作品タイトル不明
ジルヴィード
「僕が犯人だって決めつけるなんて、酷いじゃないか!」
「犯人はヴィル先輩の血を採取しようとしていたんです。ヴィル先輩の血を欲している変わり者なんて、ジルヴィード先生しかいないですから!」
「いやいや、誤解だよ! 僕の他にもいるかもしれないじゃないか!」
ヴィルの血を採取しようとしている人が、わらわらいるわけがない。
おろおろ困惑した様子を見せていたジルヴィードだったが、ある瞬間から表情が笑みに変わる。ただ笑っているだけなのに不気味に感じてしまった。
「ねえ証拠は?」
「え?」
「僕をこうして堂々と糾弾するくらいだから、証拠くらいあるよね? 現場に僕の私物があったとか? それとも事故現場でヴィルフリート君が僕の姿を見たのかな?」
「それは――」
証拠なんてない。ただただジルヴィードしか犯人なんて思いつかなかったのだ。
「へえそっか、証拠もないのに君は僕を犯人だと決めつけたんだね」
その通りである。だって彼以外、怪しいと思える人物なんていなかったから。
「もしも僕が犯人だとしたら、君はどうするつもりだったの?」
「ホイップ先生に報告して……」
「あははは! 事故を画策した犯人なんだよ? 先生に報告するなんて、クラスメイトが悪さをしたレベルの対処じゃないか!」
ぐうの音もでないくらいの正論をぶつけてくれる。
たしかにジルヴィードの言うとおりである。ヴィルのことで頭がカッとなり、冷静な判断ができなかったのだろう。今となっては言い訳にしか聞こえないだろうが。
「ねえ、ミシャ。僕が誰かわかっているの? ルームーン国の大貴族なんだよ? 濡れ衣を着せたなんてことが知れ渡ったら、国家間の大問題になるんだ。君は責任を取れるの?」
本当に嫌な言い方をしてくれる。今回に限っては私が対処を間違っていた。
ジルヴィードを直接問い詰めるのではなく、ホイップ先生に相談しにいくべきだったのだ。
「誰が責任を取ってくれるのかな? 君の 保護者(ガーディアン) かな? それともご両親かな? 校長先生にも文句を言おうか。ああそうだ、リンデンブルク大公に抗議しようかな。ヴィルフリート君にも――」
「ねえ、取り引きをしましょう」
「え?」
ここで私が取り引きを持ち出すとは思えなかったのだろう。
ジルヴィードが意外そうに目を見開いたのは一瞬のことで、すぐに楽しげな様子で目を細める。
「取り引きって何!? 聞かせてくれる?」
何がそんなに楽しいのかわからないが、私の提案に彼は乗り気だった。
「まずは謝罪します。証拠もないのに犯人だと決めつけてしまい、申し訳ありませんでした」
「いや、そういうのはいいんだ。早く取り引きについて聞かせてほしい」
そうは言っても謝罪をするのは大事なのだ。たとえ心が伴っていないとしても。
「取り引きについては――今回のことをなかったことにする代わりに、ジルヴィード先生の命令を一度だけであればなんでも聞きます」
「わあ、いいの!?」
これくらいしないと、帳消しになんてしないだろう。
国家間の大問題になるよりはマシだ。
「ええ、犯罪行為以外でしたらなんでもご命令を」
「だったらヴィルフリート君を手ひどく振って、婚約破棄してよ!」
「はい?」
「君達の不幸なお別れを見てみたいんだ!」
どうしてそんなことがぽんぽん思いつくのか。頭が痛くなってしまう。
「私達を別れさせて、何か得でもあるのですか?」
「いや、ただ楽しそうだな~って」
「趣味が悪い」
思わず率直な感想が口からでてしまった。
私の物言いに怒ると思いきや、ジルヴィードは楽しげな様子でいる。
「そうだなあ、一ヶ月後に乗馬大会があって、ヴィルフリート君に出場するようにお願いして、きっと彼ならば優勝するはずだから、表彰式の場で振ってもらおうかな!」
乗馬大会――春休みの前に行われる大きな行事である。
優勝者は婚約者がいた場合、表彰式のさいに一緒に登壇し、名誉を分かち合うのだ。
その場で婚約破棄をしろと言う。
なんて最低最悪の状況を思いつくのだろうか。呆れて言葉がでてこなかった。