作品タイトル不明
第10話 覗き魔の眼球を使ってみました
「──さすがにブランクがあると、難しいか」
思わず漏れてしまう弱音。
朝はあれほど軽かった体も、今は少し重たい。
俺は、手応えが芳しくなかった面接終わりに、とぼとぼと帰宅しているところだった。
電車を乗り継いできたここら辺は、ダンジョン災害の被害が少なかった地域なのだろう。
人通りも多く、商業ビルにおしゃれな店舗も立ち並び、自宅警備員の俺にはなかなかに居心地が悪い。
そんな時だった。ざわざわとした騒ぎが遠くに聞こえてくる。
──なんの騒ぎだ?
遠目にみて、人混みができている。
──有名人でも、いるのかな?
俺はちょっとした好奇心で 覗き魔の眼球(デバガメゴヨウタツ) スキルを使用してみる。面接のストレスでいつもより、ちょっとだけハイになっていたのだ。
世界が一瞬にして鮮明になり、すべてのものの動きがゆっくりになったかのような錯覚に襲われる。
これもスキルの効果の一つだった。
その鮮明になった世界で、人混みの中心人物たちの姿が、隙間から覗ける。
──あー、高ランクの探索者たちか。これは確かに珍しいかも。
人混みの中心で一身に注目を集めている高ランク探索者たち、五名。
女性二人に男性三名のパーティーのようだ。
その周囲には取り巻きのように関係者らしき人々が付き従い、それを一般の物見高い人々がさらに取り囲んでいる状態だった。
──内包された鑑定スキルで、探索者のランクまで見られるのか。あの真ん中の女性、プラチナランクかー。最高位の探索者だ。それなら、この人だかりも納得だね。
五人の高ランク探索者の中でもいっそう目を引く見た目の、白銀の髪をした玲瓏な女性探索者。探索者には詳しくないが、あの見た目で最高位の探索者だ。きっと有名なのだろう。
自宅警備員をしながら、久しぶりの採用面接で打ちのめされている俺とは、まさに住む世界が違う存在だといえる。
そこで一つ、俺は気になる点が出てくる。
──あれ? 探索者のランクが鑑定スキルで見えるってことは、ランクはダンジョンに由来するってこと?
ダンジョンに関することは国によって色々と秘匿されている情報が多いらしいのだ。
単なる自宅警備員の俺には知りようもないことなので、なかなかに興味深い。
そうやって好奇心のあまりスキルを使って覗いていたせいか、銀髪の女性探索者が急に立ち止まると、ばっと振り返りこちらを見てくる。
──やばっ
何がやばいのか、はっきり意識する前に俺はスキルの発動を止める。そしてそのまま自然なそぶりでその場を立ち去ろうと歩き出す。
幸い、彼女たちを取り囲む人垣は何重にも重なっている。
キョロキョロとしている女性探索者に、同じパーティーの仲間らしき人物が何か話しかけている。
それを手で制した女性探索者が急に軽やかな動作で跳び跳ねた。
一瞬にして近くの電柱の途中の高さまで飛び上がると、そのまま電柱を片手でつかみ、周囲にその玲瓏な瞳で視線を送り始める。人間離れした跳躍力と握力。
──あれって、覗き見されてたのがバレてて、絶対除いてた俺のこと、探しているよね。ヒェ……はっきりとは言えないけと、これ、見つかったら不味いやつだ……!
こういうとき、不自然になるのが一番不味い。
そう、本能的に悟って、俺は意識して歩く速度を変えないように努めながら、何とかその場を脱出したのだった。