軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 二つ目の『生やす』

(よし! 決めた! 生やして欲しいものがあります!)

ミーヤは目を閉じて、心の中でそう叫んだ。

《何を生やしますか?》

唐突に、効果音もなしで無機質に流れるアナウンス。若干の手抜き感が漂う。きっと、 人気(にんき) のない低予算のゲームなのだろう。

(翼が欲しいです! 白くて可愛いやつ!)

翼ならば畳めばあまり邪魔にならないし、手足と違って毛玉に生えてもそう大きな違和感はないはず。

妖精みたいな透き通った綺麗な羽根と迷ったが、頑丈さで羽毛の翼が一歩リードした。

《どこに生やしますか?》

前回と同じパターンで質問が続く。

(翼は背中……で良いんだよね?)

ミーヤはまん丸い毛玉なので、どこが背中なのかちょっと自信がない。後ろ側の半分よりちょっと上あたりだと思うけれど、そんなあやふやな指定で大丈夫だろうか?

(また『取り消しは出来ません』って言われそうだから、慎重にいこう!)

(あの……人間で言うと背中……肩の下のへんにある骨のところでお願いします。鳥みたいに二枚セットで……羽ばたいて飛べるやつ!)

これでもかというくらい、詳しく指定する。イメージは天使の白い翼。肩甲骨が出てこなかったのと、翼を『 一対(いっつい) 』と表現出来なかったのはご愛嬌だ。毛玉にしては頑張った。

ミーヤは自分の選択に、今度は後悔しない自信があった。

(翼、すごく良い!)

危険な目に遭った時に空へと逃げられるのは、生き残る上で大きなアドバンテージとなる。単純に飛ぶことへの憧れもあるし、木の上に巣を作ることができるかもしれない。

美弥だった頃、ツリーハウスにはめちゃくちゃ憧れた。庭の柿の木に段ボールで小屋もどきを作り、落ちて怪我をして叱られたことがあるほどだ。

毛玉の巣とツリーハウスは別物のような気もするけれど。

白を選んだのは『可愛い』と思ったから。ミーヤの毛色は濃い茶色だ。ところどころが 斑(まだ) らになっていて、保護色としては大変優れているけれど、地味だしなんだか汚れているみたいに見えるのだ。

それに……。ミーヤは建国祭の日に、可愛いお仕着せを着たのが嬉しくてたまらなかった。毛玉だって可愛くなりたい。その方がヒューゴだって喜ぶに違いない。

(どうしても目立って危険なようだったら、水溜りでゴロゴロ転がればいいよね)

ミーヤはこれでも、ずっと森で暮らしてきた毛玉なのだ。生き抜くための手段も知っている。

目を閉じて、ワクワクしながら待つ。

しばらくすると、背中でポンッと音がした。ドラムロールなどで盛り上げて欲しいところなのに、残念ながらナシ。やはり低予算のゲームに違いない。

早速、パタパタと羽ばたいてみる。ふわりと身体が浮き上がった。

(すごい! わたし飛んでる! 飛んでるよ! 今日からただの毛玉じゃない……飛び毛玉だ!)

それを言うなら頭に花が生えた時点で、ただの毛玉ではない。正体不明感がますます加速していることに、ミーヤは気づいていない。

ついでに言えば『飛び毛玉』は、あまり格好いいネーミングではない。

そして、初飛行の喜びと感動を声に出して叫びたかったが、残念ながらミーヤは鳴き声を持たない毛玉だった。どんな翼か見ることも出来ない。まん丸い身体はどう頑張っても振り向くことが出来ないのだ。

仕方なくそのまま羽ばたいて泉へと向かった。はじめて街へ出かける前に、行った水鏡の泉だ。

(思ったよりも高く飛べないなぁ)

だいたい地上から三十センチくらいのところを、フラフラと飛んでいる。背中から聞こえてくる音は『バサバサ』ではなく『パタパタ』だ。どうやら小さな翼らしい。

泉に到着して、さっそく背中を向けて……がっかりした。

(うん! 見えない! 知ってた! だってわたし、振り返れないもん!)

まん丸い毛玉は、首を捻ることも、振り返ることもできなかった。

仕方なしに、身体の側面を映して横目でチロリと眺めてみる。最大限に縦に伸びて身体を捻るようにすると、ギリギリ翼の先っぽが視界の端に入った。

(ち、小さい……!)

ミーヤは子供の手のひらにでも乗れるくらいの小さな毛玉だ。ヒューゴの大きな手なら、片手ですっぽりとおさまってしまう。

だからその小さなミーヤに生えた翼も、小さくて当たり前なのだけれど。

(これじゃあ、バランスが悪いんじゃない?)

ミーヤの背中の翼は、人間の指先程度の大きさしかないのだ。なぜこれで飛べるのだろう。デタラメにも程がある。

(ああでも、低予算のペット育成ゲームなんて、そんなモノなのかも……)

ミーヤはこの先、このセリフを何度も口にすることになる。深く考えなくて済む、とても便利な魔法のセリフだ。

チョロっと見えている限りは希望通りの白い翼だし、とりあえずは飛べているのだ。贅沢を言ったらキリがない。だいいち、もう取り消せないのだ。

(大鷹みたいに高く飛べたり、燕みたいに速く飛べるようになりたいんだけどなぁ)

たくさん食べてたくさん寝れば、そのうち大きくて立派な翼になるだろうか? 人間だった頃、美弥の周りの大人はみんなそう言っていた。

『大人になったらね!』

美弥は子供だからまだ無理だと言われる度に、早く大人になりたいと思っていた。実際にはそんな日は来なかったのだけれど。

しかも……。

実はミーヤは物心ついた頃から手のひらサイズだ。ほとんど大きくなっていない。だからたぶん……。きっと翼もそれほど大きくはならないだろう。

ミーヤのお腹がキュルキュルと音を立てた。お腹がすいたのだ。今日はもう、大きな木の下へは行ってきた。残念ながらヒューゴは来ない日だったらしく、色紙もおいしい食べ物もなかった。

ミーヤは食べ物を探しに行くついでに、翼の性能を確認することにした。ミーヤは力いっぱい翼を羽ばたかせた。

最大速度と、最高高度。翼が生えたことによる、自分の出来る立ち回りについて入念に頭に入れる。この慎重さと臆病さ、辛抱強さこそがミーヤの最大にして唯一の強みだ。ミーヤは弱いからこそ、過酷な生存環境を生き抜いてきたのだ。

色々試した結果、現時点で飛んだ場合のスピードは、蝶や蚊と同じくらいだとわかった。

つまり現状では、ミーヤを餌とみなす動物に見つかったとしても、空へと逃げることも、スピードで逃げ切ることも期待出来ないということだ。

『あまり役に立たないかも知れない』という考えが頭に浮かぶ。翼に対して憧れと期待が大き過ぎたために落胆も大きい。ミーヤは遺跡に戻って、巣材にくるまってふて寝したくなった。

(でもお腹すいてるし……)

ミーヤのお腹がまたキュルキュルとなった。前向きに考えれば、最初に『生やした』頭の花と比べたら、すでに飛べているのだから、格段に役に立っている。

(今まで届かなかった、木の実や果物を採れるかも……。体当たりとかで!)

大空へと舞い上がるのは無理でも、木の枝から枝へと飛び移ることなら出来るだろう。

ミーヤは気分を切り替えて、森の奥の実のなる木が多いエリアへと向かうことにした。

ミーヤが持つ餌場は五つ。天気と季節によってはあと二つくらい追加される。重要なのは危険度で、次いで美味しいもの見つかる場所、水場が近いことなどの条件からその日に向かう場所を決めるのだ。

もちろん、ヒューゴの持って来てくれる食べ物が最上だし、ヒューゴに会える確率の高い大きな木の下が、ミーヤにとっては一番の餌場ではあるのだが、ヒューゴのくれる食べ物だけでは生きてはいけない。

ミーヤは案外と、燃費の悪い毛玉なのだ。

目指す森の奥の餌場は食べられるものが多く、それを目当てに虫や小動物が集まる場所だった。

小さな生きものがたくさん集まる場所には、それを餌とする危険な捕食者が現れる。

普段は使わない、危険度も期待値も高い餌場へと小さな白い翼をパタパタと羽ばたかせて進む。

そんなミーヤを待ち受けているのは、果たして美味しい果物だけなのだろうか。