軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話 その頃、ミーヤは……

(そろそろ、なんだよなぁ……)

診療所から直接お城に連れて来られて、今日で五日目だ。

ミーヤは一週間に一度くらい人間になる。きっちりした日にちは決まっていなくて、たぶん体調とか機嫌なんかも関係している。

“体調が万全で、精神的にも安定している”

そんな状態の時に、なんとなくムズムズして、寝て起きると人間になっている。

蛇に噛まれて、ヘロヘロになっていたから、その期間は抜きにして考えたとして、今日か明日あたりには、人間になってもおかしくない。

ミーヤは今、ヒューゴの私室で寝起きしている。天下の皇帝陛下のベッドの枕元に、房飾り付きの上等なクッションを用意してもらい、その上で寝ているのだ。

この状況で人間になってしまったら、とても困ったことになる。

何しろ、毛玉から人間になったミーヤは素っ裸なのだ。

皇帝陛下のベッドに、年端もいかない全裸の少女が寝ていたら、それは大変な事案になる。

ヒューゴのあだ名が『人間嫌い』ではなく『少女好き』になってしまう。

この世界には『ロリコン』という言葉はないが、法律で十六歳以下の少年少女は保護されている。

貴族や過去の王族には、権力を使って 悪(・) さ(・) をしていた者もいたが、そういう人物は非常に嫌悪される。それこそ、歴史に残るほどに。

ミーヤだって危険だ。

良くて陛下のお手付きを狙った侵入者、最悪刺客と見做されて拘束されてしまうかもしれない。

ミーヤはお城で非常に快適に暮らしている。毎食をヒューゴと一緒に、豪華な皇帝ごはんを食べているし、シャツの中に入って執務室にも連れて行ってもらっている。

ヒューゴの大きな手で撫でてもらい、ちょっとくすぐったいくらい甘やかされているのだ。往診に来た 獣医師(せんせい) からも、『快癒』のお墨付きをもらった。

そして、今日は朝から、ムズムズしているのだ。寝たらきっと人間になる。

(なんとかして、洗濯場へ行かないと!)

このお城でミーヤが頼れるのは、ヒューゴ以外では、洗濯場の下女たちだけだ。たとえ素っ裸だったとしても、マルタやイレーヌ、エレンたちがどうにかしてくれるはずだ。

ミーヤはそう思えるくらいには、洗濯場の下女たちを信頼していた。

問題は手段と道のりである。

洗濯場には、お城中の洗い物が、カゴに入って運ばれてくる。

(あの洗濯物カゴに紛れ込めば、きっと洗濯場に行けるんじゃないかな……)

幸いにも、ヒューゴは今日は重要な会議があって朝早くから馬車で出かけている。ミーヤはお留守番なのだ。

ミーヤはキョロキョロと、洗濯カゴを探した。クローゼットやベッドの下も見てみたが、洗濯カゴは見つからなかった。

(へーか、脱いだ服をどうしているんだっけ?)

寝る前や起きた時を思い返してみる。

(へーか、ポンって、その辺に置きっぱなしにしてた!)

ベッドの上に置いたり、ソファーの背もたれに掛けてそのままにしていると、いつの間にか消えている。おそらく、ヒューゴの部屋担当のメイドが回収しているのだろう。

ミーヤはちょっと呆れてしまった。

(へーかったら! 脱いだものは自分で片付けないとダメなんだよ。お母さんに言われなかったのかなぁ、大人なのに……)

言われない。言われないんだよミーヤ。ヒューゴは生まれながらの王族なのだ。そんなことを言う人は、誰もいない。

むしろ自分で服を脱ぎ着するヒューゴは、王族としては変わり者なのだ。

(メイドさんが夜着を回収してくれるんだよね? だったら、これに隠れていれば……!)

ミーヤはベッドの上に脱ぎ捨ててあったヒューゴの夜着をくしゃくしゃと丸めて、その中に身を隠した。

じっと息を潜めて、メイドを待つ。

やがてノックの音がして、返事がないのを確認してから扉が開いた。

入室したのは若いメイドだった。

寝酒のトレイを片付け、窓を開けて換気をし、テキパキとベッドのシーツを交換して整えていく。

ミーヤはシーツと共に、ヒューゴの夜着にくるまって身を固くした。心臓がドキドキと早鐘を打っている。

メイドはなぜか、ミーヤ入りの夜着を手に取り、スンスンと匂いを嗅ぎはじめた。

「はぁ……陛下の夜着……」

ポツリと呟く。

(えっ……?!)

「……良い匂い……」

(ひぃっ……!)

ミーヤは夜着の中でドン引きした。ガクブルだ。

しばらくするとメイドは満足したのか、夜着とシーツを丸めて洗濯物カゴに入れた。

ミーヤはコロリとカゴの中に落ちながら、心の底からホッとした。そしてちょっとヒューゴが心配になった。

(このメイドさん、大丈夫かな……)

気を取り直して、カゴの中でモゾモゾと体勢を整える。ミーヤは奥の方へと潜り込むと、ストンと落ち着いた気持ちになった。

柔らかくていい匂いのする布に包まれると安心するのは、何も毛玉だけではない。

おそらくこの洗濯カゴは、洗濯場へ直行だ。そう思うと途端に眠くなった。メイドがカートを転がす、カタカタという振動も気持ちがいい。

ミーヤはうとうとと眠りの中に引き込まれてしまった。

* * *

「ミ……、……ヤ、ミーヤってば!」

気がつくと洗濯場にいて、エレンに揺り起こされていた。

「ミーヤってば、なんだって洗濯物に埋もれて寝てるんだ? しかも素っ裸で……」

エレンは呆れたように言った。

ミーヤは目を擦って身体を起こした。エレンの質問への答えを用意していなかった。

「えっと……なんでだろう……」

困ってしまい、俯く。

「あんた、服や靴はどうしたのさ。誰かに取られたのかい?」

ミーヤのカーテンワンピースや、爪先のヨレた赤い靴を欲しがる人がいるだろうか? もちろんミーヤにとっては大切だけれど。

「わかんない……」

「もう……! しょーがない子だね。ほら、これでも羽織って待ってな。あたしの古着で良かったら、ひとっ走り家に帰って持って来てやるよ!」

エレンはミーヤにシーツを被せると、バタバタと走って出て行った。

ミーヤが手持ち無沙汰で不安になりかけた頃、エレンは息を弾ませて、両手に服を抱えて戻って来た。

「ほら、あたしがちびすけだった頃に着てた服だ! ちょっとボロいけど、お気に入りだったんだぞ。パンツは昨日縫い上がったばかりの新品だから汚くないよ」

エレンは早口で言いながら渡してくれたのは、子供用の夏のエプロンドレス。昨日縫い上がったばかりだというパンツは縫い目がガタガタで、ミーヤの方が上手なくらいだった。

「さ、裁縫は苦手なんだよ!」

ミーヤがパンツをじっと眺めていたら、エレンが照れくさそうに言った。

「ううん、ここのリボンがかわいい」

かぼちゃパンツには、赤い小さなリボンが付いていた。

「そうかい? 気に入ったなら良かった! さあ、早く着ちまいなよ。髪の毛も縛ってあげるよ!」

エレンがうんうん唸りつつ仕上げてくれた三つ編みは、あちこちからピンピンと髪の毛が飛び出ていた。

けれど、先っぽにパンツとお揃いらしき、小さなリボンを結んでくれた。

ミーヤが洗濯桶の水鏡を覗き込むと、三つ編みの先で赤いリボンが揺れていた。

またひとつ、ミーヤの宝物が増えた。