作品タイトル不明
憂いのエルノフィーレ殿下
今日は早い時間帯に登校をして勉強をしよう、という話になった。三十分ほど早く登校する。
レナ殿下は途中でノアに会い、エスコートしていた。
なんだか絵になるふたりだな、と思ってしまう。本当にお似合いだ。邪魔者はそそくさといなくなろう。
教室に到着すると、疲れた表情のエルノフィーレ殿下と目が合う。
余計なお世話かと思いつつも、声をかけてみた。
「エルノフィーレ殿下、おはようございます」
「おはようございます、ミシャ」
「その、突然お聞きして申し訳ないのですが、もしや何かありましたか?」
エルノフィーレ殿下は少し瞳を潤ませ、話したいことがあると打ち明けた。
様子からすぐにでも聞いたほうがいいと思い、廊下へ連れ出す。
「こうやって外に向かって話をすると、風が会話を拾って遠くに投げてくれるんです。少し寒いですが」
「今のわたくしにはちょうどいい寒さです」
侍女が今日は寒いからと言って魔石懐炉やセーターなどを用意し、少し暑いくらいなのだとか。
リジーの代わりにやってきた侍女は過保護なくらいお世話をしてくれるようで、もう何も心配いらないのだろう。
ただそんなエルノフィーレ殿下に新たな悩みがあるようだ。
窓を広げて窓枠に体重を預ける姿勢を取ると、エルノフィーレ殿下も続いた。
「ふふ、こんな姿勢でお喋りするなんて、初めてです」
「意外と楽なんですよ」
「本当に」
はしたないと言われるかと思ったものの、受け入れてもらえてホッと胸をなで下ろす。
「それで、どうかしたのですか?」
本題へと移った瞬間、エルノフィーレ殿下の表情が 翳(かげ) った。
「その、無理に話さなくてもいいのですよ」
「いいえ、聞いてください」
彼女をこのような表情にさせる物事の正体は、ジルヴィードだった。
まあ、騒動通りと言えばいいのか。
「彼ったら、私に相談もせずにこの国に残って、教師として魔法学校にやってくるなんて、本当に信じられません!」
ジルヴィードはサプライズだったなんて言っていたが、エルノフィーレ殿下の性格を理解していたら喜ばないことなどわかっていただろうに。
付き合いがまだ浅い私ですらわかることを、ジルヴィードは理解していなかったようだ。なんとも残念な男である。
「また、彼が問題を起こすのではないかと思うと、胃がしくしく痛んでしまって」
「大丈夫なのですか?」
「ええ。よく効くお薬は所持しておりますので」
話を聞いていると、ジルヴィードへの怒りがふつふつ沸いてくる。
この国に残るにしたって、もっとやり方があっただろうに。それにエルノフィーレ殿下に筋を通さないのもありえないと思ってしまう。
「わたくしの権力がもっとあれば、ジルヴィードを問答無用で国に追い返すことができたのですが……」
王女であるエルノフィーレ殿下よりも、サーベルト大公家のジルヴィードのほうが力関係が上にあるようだ。
「でしたらエルノフィーレ殿下、私がジルヴィードの弱みを掴んで魔法学校から追放しましょうか?」
「え?」
「私はリジーを追いだした実績がありますので」
そんな提案をすると、エルノフィーレ殿下は口に手を当てて笑い始める。
「ふふ、ミシャったらおかしい!」
「エルノフィーレ殿下、私は本気ですよ」
「お気持ちだけいただいておきます」
半分本気で、半分冗談だったが、エルノフィーレ殿下を笑顔にできた。
「ジルヴィードのような問題児は、目の届くところにいるのが正解なのかもしれません。今後も悪さをしないよう、しっかり目を光らせておきますので」
相談したおかげで気持ちに整理がついた、と感謝される。
「このまま授業を受けていたら、上の空だったのかもしれません」
廊下でエルノフィーレ殿下の話を聞くなんて不敬では、と思ったものの正解だったようだ。
「ミシャ、ありがとうございます」
「いえいえ」
「いつもより早く登校してきたのも、勉強をするためだったのでしょう?」
「バレていました?」
「ええ。いつもホームルームの直前にきているので」
エルノフィーレ殿下に行動パターンを把握されていたらしい。
朝はゆっくり過ごしたいタイプなので、いつもギリギリになってしまうのだ。
「試験勉強、頑張りましょうね」
「ええ!」
途中から授業に参加したエルノフィーレ殿下は勉強の範囲が広くて大変だろうが、お互いの健闘を称えあったのだった。
◇◇◇
ホイップ先生とヴィルのおかげで、あれからルドルフが接近してくることはなかった。
ホームルームのときに猛烈に見つめているときもあったが、ホイップ先生が気付いて注意してくれた。その後は平和に過ごす。
そんなこんなで楽しい毎日は過ぎ去り、ついに中間試験の期間に突入した。