作品タイトル不明
キャロラインの告白①
「ごめんなさい。こんなことしたくなかったのだけれど、ツィルド伯爵に命じられたの」
やはり、ツィルド伯爵が関わっていたようだ。
呆れて言葉も出てこない。
防音魔法が展開されていると聞いて安心したのか、何も聞かずともぺらぺらと喋り始めた。
「ここにやってくる客を眠らせて、金目の物を奪うように言われているのよ」
睡眠薬を飲ませた理由は盗みを働くためだったようだ。
相手が私物の紛失に気付いても、転移術でしか入れないため、ここへやってくることはできない。
さらに睡眠薬の中にはここでの記憶を曖昧に、夢の中での出来事のように思わせる作用があったらしい。そのため、私物がないことに気付いても、どこかで紛失したのではないか、と思う者がほとんどだという。
なんという手落ちのなさなのか、呆れてしまう。
「ツィルド伯爵は、そういうおかしな薬をたくさん所持しているの。私も――あら、そういえば、口止めの薬は効果が切れているのかしら?」
想定していた通り、キャロラインにも事情を話せなくなるような薬を飲ませていたようだ。
私の祝福が効果を発揮し、上手い具合に解毒できたのだろう。
「あの、どうしてそんなお方の言いなりになっているのですか?」
「彼は……私の身柄を保護してくれるから」
旅券がなく、行く当てもない異国人が暮らすには、 支援者(パトロン) が必要だ。
キャロラインはツィルド伯爵のあくどさに気付いておらず、うっかり保護を求めてしまったようだ。
「数年の間はツィルド伯爵の愛人で、そこそこいい暮らしをしていたのよ」
けれども年齢を重ねるにつれて、愛人という立場は揺らいでいったという。
「愛人を止めさせられたあとは、しばらく高級宿で働いていたのだけれど……」
暮らしは楽になるどころか、ある日を境に借金が増える一方だったという。
高級宿で働いていたのならば、実入りはかなりよかっただろう。
それなのに何故、借金を抱えることになったのか。
「息子がツィルド伯爵に保護されたのよ」
「――!?」
あれだけ探しても発見できなかったルドルフは、どうやらツィルド伯爵のもとにいたらしい。
「息子を守る代わりに、多額の金額を請求されたわ」
とっくの昔に成人を迎えた息子である。見放してもいいのに、キャロラインはそれをしなかった。
「私も、息子に対する情があったのね……。自分でも驚いたわ」
高級宿でも働けなくなったので、この船で働くことになったという。
「けれどもこの仕事は、相手に睡眠薬入りの紅茶を飲ませて盗みを働くという、とんでもないものだったわ……」
もう何もかも捨てて国に帰りたい。
キャロラインはそう思っていたという。
「国に帰ったらきっと、私はすぐに殺されると思うわ」
「それは、どうしてですか?」
「とんでもない罪を犯したから」
事件の核心に迫るような話を、キャロラインは打ち明けた。