでお城の巡回兵士を呼んで来ておくれ!」

マルタは洗濯物を叩き洗いする時に使う棒を構えて、なかなかに勇ましい。

「おかみさん……ちょっと待って。あれ……もしかして……」

おかみさんの視線の先……シーツの山の上あたりでパタパタと羽ばたいている黒い謎生物は、エレンが昨日から何度も取り出して見ていたチラシの似顔絵にそっくりだった。

「黒と茶の斑ら模様……背中に白い翼……頭のてっぺんに黄色い花!」

イレーヌが特徴を読み上げ、エレンが指差し確認する。そしてごくりと唾を飲み込み、同時に叫んだ。

「「毛玉様だ!」」

そこからは大騒ぎだった。イレーヌは虫取りあみを振り回して毛玉を追いかけたが、けっこう素早い毛玉に悪戦苦闘した。イレーヌの手つきがヘロヘロだったとも言う。

みんなで知らんぷりをして、エレンがこっそり後ろから飛び掛かると、ぴょいと飛んで逃げる。人海戦術で囲んで追い詰めると羽ばたいて空中へ。そのうちに小さな隙間に入って出て来なくなってしまった。

野生の毛玉にとっては、武器も持たない女性たちは脅威にはならなかった。何しろこの毛玉は、捕食生物だらけの森で今までしぶとく生き残って来たのだから。

けっきょく最後はミーヤの『毛玉様はナッツが好き』という情報を元に罠を仕掛け、ようやく洗濯籠の中へと収まった。

案外ミーヤはこの追いかけっこや駆け引きを、楽しんでいたのかも知れない。

* * *

毛玉捕獲騒ぎが一段落して、下女たちの息が整う頃。

「あれ? そういえばミーヤは?」

エレンがキョロキョロと洗濯場を見渡しながら言った。

「まだ荷物置き場にいるのかね? もしかして倒れてるのかも……!」

マルタが言いながら、大股で洗濯場を横切り、小部屋へと続くドアを開けた。

「いないね……」

当たり前だ。 毛玉(ミーヤ) は洗濯籠の中でポリポリと、ナッツを食べている。

「あっ……床に水で、何か書いてあるわ」

けだま つかまえて、

みんなの おねがい かなえてね

みーやより

「ミーヤったら……遠慮したのかしら……?」

「なんでだよ……ミーヤこそ、報償金が必要だろうに」

痩せっぽっちのミーヤ。どこで、どんな暮らしをしているのか。とてもまともな保護者がいるようには見えない。――いや、皇帝陛下だが。

「ミーヤにも……、報償金をあげてもいいよな?!」

「もちろんさ! ミーヤが来た途端に、毛玉様が現れたんだ。きっと、ミーヤが幸運を運んでくれたのさ!」

下女たちがみんな、そうだそうだと頷いた。

洗濯籠の中の毛玉は……。

それを聞いて、なんだかくすぐったくなって……。

ぺしゃんと平らに、潰れましたとさ。