軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王女として、個人として

ジルヴィードとリジーの結婚を阻止するためには、ヴィルと婚約までこぎつけなければならない。

「けれどもリンデンブルク大公子息は昨日の歓迎パーティーで、婚約者をお披露目した。そのお相手は――」

この私である。その件についても、ジルヴィードに訴えたらしい。

「婚約者がいる男性を奪ってまで政略結婚するのはどうか、と」

しかしながらジルヴィードは、レナ殿下を婚約者から奪うよりはましだろう、と言ったようだ。

「婚約者を奪うことに変わりはないので、最初は何を言っているのかはわからなかったのですが……」

私は少々性格が捻くれているからか、すぐに気づいてしまった。

王族であるリンデンブルグ大公令嬢のノアよりも、平貴族であるリチュオル子爵令嬢の私の婚約者を奪うほうが国家間の後腐れがない、という目論みがあったに違いない。

「ジルヴィードがリジーと結婚するのは絶対に阻止したいと思っていました。たとえわたくしが他の男性と結婚することになっても」

エルノフィーレ殿下は自らを奮い立たせ、ここまでやってきたという。

「けれども朝、あなたの顔を見た瞬間、罪悪感を覚えてしまいまして」

てっきりエルノフィーレ殿下はジルヴィードとリジーの婚約が決まりそうだから、あのように取り乱したのだと思っていた。

しかしながらそうではなかったようだ。

「一瞬でも、あなたの婚約者を奪おうだなんて考えてしまって、申し訳ありませんでした」

なんて言葉を返していいのかわからない。

エルノフィーレ殿下は国のことを第一に考えるように育てられた女性である。本来であれば、たとえ何があっても利益のために動かなければならない。

このように私に対して悪いと思う気持ちなど、王女の立場からしたら切り捨てないといけないのだ。

「これからどうすればいいのか……」

「気持ちを整理してみましょう」

きちんとしているように見えても、エルノフィーレ殿下は取り乱している。

感情を整理しないと、溢れて大変なことになりそうだ。

「まずは王女の立場として、何をすべきかどうお考えですか?」

「政略結婚です。可能であればレナハルト殿下をお相手とするものが第一。最低でもリンデンブルク大公子息との婚姻を結ぶ必要があります」

王家の血筋で結婚適齢期の男性といえばこのふたりしかいない。

正確に言えばレナ殿下は女性なので、ヴィルが唯一と言ってもいいのだろう。

「では次に、エルノフィーレ殿下個人として、どうしたいかお聞かせいただけますか?」

「わたくし個人として?」

「はい」

王女という立場を取っ払ったとき、何をしたいのか。それについて問いかける。

エルノフィーレ殿下は顎に手を添えて、しばし考えるような仕草を取っていた。

すぐに回答はあるものだと思っていたのに、三分以上も黙っている。

五分を経過したあと、エルノフィーレ殿下は想定外のことを口にした。

「わかりません」

これまでエルノフィーレ殿下は王女として生きてきたために、立場がない状態の自分が何をしたいのか想像できなかったようだ。

「驚きました。これほど頭の中が真っ白になるなんて」

「いえ、その、王族の鑑かと」

エルノフィーレ殿下は私利私欲では動かない、清廉潔白な人物なのだろう。

リジーも見習ってほしいと心の奥底から思った。

「あなたはわたくしが何をしたいのか、想像できます?」

「そ、そうですねえ」

エルノフィーレ殿下のお気持ちを想像するなど不敬なのでは、と思ったものの、いいから聞かせてほしいと懇願される。

恐れ多い発言だろうが、言わせていただいた。

「サーベルト大公子息と結婚したい、とか?」

「彼と、わたくしが?」

「はい」

「ありえないかと」

エルノフィーレ殿下はきっぱりと言い放つ。

「気持ちが混乱していてジルヴィードに対して複雑な感情を口にしたかと思いますが、王女という立場がなかったとしても、彼と結婚したいとは思わないでしょう」

その言葉を聞いて、私は大きな勘違いをしていたことに気づく。

エルノフィーレ殿下のジルヴィードへの気持ちは恋心ではなく、家族に対する大きすぎる親愛なのだろう。

おそらく私だけでなく、ジルヴィードも勘違いしているはずだ。

すぐにジルヴィードと結婚したい、という言葉がでなかったのも納得である。

たしかに、私も妹が変な奴と結婚すると聞いたら大反対するだろうし、その相手を奪うようにと唆されたら申し訳なく思ってしまう。

事情はしっかり理解できた。問題はこれからどうするか、である。