作品タイトル不明
ミュラー男爵の心変わり
驚いた。まさかミュラー男爵にお礼を言われる日が訪れるなんて。
子育て中の母熊のような不穏な雰囲気をまとっていたミュラー男爵だったが、今は少しだけやわらかな空気感をまとっている。
どうやら思っていた以上に、今回の救出劇はミュラー男爵に恩を売ることに成功したようだ。
「おじさんもやっと素直になったかー」
「エアさん、ずっと彼女を悪く言って、申し訳ありませんでした」
「いいよ! おじさんがミシャのことが嫌いってわけじゃなくて、俺を守りたいからそういう態度を取っていたのはわかっていたからさ!」
ミュラー男爵は感極まったのか、今にも泣きそうな表情でいる。
エアを改めて抱きしめ「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えていた。
◇◇◇
その後、ミュラー男爵はエアを連れて帰った。
レヴィアタン侯爵が心配し、ここにいてもいいと言ってくれたが、大丈夫だという。
屋敷には戻らず、王都にある第二の拠点に行くようだ。
そこは隠れた場所にあるようで、関係者以外は見つけられないような構造になっていると教えてくれた。
どうしてそんな場所を所有しているのかなんて思ったものの、これ以上深入りしないほうがいいと本能が訴えたのでスルーを決め込んだ。
数日後、ミュラー男爵から私に手紙が届く。
なんでもエアのことで話したいことがあるという。
ようやく重たい口を開いてくれるときがきたようだ。
協力者がいるのであれば、一緒に聞いてほしいとあったので、ヴィルとレヴィアタン侯爵に同席を頼む。
そうして迎えた面談の日――ミュラー男爵はお詫びの品をどっさり持ってレヴィアタン侯爵の屋敷にやってきた。
「こ、これは……」
「魔導カードの新作です」
今も尚入手困難で、求める人々があとを断たないという魔導カードが箱入りで積み上がっていた。
ヴィルは呆れた様子で眺めていたが、レヴィアタン侯爵が思いがけない反応を示す。
「おお、これはたしか、妻が集めていた手札だな!」
なんとレヴィアタン侯爵夫人が魔導カードの愛好家だったなんて。
「私はいらない」
ヴィルのその言葉に、ミュラー男爵が不思議そうな表情を浮かべながら言った。
「あなたくらいの年頃の男子ならば、跳び上がって喜ぶような品物なのですが」
「いい、必要ない」
跳び上がって喜ぶヴィルというものを見てみたかったが、残念ながら魔導カードに興味はないようだ。
「あの、私も不要なので、すべてレヴィアタン侯爵夫人に差し上げてください」
「いいのか!?」
「はい」
私もいらないと言ったので、ミュラー男爵がつまらなそうな表情を浮かべる。
貰った物に対して失礼な態度を取ってしまった。慌てて謝罪する。
「その、私はミュラー男爵からお話を聞けることが、最大のご褒美ですので!」
「そうですか?」
「ええ!」
ミュラー男爵は居住まいを正し、私達へ問いかける。
「あなた方は、そもそもどれくらいの情報をご存じなのですか?」
「それは――」
レヴィアタン侯爵とヴィルと、三人で顔を見合わせて頷く。
ここは包み隠さず話をしよう。
「エアが持っていた母親の形見である緑色の魔宝石が王太子の証で、エア自身が王太子ではないのか、ということと、レナハルト殿下と双子ではないのか、ということです」
他にもいろいろあるが、ミュラー男爵と関わりがあると思われる情報はこれくらいだろう。
ミュラー男爵は私の話を驚きもせずに聞いていた。