作品タイトル不明
ビリヤード対決!
ビリヤードなんてやったことはない。
前世で何度か、深夜に放送していた大会をぼんやり眺めるばかりだった。
「ルールはどうしますか? 特別に、あなたが決めていいですよ」
アンスガー・フォン・フィーリッツはにやり、と笑みを浮かべながら聞いてくる。
まるで私がビリヤードをできないことを見抜いているかのようだった。
「あの、ヴィル先輩、ビリヤードのルールを存じないのですが、いくつかあるものなのですか?」
ヴィルはこくりと頷く。
アンスガー・フォン・フィーリッツの言葉からそう察したのだが、間違いないようだ。
「ひとつは十五個のボールを落としていって、玉の数字が点数となり、先に六十一点を取ったほうが勝ち。もうひとつは番号順に落としていき、最後に八の数字が書かれた球を最後に落とした者が勝ち。こちらはショットのさいどの穴に落とすか宣言するのが特徴だ。他に球数が九つで行うものもある」
基本的に、ミスをしたら打順を交代するようだ。
十五個のボールを落とすほうが簡単そうに聞こえるが、相手側に先制を取られたらそのまま負けてしまいそうだ。
かと言って、ボールを落とす穴を宣言し、実際に落とす芸当なんてできるわけもない。
どちらのルールでするにしろ、勝つことはできないのではないか。
なんて思いつつも、まだ十五個ルールのほうが希望があるような気がした。
「ちなみに打順はどのようにして決めるのですか?」
「バンキングといって、手玉を同時に打って台の縁に当てて、戻ってきた位置が近いほうが先制を取るというものがあるが」
これは公式ルールで行うもので、遊びで行う場合はシンプルなコイントスが行われるという。
アンスガー・フォン・フィーリッツは 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく) な様子で、打順決めも私が決めていいと言ってくれた。
「でしたら、コイントスのほうで」
「わかりました」
バンキングも上手くできる気がしないので、コイントス一択である。
どうか上手くできますように、と祈る他ない。
早速開始する。
ヴィルがコインを指先で弾くと、高く飛んだ。
表か裏か、同時に宣言する。
「僕は裏にします」
「私は表!」
コインを掴んだ手を離すと、表だった。
「ミシャが先制だ」
ホッと胸をなで下ろす。
玉を十五個並べ、手玉を打って十五番と書かれた玉に当てて的玉を散らすらしい。
よく見るやつか、と思いつつやってみる。
キューと呼ばれるビリヤードの棒を持ち、手玉を狙って突き出す。
カーン! といい音がしたものの、私の玉は十五番の玉の横を通り過ぎ、勢いよく穴へ落ちていった。
いたたまれない空気になる中、アンスガー・フォン・フィーリッツがぷっと噴き出して笑った。
「交代ですね」
アンスガー・フォン・フィーリッツはキューを構え、迷う様子など見せることなく手玉を打った。
すると十五番の玉に当たり、的玉が散り散りとなる。
一打目だったが、玉が三つも落ちたようだ。
「十番と九番と、十二番――三十一点ですね」
すでに勝利まで半分の数を得たようだ。
ミスをしていないので、当然ながら次も打てる。
「さて、次は十四でも狙いましょうか」
アンスガー・フォン・フィーリッツは狙いを定め、手玉を打った。
しかしながら、十四番の的玉に当たる前に、手玉が弧を描き、何もない方向へ転がっていった。
「なっ、どうして!? そんなわけないのに!!」
たった一打外しただけなのに、動転していた。
そんなに自信があったのだろうか?
「次はミシャだ」
「はい!」
呆然とするアンスガー・フォン・フィーリッツを避け、新たに設置された手玉をめがけてキューを突き出す。
狙うのは、落としやすそうな位置にある八番の玉だ。
思い切って打ったところ、八番から少し逸れた軌道に思えた。
しかしながら途中で玉の進行が修正されたのか、見事に的中。
八番の玉は十二番の玉も弾いて穴に落ちていった。
「ありえない!! デタラメです!!」
「どこがだ?」
ヴィルが具体的な説明を求めるも、アンスガー・フォン・フィーリッツは「ぐぬぬ」と言うばかりだった。
その後、私は三つの玉を落とすという奇跡のようなプレーが続いた。
あっという間に合計六十一点を獲得する。
驚いた。私にビリヤードの才能があったなんて。
なんて思っているのは私だけだったようだ。
「やはりありえない!! インチキに決まっています!!」
「先ほども言ったが、そのインチキを証明してくれ」
「だって、彼は初心者なのに、ここまで上手くできるわけがないでしょうが!」
「ビギナーズラックというものなのだろう」
「納得できません」
憤るアンスガー・フォン・フィーリッツにヴィルは接近し、彼のキューを手に取ってじっと見つめる。
「インチキというのは、貴殿が持つこのキューのようなものではないのか?」
「え?」
「このキューには魔法が付与されている。上手く玉を操れるようなものが」
アンスガー・フォン・フィーリッツは顔色を悪くさせ、ヴィルからキューを奪い取った。
「うちの勝ちでいいだろうか?」
彼は返事をせずにツィルド伯爵の夜会の招待状をビリヤード台に叩きつけた。
そのまま無言で走り去ってしまう。
「目的達成だ」
「そう、ですね」
と、ここでビリヤード台の玉と目が合う。
パチパチと瞬きしていたので、ハッと気付いた。
「え、もしかしてジェムですか!?」
そうだ! とばかりにチカッと輝く。
「手玉は、ジェムが変化したものだったのですね」
「まあ、途中からな」
アンスガー・フォン・フィーリッツの魔法を妨害した上に、私が有利になるようなゲームの流れを誘導していたらしい。
「インチキにはインチキで応じる。これでフェアだろう」
果たしてそれはフェアと言えるものなのか。
何はともあれ、招待状を入手できたのだった。