軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リスに囲まれし青年との出会い

魔法学校に入学するための筆記試験は五科目。

総合魔法に、魔法歴、魔法式に魔法薬学、古典である。

もっとも難しいのは、魔法陣を作成しないといけない魔法式だろう。

幸いと言うべきか、私は魔法式の問題が得意だった。

問題は魔法の歴史について答える魔法歴について。何度参考書を読んでも、頭上にハテナが浮かぶほど入り交じった情報がみっちり詰め込まれているのだ。

同じ名前の魔法使いが何十人と登場するのが、余計にややこしく思ってしまう原因なのかもしれない。

歴史背景を理解しようとするのは即座に諦め、丸暗記で挑んだ。

二科目終えると、昼食の時間となる。

食堂が開放されているようだが、食べながら次の試験について勉強したいので、行きがけに買ってきたパンを手に、中庭へと移動した。

中庭は森に似ていて、一見して迷い込んでしまいそうだ。

けれども故郷にある真っ白な森に比べたら、まだわかりやすい。

迷子にならないよう、木や植物を確認しながら奥へと進んでいく。

どの辺りで食べようか、と考えていたら、どこからか「チッ!」と鳴き声が聞こえた。

鳴き声が聞こえたほうへ視線を移すと、リスが私のドレスの裾を掴み、引いているではないか。

「え、こんなところにリス!?」

学校で飼育されているリスなのだろうか。

そういえば、小学生の頃、学校で飼っているニワトリやウサギがいたが……。

「チッ、チチッ!」

「え、何? こっちへ来いって!?」

「チー!」

そうだ、とばかりにリスは鳴き、自然豊かな中庭を駆けていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

リスのあとを追って走ること三分――行き着いた先にリスがたくさんいるだけでなく、人が倒れていたのでギョッとした。

びっくりした。

倒れている上に、童話のお姫様かってくらい、リスに囲まれていたから。

勲章みたいな金細工にチェーンが付いた黒い外套をまとった、輝く金髪にすらりと長い手足を持つ、見目麗しい青年だ。

魔法学校の制服ではないので、生徒ではないのだろう。

苦しげな様子で咳き込んでいるので、慌てて駆け寄った。

「あの、大丈夫ですか!?」

声をかけると、意識はあるようでうっすら目を開く。

けれどもこちらの呼びかけに応じず、すぐに瞳を閉じた。

喉を押さえ、眦にはうっすら涙が浮かんでいた。苦しいに違いない。

ここで、ハッと思い出す。

何かあったときのために、と故郷から魔法薬を持ってきていたのだ。

「咳止めの魔法薬があるのですが、いかがでしょうか!?」

居酒屋で店員イチオシのメニューを紹介するような言い方になってしまった。

まだ無反応かと思いきや、青年は言葉を返す。

「いい。どうせ、効きやしないから」

「物は試しに! この魔法薬、王都の薬局で、よく効くと評判だったのですよ」

自分で作っておいてなんだが、発注が絶えない人気の魔法薬だったのだ。

なんでも王都は空気があまりきれいではないようで、喉を悪くしている人達が多いらしい。

そのため、飛ぶように売れていたようだ。

「……」

青年が激しく咳き込んでいる間に、近くにいたリスが魔法薬の瓶を私から奪う。

それだけでなく、器用に栓を抜き、青年に飲ませたのだ。

突然リスから薬を飲まされ、青年がギョッとしたようだが、口にしたあとも驚愕の表情を浮かべていた。

「この薬は――!」

青年の咳はぴたりと止まり、とてつもない速さで起き上がる。

どうやら魔法薬は効いたようなので、ホッと胸をなで下ろした。

ここでのんびりしているわけにはいかない。午後からの試験のために、一刻も早く昼食を食べなければならないのだ。

無言で立ち去ろうとしていたら、青年が私の腕を掴む。

「おい、この魔法薬をどこで購入した?」

「はい?」

「今、どこに行っても王都では売っていない、人気の魔法薬なのだが」

どうやら私が納品していた魔法薬は、欠品を起こしていたようだ。

魔法学校の試験勉強をするので、魔法薬作りは休んでいたのである。

その間に売り切れていたのだろう。

なんとなく、私が調合したものだ、と言ったら面倒な事態になりそうな気配を感じる。

この場では答えずに、適当に誤魔化していたほうがいいのだろう。

「父が持たせてくれた魔法薬ですので、よくわかりません。必要であれば、差しあげます」

持っていた五本の魔法薬を青年に押しつける。

「おい、これは貴重な魔法薬なのではないのか?」

「どうでしょう? あまり詳しくありませんので」

市販されている他の薬が効かないというので、このままにしておくわけにはいかない。

試験が終わったら、すぐに魔法薬を作って出荷したほうがいいのだろう。

「こんなに受け取れない」

「いいえ、大丈夫です! すぐに、また販売されると思いますので」

「どうしてわかる?」

「いえ、その、なんとなくです」

青年は私を追及するような眼差しを向けていた。

まさに、蛇に睨まれた蛙のような心地を味わってしまう。

「何度も問い合わせ、再販するように頼んだのに、店主から難しいと言われていた魔法薬だ」

「へ、へえ……」

そういえば、と思い出す。

長年、魔法薬の取り引きをしていた商人が直接家を訪れ、涙目で魔法薬を売ってほしい、と懇願してきたと。

私は試験勉強で忙しかったので、魔法薬は作れず、対応も父に任せていたのだ。

もしやこの青年が、商人に圧力でもかけていたのだろうか?

だとしたら、商人に対して申し訳なくなってしまう。

そんな話はさておいて。このままここで長話をしている暇などなかった。

「あの、離していただけますか?」

腕を握られ、繋がっている犬のような状態だったのだ。

お願いすると、青年はあっさり離してくれた。

「お前、名前は?」

「名乗るほどの者ではありませんので!」

お決まりの台詞を言ったあと、この場から逃げるように去って行く。

待て! という声が聞こえたものの、これ以上、時間をロスするわけにはいかなかった。

結局、中庭で食べずに、人がちらほらいる噴水広場でパンをかじりつつ、勉強したのだった。

なんとか試験を終えて、母と共に家路に就く。

結果発表は一ヶ月後に届いた。

そこには一次試験通過の文字が書かれている。ホッとしたのは言うまでもなかった。

◇◇◇

魔法学校の受験者数は二百名の合格者に対し、七百名以上もいたらしい。

その中で、私は三百二十番目の成績で通過したようだ。

一ヶ月しか勉強していないので、頑張ったほうだろう。

この成績で合格なんてできるのか。不安になってきた。

実技試験は父が家庭教師を雇い、魔法学校の試験対策を行った。

おかげで、少し自信が付いた気がする。

魔法薬の納品も再開した。

まさか王都に、私が作る魔法薬しか効果を発揮しない 男性(ひと) がいたなんて。

怖そうな雰囲気だったが、リスに囲まれていたので、本来は心優しい青年なのかもしれない。

かなりの数を納品したので、しばらく苦しまずに済むだろう。