軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルドルフへの尋問

明らかに何か悪いことを招きそうな見た目であった。

「それはなんなのだ!?」

「わ、わからないんだ。ただ母が、〝何もかも嫌になったときに使うように〟って……!」

この黒い宝石が魔王の封印が解けたきっかけに思えてならないのだが。

ヴィルも同じことを考えていたのだろう。

「おかしいと思っていたんだ。王太子の儀式は二十歳に行われる。レナハルトが二十歳になるまでまだ期間が空いているというのに、魔王の封印が解けるなんて」

そもそもなぜ、ルドルフの母親はこんなものを持っているのか。

「ルドルフ・アンガード、貴殿の母君はなぜこのような品を持っていたのだ?」

「昔、褒美として高貴な人物から賜ったと聞いていたんだけれど」

「その人物は?」

「わ、わからないんだ」

「その品を使ったらどうなるかも、聞いていなかったのか?」

「あ、ああ、そうなんだ」

情けない返答の連続だが、ヴィルは冷静だった。

ここである可能性について気付く。震える声でルドルフに問いかけた。

「あの、それって王太子の証ではないですよね?」

「王太子の証? そんなわけないと思うけれど」

「ですよね」

こんな禍々しいものが王太子の証なわけがない。それに、ルドルフが所持しているのもおかしな話だろう。

「ひとまず、その手にしている品を預からせてもらえないか?」

「いや、これは他人の手に渡してはいけないという、母の遺言があって……」

「え……ルドルフ先生のお母様って、失踪したのでは?」

あまり触れていなかったが、ルドルフの母親はラウライフの地で再婚したあと、しばらく平穏に暮らしていた。けれども再婚相手の前妻から嫌がらせを受け、逃げるように失踪したと聞いていたのだ。

「実際はただの失踪ではなくて、ラウライフに出入りしていた商人の男と逃げたみたいで……」

駆け落ちも同然だったという。ルドルフはこれ以上母親の悪評が広まらないよう、ただ失踪したとだけ言っていたという。

「実を言えばその翌年には母が亡くなった、という連絡を受けて……」

彼が熱心に教会へ足を運んでいたのは、母親の魂が安らかになるように祈ることも理由の一つだったようだ。

「駆け落ちした母が家に唯一残したのが、この宝石だったんだ」

息子であるルドルフには駆け落ちについては事前に知らせず、手紙と黒いダイヤモンドを残していなくなったようだ。

「まさかこれが形見になって、手紙が遺言になるなんて、夢にも思っていなかった」

〝何もかも嫌になったときに使うように〟というのは手紙に書かれたものだったようだ。

「話は大方理解した。ひとまず、この事態はその宝石が招いた可能性が高い。それゆえ、対処できる者に渡す必要がある」

ヴィルがルドルフを刺激しないよう、丁寧に黒いダイヤモンドを渡すように言った。

「この状態を放置していたら、世界そのものがなくなってしまう可能性がある」

「……」

ねえ、ルドルフ、聞いているの!? と叫びたくなる気持ちをぐっと堪える。

ここで彼を責めるようなことを言ってはいけない。

冷静に対処しなければならないのだ。

「で、でも、僕にとっては世界が終わったも同然なんだ……。大変なことをやらかしてしまったから……!」

ルドルフは免職を言い渡される寸前まで追い込まれていた。リンデンブルク大公が悪いようにはしないと言っていたのに、それを信じられずに逃走しようとしていたのだ。

これ以上、何を言ってもルドルフへの刺激になってしまう。ヴィルはそう判断したようで、しばし無言となる。

どうしたものか、と考えていたら、ルドルフはとんでもないことを言い出した。

「僕の希望は……ミシャなんだ」

「は!?」

この期に及んで何を言っているのか、という言葉が浮かんだものの、ぐっと呑み込む。

さらにルドルフはありえない発言を口にした。

「君が婚約破棄を撤回してくれるのならば、この宝石はあげてもいい」

最低最悪の交換条件を出してきた。

ルドルフの返答を聞いた瞬間、ヴィルの手綱を握る手がぎゅっと固くなり、ぶるぶる震えていた。

慌ててヴィルを振り返ると、猛烈な怒りの形相を浮かべている。

何か言い返したいのを必死に我慢しているようだった。

ヴィルだけでなく、ジェムも巨大な拳を作りだし、ぶんぶん振り回していた。

お願いだから大人しくしてほしい、とジェムを撫でて宥める。

ヴィルのほうはどうしようか……なんて悩む間にも、ルドルフは私に懇願してきた。

「ミシャ、僕と結婚してくれ!!」

なんて状況で求婚してくるというのか。

世界の崩壊とルドルフとの結婚を天秤にかけなければならないなんて。

ルドルフと結婚するくらいだったら、世界の崩壊と共にヴィルと一緒に死んだほうがマシだ。

なんて答えが浮かぶも、安易に口にしていいものではない、と思って呑み込んだ。

「ミシャ、お願いだ!」

「わ、私は――!」

ふいに、上空の魔法陣から竜巻のような強い風が生まれ、容赦なく吹き付ける。

セイグリッドの背に乗る私達は魔法で保護されていたが、ジェムが変化したロープに巻き付いた状態でぶら下がっていたルドルフは例外だったらしい。

大きく揺れた彼は――。

「ああっ!!」

情けない声をあげる。落ちそうになったのかと思って覗き込んだが、ジェムはしっかりルドルフに巻き付いていた。

「ルドルフ先生、どうかしましたか!?」

そう問いかけると、彼は震える声で答えた。

「ほ、宝石を落としてしまった……!」