軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レヴィアタン侯爵からの招待状

久しぶりにヴィルに会えて嬉しかったが、これからレナ殿下のいる教室にいかなければならないのが憂鬱だ。

はあ、と本日三回目のため息を吐いていたら、ヴィルが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「ミシャ、顔色が悪いな。今日は休んだらどうだ?」

顔色が悪く見えるのはあなたのせいなのですが……! と言いたかったのに、麗しい顔面が目の前にあると、文句も舌先から消えてなくなる。

ヴィルは美しく産んでくださったお母さんに心から感謝してほしい。

「あの、大丈夫ですので。では、ここでお別れですね」

「ちょっと待て」

ヴィルが懐から封筒を二通取り、私へ差しだす。

「レヴィアタン侯爵から預かってきた」

「なんですか?」

「 降誕祭(ノエル) のパーティの招待状だ」

一通は私宛で、もう一通にはエアの名前があった。

「今年は盛大なパーティを開催するらしい」

「わあ! 楽しみです! ありがとうございます」

喜ぶ私を前に、ヴィルはむすっとした表情を浮かべる。

「あの、まさか招待されていないのですか?」

「いや、招待状は受け取っている」

「ならばなぜ?」

「レヴィアタン侯爵に先を越された」

「はい?」

なんでもヴィルの実家でやる降誕祭のパーティに私を招待しようとしていたらしい。

「リンデンブルク大公家のお屋敷である、降誕祭のパーティですか?」

「ああ。これまでまともに参加したことはなかったが、毎年盛況していると聞いている」

なんて催しに私を招待するつもりだったのか。

婚約者でも恋人でもない女なんか招待した日には、参加者全員から大顰蹙を買ってしまうだろう。

考えただけでも、ガクブルと震えてしまう。

私に降誕祭のパーティの招待状を送ってくれたレヴィアタン侯爵夫妻には感謝しかない。

それにしても降誕祭のパーティだなんて、わくわくしてしまう。

「急に顔色がよくなったな」

「はい! 気分によって、変わりやすいんです」

「では先ほどは、どうして顔色を悪くしていた?」

「そ、それは、えーー、雪属性の杖が王都で売っていないと聞いたので、思いのほか、衝撃を受けていたのかな、と」

それも私を不安にさせていた原因の一つである。嘘ではない、嘘では。

「杖については心配するな。とっておきの素材で、すばらしい品を作ってもらおう」

なんでもヴィルは知り合いに魔道具作りを生業としているドワーフ族がいるらしい。

「ヴィル先輩のおかげで、不安が吹き飛びました」

そうだろう、そうだろうと頷いている。

なんとか誤魔化せたようで、ホッと胸をなで下ろした。

もう大丈夫だと言っているのに、ヴィルは私を教室まで送ってくれた。

なんて紳士なの!! と感激するわけもなく、目立ちたくないので私のことは放っておいてくれ、と心底思ったのだった。

到着がギリギリで、レナ殿下はノアを中心としたクラスメイト達に囲まれていたので、視線を合わせることすらできなかった。

エアとは朝の挨拶だけ交わす。すぐにホイップ先生がやってきてホームルームが始まったため、降誕祭のパーティの招待状を渡すことはできなかった。

昼休みとなり、エアにヴィルから預かったレヴィアタン侯爵邸で開催される降誕祭のパーティの招待状を渡した。

「いいのか?」

「ええ。ぜひともエアに参加してほしいみたい」

「光栄だなあ」

なんでもエアは降誕祭のパーティをすること自体、初めてらしい。

「どんなことをするんだ?」

「ごちそうを食べて、楽しく過ごすだけよ」

この世界で言われる降誕祭というのは、クリスマスみたいなものだ。

聖人の誕生日をお祝いする日で、期間は月の下旬から翌月の上旬までとかなり長い。

年が明けても、新年を祝うことはせずに、聖人の誕生日を祝うのだ。

その辺の文化の違いについて、戸惑う気持ちがあったのは、私が転生者だったからなのだろう。記憶は戻っていなくとも、魂に年末年始を過ごす元日本人の習慣が染み込んでいたに違いない。

その辺の感覚は、数年過ごしたら、慣れてしまったのだが。

「降誕祭のパーティって、どんな料理がでるんだろうなー」

「実は、私もあまり詳しくないの」

「ミシャは貴族なのに?」

「そうだけれど、降誕祭のシーズンのラウライフは冬真っ只中だから、贅沢な料理を食べる余裕がないのよ」

雪が深くなると、狩りにすらいけなくなる。

そういう状況になれば、秋になるまで仕込んだ保存食をちまちま食べて過ごすことになるのだ。

「降誕祭には七面鳥や鵞鳥、鶏の丸焼きとか食べるみたいだけれど、ラウライフでは家畜は冬になる前に潰してしまうの」

でないと、家畜達は冬の寒さに耐えきれず、凍死してしまうから。

運がいい年は、ラウライフに生息する雪鳥の丸焼きが並ぶ日があるものの、そのシーズンは大抵雪深くなる。狩猟になんて出かける余裕などない。

「ここ五年くらい、鶏のオイル漬けが食卓に並んでいたわ」

「そうだったんだな」

そんな事情があるので、降誕祭のパーティのごちそうに期待が高まっていた。

エアは楽しげな様子でいたのだが、何かを思い出したようでハッとなる。

「あ! そうだ。服装はどうしたらいいんだ? 俺、パーティなんてどんな格好でいっていいのか、まったくわからないんだけど」

「エア、心配いらないわ。ヴァイザー魔法学校の制服が正装なのよ」

「えっ、制服でいいのか?」

「いいの。私も制服で参加するから」

魔法学校の生徒でよかった、とエアと一緒にしみじみ思ったのだった。