作品タイトル不明
衝撃の後に
ジルヴィードだけではなく、どうしてルドルフがここに!?
ルドルフが王都にいることは知っていたけれど、まさか魔法学校で再度顔を見ることになるなんて。
他人のそら似かもしれない。そう思った瞬間、ジルヴィードが彼について紹介する。
「背後にいる青年ルドルフ君は私の助手で、まだ指導する資格はないものの、今後、 個人指導教師(テューター) になる予定だ。どうか仲よくしてほしい」
「よろしくお願いします」
声を聞いた瞬間、間違いないのだと気付いてしまった。
――ミシャ、頼みがある。僕の第二夫人になってほしい。
ルドルフの言葉がフラッシュバックし、目眩を覚えてしまった。
もう平気だと思っていた。
けれども彼のあの一言は、私のトラウマとなっていたようだ。
顔を見ただけでこんなに動揺してしまうなんて。
別にルドルフのことが好きなわけではなかった。
けれども彼との未来について真剣に考えて、幸せになれるように一心不乱に働いていたのだ。
その頑張りを裏切るような発言に衝撃を受けるのと同時に、私の気持ちなど考えられないような人なのだと落胆する気持ちが押し寄せ、強い怒りと化してしまった。
あのように強く獰猛な感情を抱くことなど、生まれて初めてだった。
正直なところ、二度と思い出したくなかったのだが。
吐き気がする。頭もくらくらしていた。
どこかで横になったほうがいいかもしれない。
そう思った瞬間、ホイップ先生がやってきてこっそり耳打ちした。
「ちょっとミシャ、あなた、酷い顔色よお。保健室にいきなさいな~」
そう言って、転移魔法を発動させる。有無を言う前にホイップ先生は私を保健室送りにしてくれた。
保健室には白衣姿のウサギ獣人がいた。
たしか新しい保険医で、小舞踏会の黄色ブドウ球菌騒動の後処理が大変過ぎて退職した人の代わりにやってきたと聞いていた。
今日みたいに全校集会で紹介されなかったのは、私みたいに体調不良を訴える生徒がいるからだろう。
名前はたしかイースト先生、とホイップ先生が言っていたか。
ウサギの獣人と言えばセクシーなイメージがあるが、イースト先生は眼鏡をかけた三十歳前後の筋骨隆々の男性である。
長い耳をなびかせながら、私のもとへとやってきた。
「どうした? 体調不良か?」
「はい、少し目眩がして」
「詳しく調べるから、そこに座っておくように」
勧められたふかふかのソファに座ると、鑑定魔法のようなもので私の容態を調べてくれるようだ。目の前に魔法陣が出現したあと、何やら文字が浮かんでくる。
「ふむ……精神的疲労からくる発熱のようだ」
魔法学校にルドルフがやってきたことによるショックからの、知恵熱のようなものなのだろう。
「ここ最近、中間試験が近づいてくるからか、同じように熱を出す者が多い。貴殿も気をつけるように」
具合がよくなるまで保健室で休んでいいという。
「貴殿の使い魔も心配しているゆえ」
「え?」
イースト先生が指差したほうを見たら、教室の壁に張り付いていたはずのジェムの姿があってびっくりする。いつの間にやってきたのか。
「参考書や教科書を持っているようだったら出すように」
「それはなぜですか?」
「ここは休むところなのに、こっそり勉強する生徒がいるからだ」
「あー、いいですけれど……」
ちらりとジェムを振り返ると、すぐに預けていた教科書や参考書、魔法書を吐き出した。
「なっ――貴殿のスライムは収納能力もあるのか?」
「ええ、そうなんです」
思っていた以上に大量なので、イースト先生を困惑させてしまった。
「あの、私、監督生なんです。隠れてこっそり勉強しないので、教科書とかは使い魔に預けていてもいいですか?」
「ああ、そうだったのか。その、そうしてくれると助かる」
そんなわけで、教科書などは再度ジェムに呑み込んでもらった。
イースト先生は目眩や熱が治まる薬をくれた。それを飲んで休んだら少しマシになるような気がする。
少し眠らせてもらおう。そう思って保健室の寝台に横になる。
なぜかジェムは細長く伸びて、添い寝してくれた。
そんなこと、今まで一度もしたことなんてないのに。
熱のせいで体がぽかぽかしていたので、ひんやりしたジェムが傍にいるのはありがたい。
火照った体を冷やしつつ、私は眠りに就いたのだった。
目覚めたのはお昼休みだった。誰かが私の額に手を当てているのに気付いて意識が覚醒したのだ。
「うー……ん」
「ミシャ、まだ熱があるようだな」
「!?」
その声を聞いて飛び起きそうになったが、そのまま寝ておくように言われてしまった。
私を心配そうに覗き込むのは――。
「ヴィル先輩!?」
なんでもお昼休みに教室へいったようだが、私が全校集会で倒れたと聞いて駆けつけてくれたらしい。
異性への面会は禁止だとイースト先生から言われてしまったようだが、婚約者だと訴えると特別に許可してくれたようだ。
「今日は早退したほうがいい。私も付き合おう」
「いえ、その、大丈夫だと思うのですが」
「ミシャの大丈夫は信用ならない」
「うう」
それからのヴィルの行動は早かった。ホイップ先生のところに早退許可証を貰いにいって、教室に外套や鞄などを回収にいき、そして私を横抱きにしてガーデン・プラントまで送ってくれるという。
「いいえ、自分で歩けますので」
「病人が何を言っているんだ」
お昼休みで行き交う生徒が多い中、私はヴィルに抱っこされた状態で帰ることとなった。