軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

救護室にて

守衛の騎士に止められそうになったものの、片方の騎士が顔見知りだったために入室を許された。

部屋の外から声をかけてから、と思っていたのにノアはそのまま中へ入ってしまう。仕方がないので私もあとに続いた。

救護室では比較的元気そうな姿で寝台に座るヴィルと、リンデンブルク大公の姿があった。

「お兄様!」

ノアはヴィルの傍まで駆け寄り、手をぎゅっと握る。

「ノア!? ミシャまで! どうしてここに? 試験は?」

「事故に遭ったと聞いて、居ても立っても居られず」

「試験は雪で中止になったんです」

「そうだったのか」

見たところ、ヴィルは包帯など巻いていないし、辛そうな様子などもないように思える。

けれども心配なので聞いてみる。

「ヴィル先輩、おケガはなかったのですか?」

「軽傷だ。馬車が横転したさいに少し頭を打った程度だが、自分の回復魔法で傷を塞ぐことができた」

話を聞いたノアは「ヒッ!」と悲鳴を呑み込むような声をあげる。

塞がなければいけないくらいの頭部の傷は軽傷とは言えないだろう。おそらく出血があったに違いない。

「魔法医の精密検査を受けたが、問題ないという診断だった。心配するな」

ヴィルはノアを安心させるかのように、優しく頭を撫でていた。

「もう大丈夫だと言うのに安静にしてろとか言われて、このとおりここに閉じ込められているだけなんだ」

ひとまず大丈夫だということがわかってホッと胸をなで下ろす。

険しい表情を浮かべていたリンデンブルク大公だったが、無言で立ち上がり、でていこうとする。

ノアは慌てた様子で立ち上がると、深々と頭を下げていた。

「お父様、申し訳ありません、勝手に来てしまって」

「それほど心配だったのだろう」

それだけ言うとリンデンブルク大公は退室していく。

怒っていないようだったので、ノアは胸に手を当ててはーーー、と深く長い息を吐いていた。

続いて新たな訪問者が訪れる。レナ殿下だった。

彼女もノアと同じようにヴィルの事故を聞きつけたのだろう。

「大丈夫だと聞いていたが、心配になってやってきたんだ」

「この通り、無事だ」

「みたいだな。ノアやミシャも来ていたのか」

「ええ、心配で」

ヴィルは不服そうな様子で、王太子の特権で解放してくれと訴えるも、レナ殿下は笑みを浮かべるばかりだった。

「ヴィル、君は普段から働き過ぎなんだ。いい機会だと思ってゆっくり休んでおくといい」

その言葉にヴィルは盛大なため息を吐いていた。

「ノア、このあと少し時間があるだろうか?」

もちろんだ、とばかりにノアは頷く。

レナ殿下は話したいことがある、と言っていた。

もしかしたら男装に限界が訪れている件について相談したいのかもしれない。

「お兄様、ゆっくりお休みになってくださいね」

「ああ、わかっている」

ノアはレナ殿下と共に去っていく。思いがけず二人きりとなった。なんて思ったからか、自分もいるとジェムが主張するようにちかちか輝く。まさか心の中を読んだとか? いくらなんでもできる子だからといって、そこまではできないだろうが。

そんなことはさておき、安心できたからかお腹がぐーっと鳴った。

「ミシャ、昼食を食べていないのか?」

「ええ。食べようとしたときに、ノアがやってきて」

「迷惑をかけたようだな」

「いえいえ」

時には食事よりも大事なことがあるのだ。

なんて考えていたら、ジェムがテーブルと椅子に変化する。卓上には私が作ったスープとスノー・ベリーのスコーンが置かれていた。

「まあジェム、あなた、持ってきてくれたの?」

ジェムは誇らしげな様子でピカッと光った。

「ヴィル先輩、よろしかったら一緒に食べませんか?」

「いいのか?」

「はい!」

ヴィルも昼食はまだだったらしい。お城の使用人が用意しようか聞いてきたようだが、事故を起こしたばかりで食べる気にならなかったようだ。

「食べても大丈夫なのですか?」

「ミシャの料理は別腹だ」

「意味が違うような」

食欲が湧いてきたというので食べてもらおう。

ジェムが変化したスープ皿に注いで、スノー・ベリーのスコーンは食べやすいように二つに割ってジャムとクロテッドクリームを塗ったものを用意してあげた。

「先ほどから胃の辺りに違和感があったのだが、ミシャのスープを飲んだらよくなった」

「まさか、また毒を盛られていたのでは?」

「いや、これは慢性的な胃痛だから心配しなくていい」

「それはそれで心配なのですが」

スコーンもおいしいと言ってくれたので嬉しくなる。

「入っている果物は、もしやミシャの故郷のスノー・ベリーか?」

「そうなんです! よくわかりましたね」

「特徴的な赤だからな」

そうなのだ。スノー・ベリーは雪の中で埋もれないよう、ルビーみたいに真っ赤な色に染まる。

「通常、植物はわざと目立たないような色になったり、毒々しい色になって害虫などを遠ざけたりするのですが、スノー・ベリーは森の生き物達に見つかりやすいよう、ひときわおいしそうに、目立つように色づくんですよね」

ラウライフではスノー・ベリーを〝恵みの果物〟と呼んでいるのだ。

なんて話で盛り上がっていたのだが、ヴィルは頭を押さえてため息を吐く。

「ヴィル先輩、どうかしたのですか?」

「いや、すっきりしない事故だったゆえ」

「すっきりしない事故、ですか?」

「ああ」

ヴィルは眉間に皺を寄せながら会話が外に漏れないよう防音魔法を展開させたのちに、事故があったときのことについて話し始める。