作品タイトル不明
揺さぶりと探り
キャロラインはぐっと私に接近し、囁くような小さな声で訴えてくる。
「わ、私、ルームーン国の人間なの。事情があって、帰れなくて……」
「どうして帰れないのでしょう?」
「旅券がないのよ。あの人に、奪われたの」
「あの人?」
「……」
なぜ旅券が奪われたのか。詳しいことを聞こうとするも、キャロラインは押し黙る。
私の祝福では、どうにもならないことだったのか。
もう少し揺さぶりをかけてみよう。
「助けてあげたいのは山々なのですが、どうやら話せないことがあるようで……。そういったお方に手を貸すのは、難しいように思えます」
「ち、違うわ。あの人のことは、口に出すのもおぞましくて……」
キャロラインは顔面蒼白となる。あの人とは、ツィルド伯爵のことなのだろうが……。
ここでヴィルが、キャロラインが淹れた紅茶のカップを持ち上げた。
ちらりと私のほうを見る。睡眠薬入りの紅茶について探れと言いたいのだろう。
「おやおや、ルシーお嬢様、話が長くて喉が渇かれたのですね」
カップに口を付けようとした瞬間、キャロラインが待ったをかけた。
「ねえ、それ、飲まないほうがいいわ」
「どうしてでしょう?」
「それは……」
ここが正念場である。ここで睡眠薬が入っていることを言えなければ、これ以上この場で彼女を探る意味はなくなる。
キャロラインは〝あの人〟とやらを恐れているのか、血の気が引いていく。
そんな彼女を安心させるために、防音魔法について説明した。
「安心してくださいませ。この部屋はわたくしめの魔法で、外部に声が聞こえないようにしておりますので」
「そ、そうなの? 信じてもいいの?」
「ええ。他人の言う防音部屋ほど、怪しいものはないですから」
ジェムが張り付いた薄い膜を見せてみる。
「悲鳴でもあげてみますか?」
「え、ええ、そうね」
これだけでは信用できないと思ったのだろう。
キャロラインは「助けて、誰か!!!!」と大きな声をあげる。
「本当だわ。誰もこない……」
キャロラインはホッとした表情を見せたあと、とんでもないことを口にした。
「じ、実はこの部屋、防音とか言いながら、まったくの嘘なの!」
客を油断させるために、防音などと言っていたのだとか。
また、扉の向こう側に支配人らしき男性がいて、会話を盗み聞いているという。
彼女がなかなか喋ろうとしない理由が明らかになった。
「事情は理解しました。それで、紅茶を飲まないほうがいいとおっしゃった理由について、聞かせていただけますか?」
キャロラインは胸に手を当てて、息を整えているようだった。
目を閉じ、開いた瞳は強い光が宿っているように見える。
果たして彼女は、真実を伝えてくれるのか。
ドキドキしながらキャロラインの言葉を待った。
「その紅茶には、睡眠薬が入っているの」
「な、ななな、なんと!!」
上手く驚けただろうか。
ヴィルのほうを見たら、顔を伏せて小刻みに震えていた。
私の演技を見て、笑わないでほしい。