軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

監督生のお仕事

ヴィルは障害競技用にも乗馬服を仕立てていたようで、午後になってから着替えるようだ。

ひとまず制服に袖を通していたようだが、その姿を見て思いついた作戦があった。

監督生用の外套を着ていなければ、ヴィルは普通の生徒に見えると。

私達監督生は馬術大会がトラブルなく終わるために、見回りをしなければならない。

けれども生徒達が監督生の前だけでいい子であるというのは意味がない。

そんなわけで、変装する必要があるのだ。

「というわけで、出店で売っていた仮面を買ってきました」

「これは……」

口元だけ開いているタイプの仮面で私はスライム、ヴィルはリスにした。

「なぜ私の仮面のほうがかわいい?」

「ヴィル先輩はリスのイメージでしたので」

「どこがだ!」

「出会ったときにリスに囲まれていたので、そういうふうに思ってしまうのかもしれません」

「そういえば、先ほどミシャから貰ったポケットチーフにもリスが刺してあったが」

「無意識のうちにリスを選んでいました」

それくらい、ヴィル=リスというイメージで固まっているのだろう。

「ちなみに、ご自身ではどのようなイメージでいましたか?」

「それは――いや、自分で思う自身のイメージがあるのはおかしくないか?」

「たしかに!」

私も自分自身にどういうイメージがあるのかと聞かれても、何も思い浮かばない。

「ミシャは純白のオコジョだな」

「また、かわいいイメージをお持ちいただいていたようで恐縮です」

と、盛り上がっている場合ではない。見回りをしなければ。

さっそく仮面を装着しようとしたのだが、ジェムが伸ばした触手で叩き落としてしまった。

「ちょっ、ジェム!?」

次の瞬間には顔に飛びつき、ビタッとくっついて離れない。

「ひゃっ、ええっ、これ、ヴィル先輩、どういう状況になってます?」

「ミシャがジェムの仮面を被っているようにしか見えない」

「まさか変化の術で――はあ」

事情は把握した。きっとジェムはスライムの仮面に嫉妬し、それを私が装着するならば自分が変化の術で仮面と化すほうがマシ、とでも思ったのだろう。

拒絶したら不機嫌になりそうなので、今日はジェム仮面でいこう。

「それでヴィル先輩、巡回ですけれど、いつもみたいに鋭い目で見て回っていたら生徒達が何事だと思うので、なるべく馬術大会を堪能する生徒達の中に馴染んでくださいね」

「馴染む、とは?」

「楽しむことです!」

仮面を装着させ、ヴィルの監督生長用の外套は脱がせてジェムに預けておく。

すると、その辺によくいる男子生徒になっただろう。

「これで、ヴィル先輩だと気付かない……はず」

口元しかでていないのに美形というのが一目でわかる。おまけに顔が見えていないからか、手足の長さやスタイルのよさが際だっているようだ。

別の意味で注目を浴びそうだが、今日は馬術大会。皆、そこまで他人に注目などしていないだろう。

「まあ、よしとしますか」

ヴィルの手を握って走り出す。

「おい、ミシャ!?」

「お腹が空いたので、何か食べましょう!」

食べ物が販売されている通りは先ほどよりもたくさんの人々で賑わっていた。

戸惑っているヴィルに走りながら説明する。

「何か起こるとしたら、きっと先生とか監督生の目が届かないところでひっそり行われていると思うんです。だから、私達も馬術大会を楽しんで周囲が見えていないような振る舞いをする必要があるのですよ」

「なるほど、そういう意図だったのか」

ここでヴィルも私の手をぎゅっと握り返し、楽しそうに走り始める。

「ま、待ってください、あんまりはしゃぐと、ケガをしてしまうかもしれませんよ」

「三歳児ではないのだから、そう簡単にケガなどするか」

「そうですけれど~~」

ひとまず、朝から大人気だったチョコレートスプレッドを包んだクレープ屋さんに並ぶことにした。

朝よりも行列ができていて、看板には三十分待ちと書かれてある。

「ここ、いいですか?」

「もちろん」

列に並んでいると、前に並んでいる女子生徒の会話が聞こえてくる。

「 野外走行(クロスカントリー) で落馬があったんだって」

「うわあ、可哀想」

「婚約者の女の子、恥ずかしそうにしてた」

「そりゃそうだよ」

ヴィルは私をジッと見て、問いかけてきた。

「ミシャも、私が落馬したら恥ずかしいのか?」

「いいえ、まったく。ケガがないか心配するでしょうから、それ以外のことを考える余裕なんてないです」

「そうか、よかった」

なんでもヴィルは障害競技の練習中、何度か落馬したらしい。

本番は落ちないようにしなければ、と緊張していたようだ。

他にも、さまざまな会話が聞こえてくる。

皆、健全に馬術大会を楽しんでいるようだった。

やっとのことで買えたチョコレートスプレッドのクレープは、人が少ない場所でいただくことにした。

待望の一口目――だったが、「あまっ!!」と悲鳴のような感想を口にすることとなる。ヴィルは買わなかったので、一人でその甘さに苦戦したのだ。

「チョコレートスプレッドのクレープは歯が震えるほど甘い、と昔から言われているからな」

「さ、先に教えてください!」

よくみんな平気な顔をして食べているなと思っていたら、チョコレートスプレッドのクレープはお祭りなどの定番で、王都に住んでいる人達は幼少期から食べ慣れているのだとか。

次はしょっぱいものがいい。なんて話をしていたら、背後から「いた!!」という声が聞こえた。

振り返った先にいたのは、ジルヴィードだった。