軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 愚痴をこぼしてみました

「疲れたよ、アビちゃん……」

面接と、さらには帰り道での諸々にと、久しぶりの遠出にぐったりとした俺は、玄関で出迎えてくれたアビちゃんにただいまを告げてすぐに、そう愚痴っていた。

そんな俺の愚痴を親身な様子で聞いてくれていたアビちゃんだったが、突然、シュビッと一度、跳ねる。

次の瞬間、その体を細く変形させると壁の穴を通って、アビちゃんは深淵に行ってしまった。

「え……もしかしてさすがに愚痴りすぎて、俺、うざかった?」

急に深淵へのお散歩に行ってしまったアビちゃんを見て、俺は急に不安に襲われ、思わず反省してしまう。

いくらテイムモンスターとはいえ、アビちゃんだってしっかりとした知性を持っている。それは、ここしばらく一緒に過ごしてみて、はっきりと確信していた。

であれば確かに、いつまでもグチグチと俺の愚痴を聞かされるのは、アビちゃんには苦痛だったとしても、全然おかしくない。

俺は深く反省しつつ、それでも気になって壁の穴を覗きこむ。

──あれ、ドラゴン、じゃなかった。深淵竜の姿がないな

これまで深淵を覗いた時はいつもいた、深淵竜の姿が見当たらない。

いつもブレスを吐いて、チカチカと眩しくて覗くのには邪魔な存在だったし、散歩にいくアビちゃんにはブレスをはきかける鬱陶しい存在だった。

それでもこれだけの期間、眺めていると、なんとなく近所のよく吠える犬、ぐらいには親しみが湧き始めていたのだ。

それに、アビちゃんが散歩から戻ってくるとそっちの方にブレスを吐くので、目印としても役にたってはいた。

「うーん。どう頑張ってもこの範囲しか見えないしなー」

少しでも見える範囲が広くならないかと、壁に体をつけながら穴を覗く角度を変えたりと俺は色々と試してみる。

しかし結果は一緒だ。

そうやって俺が深淵を覗き続けていたときだった。

見慣れた姿が目にはいる。

アビちゃんだ。

「おお、アビちゃん、お帰り! ……ごめんね、俺、愚痴ばっかり話しちゃって。うんざりしたよね」

こちらに飛び込んできたアビちゃんに、俺はさっそく謝罪を伝える。

ふよんふよんと二回跳ねるアビちゃん。

どうやら怒ったり、俺に呆れてたりする感じではない。

そのアビちゃんの体から、ぽんっと深淵の果実が飛び出してくる。

「あっ──これ、もしかして疲れたーって俺が言ってたから、深淵に採りにいってくれたの?」

ほよんと一度跳ねて肯定するアビちゃん。

「ありがとう……アビちゃんは良い子だね……」

どうやらアビちゃんは俺の愚痴が嫌で逃げ出したのではなく、俺を元気付けようとしてくれていたようだ。

面接とその他で疲弊した俺の心に、アビちゃんの優しさが染みる。

俺はありがたく、深淵の果実を手で割って、さっそく食べ始める。

その優しい甘さ。一口ごとに、疲れた心と重い体が癒されていくようだった。

「そうだ、そこから覗いていたんだけどさ。ドラ……じゃなかった、深淵竜が見当たらないみたいなんだよね。周りに居なかった?」

食べながら俺がアビちゃんに尋ねると、ほよんと一度跳ねて肯定してくる。どうやらアビちゃんも見てないらしい。

「……もしかして、アビちゃんが、倒しちゃったとか?」

ほよんほよんと二度跳ねて、それを否定するアビちゃん。

──さすがに違うか。

そんなことを話しながら深淵の果実を食べ終えた時だった。

アビちゃんが体の一部を伸ばして俺の手のひらをとんとんと優しくつつく。

「え、手のひら? あ──」

俺は言われてようやく気がつく。

そして慌てて鑑定スキルを発動して、自分の手のひらを、左目の前にかざす。

『深淵の祝福10/10』

鑑定で現れた文字。その文字がまるで読み上げてほしいかのようにゆっくりと点滅していたのだった。