軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィル先生の謎について

食事を終えたあと、私の事情についてヴィル先生に打ち明けることにした。

「どこから話せばいいのかわからないのですが」

「最初から、なるべく詳しく話してくれ」

「わかりました」

今となっては懐かしい、すべての始まりとも言える、ルドルフとリジーが起こした騒動についてから話し始める。

「実は、婚約者だった男性と、従姉が知らぬ間に親密な関係となった挙げ句、従姉を妊娠させてしまい……」

ヴィル先生は眉間に皺を寄せ、嫌悪感を瞳に滲ませる。

始めからハードな話をしてしまい、申し訳なくなった。

「それで、その男に婚約破棄を言い渡されたのか?」

「いいえ。彼は私を第二夫人にしたいと望みました」

「ばかな!」

そう。そんなばかな出来事が実際に起こってしまったのだ。

「それだけでなく、彼は従姉が産んだ子を未来の子爵に、さらに、私が魔法薬を作り、売った結婚資金を教育費にしたいと望みまして」

ヴィル先生は右手を額に手を当てて、心底呆れた様子でいた。

「 止(とど) めとばかりに、第二夫人となる私は夜の務めを果たさなくてもいいから、昼間は二人のためにせっせと働いてくれと言われ――婚約者を一発殴りました」

ドン引きされると思ったものの、ヴィル先生は腕組みし、深々と頷きながら言った。

「よくやった」

まさか褒められるとは思っていなかったので、驚いてしまう。

「あの、暴力的な奴だと思わなかったのですか?」

「まあ、暴力で鬱憤を晴らすのはいいことではないが、今回の場合、婚約者の男はリチュオルの尊厳を深く傷付けた。いわば戦いだ。リチュオルは立派に戦っただけだ」

理由があっても、暴力を正当化させる気はさらさらなかった。

そのため、時折あの日のことを思い出しては、あそこまでしなくてもよかったのではないか、と自分を責めていた。

けれどもヴィル先生は、あの日の出来事を〝戦い〟だと言ってくれた。

これから先は、あの日、拳を握って振り切った私を、責めないであげようと思い直すことができた。

「ありがとうございます。そう言っていただけると、あの日の私が救われたような気がします」

ヴィル先生は言葉は何も返さなかったものの、優しい瞳で頷いてくれた。

「えー、話に戻りますが」

前世の記憶が甦った件については、言うつもりはない。

話されてもヴィル先生を困惑させてしまうだけだろう。

「その後、私は両親を通して婚約を白紙に戻しただけでなく、かねてからの憧れだった魔法学校の受験に挑戦させてほしい、と頼みこみました」

しっかり者の妹と妹の婚約者のおかげで、私は魔法学校へ入学することができたのだ。

「そんなわけで、私は魔法学校に入学したい、という自分勝手な夢を抱いたものですから、これ以上、両親に迷惑をかけてはいけないと思い、奨学金制度を使って入学しようと考えました」

しかしながら、その希望も叔父のせいで潰える。

「実は、叔父がここの魔法学校に通っていたのですが、何か問題を起こして退学させられたらしく……。親族の中に問題児がいた場合は、奨学金制度を受けられないと言われてしまいまして」

落胆する私に、ホイップ先生が助けの手を差し伸べてくれた。

「ここを拠点とする上に、授業で使う薬草の手入れをすれば、学費を払ってくれると言ってくれたんです」

「また、斜め上方向の支援を申し出たのだな。魔法学校に通いながら、このような労働を命じるとは」

「ええ、まあ。けれども私は故郷でずっと魔法薬を作っていて、薬草の扱いはよくわかっていましたので、ぜんぜん苦ではありません。仕事を一緒にしてくれるジェムもいますし」

ただ、何もかも順調ではなかった。

浮上する、私の授業についていけない問題――。

「皆、寮で 個人指導教師(テューター) の予習授業を受けているようで、何も知らない私は当然ながら先生の言うことがまったく理解できない状況となり……」

「まあ、それにかんしては、魔法学校の問題とも言えよう」

なんでも 個人指導教師(テューター) のいち早い成長を促すために、寮での予習授業ありきで先生方の多くは授業の計画を立てているらしい。

「わからなくて当然だ」

「安心しました」

ふと、疑問に思っていたことを質問してみる。

「ヴィル先生はここの卒業生なのですか?」

「卒業は――していない」

「では、他の魔法学校の出身で?」

「いや、入学したのはヴァイザー魔法学校だ」

「あ……」

どうやら聞いてはいけないことだったようだ。

それとなく、ヴァイザー魔法学校について語る様子が先生の視点ではないな、と思っていたので、つい最近卒業したのかと思っていたのだが。

ヴァイザー魔法学校に入学したけれど、卒業していないということは、つまり、退学処分になってしまったのだろう。

「ちなみにご年齢は?」

「いくつに見える?」

「二十歳前後かと」

「十九だ」

実を言えば、二十代前半くらいに見えたのだが、こういうときは若めに言っておいたほうがいいのだ。

それは大正解だったようで、ヴィル先生は思っていた以上にお若かった。

ヴィル先生はきっといい家柄のお坊ちゃんなので、偉い人達の口添えで、 個人指導教師(テューター) になったに違いない。

今後はヴィル先生の素性について、あまり質問しないようにしなくては。

そう、心に誓った。

「それはそうと、予習はいいのか?」

「やります!」

明日は四教科あるので、しっかり学ばなければ。

その後、ヴィル先生は二時間ほど勉強を教えてくれたのだが、とてもわかりやすく指導してくれた。

これで、明日の授業はしっかり理解できるだろう。