軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

両親への懇願、そして――?

道中、吹雪いていたそうだが、飛行が安定していたのでまったく気づいていなかった。

予定よりも少し遅くなったようだが、ラウライフの朝は日の出が遅いので問題ないだろう。

六時間半の飛行を終え、ラウライフに到着する。

五ヶ月ぶりの故郷だ。

実家は敷地だけは無駄に広いので、セイクリッドが下り立てるようなスペースはいくらでもあった。

雪深い大地に宮廷車両は下ろされ、出入り口が開かれる。

外はまだ日の出の時間を迎えていないものの、雪が青白く輝く薄明かりの世界が広がっている。

ひんやりと冷たい風が吹いてきたが、ヴィルが結界を展開させてくれたのでまったく寒くなかった。

「ここが、ミシャの故郷か」

「ええ、ラウライフへようこそ!」

四方八方、真っ白な世界にヴィルを 誘(いざな) う。

「雪が降り積もっているので、足下は注意してくださいね」

「ああ」

積雪は私の膝辺りくらいか。実家は目の前に見えているのに一歩一歩の足取りが重く、歩行が困難である。

ずっとここで暮らしてきたのでわかっていたはずなのに、いつの間にか雪が降らない王都に適応していたようで、雪の中を歩くことが下手になっていた。

エルクとソリのお迎えをお願いしておけばよかった、なんて思ってしまう。

私達が苦労して歩く中、ジェムはころころと問題なく転がっていた。

そんなジェムに、ダメ元でお願いしてみる。

「あの、ジェム、よかったらなんだけれど、私達の足場になってくれる?」

ジェムは任された、とばかりに淡く光った。

次の瞬間、ジェムは細長いレッドカーペットのような形状に伸びていく。

「ヴィル、ジェムが足場を作ってくれました」

「助かる」

これまで重たい足取りだったが、ジェムが作ってくれた足場のおかげで難なく実家まで到着できた。

「ミシャのご家族は起きてるだろうか?」

「きっと待ち構えていると思います」

訪問が早すぎたかもしれない、とヴィルは申し訳なさそうにしていたものの、ラウライフと王都を行き来しなければならないので仕方がない話である。

一応、ラウライフに一泊する想定はしているものの、早く話がまとまるようであれば、すぐに王都へ戻ろう、と話し合っていた。

父がいったいどんな反応を見せるのか。想像できない。

正面玄関のノッカーを叩くと、すぐに執事が顔を覗かせる。

「ああ、ミシャお嬢様、おかえりなさいませ」

「ただいま。みんな起きている?」

「もちろんでございます」

なんと、一緒に朝食を食べよう、と待ってくれていたようだ。

ヴィルと共に食堂へ向かう。ジェムは球体に戻り、大人しくついてきてくれた。

五ヶ月ぶりに家族に会う。ドキドキしながら、食堂の扉を開いた。

「みんな、ただいま!」

私の顔を見るなり、両親とクレアは立ち上がる。

「ミシャ!」

「帰ってきたのね」

「ミシャお姉様、おかえりなさい!」

クレアは駆け寄り、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「元気そうで何よりだわ」

「ミシャお姉様も」

嬉しそうにしていたクレアだったが、ハッとなって体を強ばらせる。

おそらく私の背後にいたヴィルと目が合ってしまったのだろう。

そろそろと離れるクレアの手を握り、ヴィルに紹介する。

「ヴィル先輩、この子は私の妹でクレアと言います」

「は、初めまして、クレアと申します」

続けて両親もやってきたので紹介した。

父も母も緊張しているようで、ガチガチだった。

無理もないだろう。ヴィルは未来のリンデンブルク大公で国王陛下の甥でもあるから。

なんとも言えないような雰囲気の中、朝食を囲む。

メニューは焼きたてのパンに、クリームポタージュ、茹でたてのソーセージに、五種の根菜サラダ。

冬期の朝食とは思えないくらい豪華だ。きっとヴィルのために、とっておきのごちそうを用意してくれたのだろう。ヴィルはラウライフの食事を気に入ってくれたようで、しきりにおいしい、おいしいと言ってくれた。

ヴィルは場の空気を和ませようとしたのか、ラウライフの美しさを絶賛してくれた。

ここに住みたいくらいだ、なんて言うものだから、両親を驚かせてしまったようだ。

ただその発言のおかげか、少しだけ両親の緊張が解けたようで、ホッと胸をなで下ろす。

朝食後は紅茶を飲みつつ、ふたりで作ったお土産のロックケーキを家族と一緒に遠い目をしながら食べる。そしてヴィルは頃合いを見て、本題へと移ったようだ。

「今日、こちらにお邪魔したのは、先日お手紙で伝えたように、ミシャさんとの婚約について、お許しいただきたい、と思っているのですが」

両親は揃って引きつった笑みを浮かべている。

クレアは信じられない、とばかりの表情を浮かべていた。

「大事なお嬢様との婚約ですので、すぐに許可などできないものかと思いますが――」

「いえ、その……」

父が煮え切らないような返答をするので、母が代わりに答える。

「大公家との結婚は、身分が釣り合わないと考えていたのですが」

母の遠回しの拒絶も、ヴィルには効果などなかったようだ。

「私の我が儘で、申し訳ありません」

こうして 下手(したて) にでられてしまっては、両親はなんと答えていいものかわからなくなってしまうのだろう。

「この結婚は、誰にも文句を言わせません。生涯、ミシャさんのことを命に代えても守ることを誓います」

とんでもない誓いを、私の許可なく立ててくださった。

頼みの綱だった両親は顔を見合わせ、肩をすくめる。これ以上、反対するつもりはないのだろう。

もっと頑張ってほしいと父を見たのだが、私の視線から逃げるようにふい、と顔を逸らされてしまった。

「実を言いますと、ヴィルフリート君からの手紙が届くより先に、国王陛下からのお手紙が届いていて――」

「え!?」

目覚めている時間がほとんどないという国王陛下が、父になんの手紙を送ったというのか。

「その手紙には、ヴィルフリート君とミシャの結婚を許可するように、と書かれていてね」

心の奥底で父が結婚に反対してくれることを願っていたのに、それよりも先に国王陛下に先手を打たれていたようだ。

「ヴィルフリート君とミシャの婚約が成立した暁には、王都からのワイバーン便を三日に一便作ろう、とおっしゃってくださったのだ」

ワイバーン便というのは、王都から各地を行き来する宅配サービスだ。

これまで一便もなかったものが作られるとなれば、冬の期間も食料が安定して供給されることとなるだろう。

ラウライフに住む人々にとっては、朗報でしかない。

まさか、ヴィルと私の結婚に、政治の駆け引き的な意味ができていたなんて。

「まるで政略結婚だわ……!」

もちろん父は二つ返事で承諾したようだ。

そんなわけで、ヴィルと私の婚約はあっさり成立してしまった。

ラウライフへは春休みに再訪することを約束し、私達はその日のうちに帰宅することとなる。

魔法学校に戻ると、玄関先に何か届けられていたようだ。

長方形の、けっこう大きな箱である。

「あら、なんでしょう?」

「ようやく届いたようだな」

ヴィルは中身を知っているらしい。けれどもヴィルからの贈り物ではないという。

送り主は魔法学校と書かれてあった。

「もしかして、後日送るといっていたベネフィットでしょうか?」

「ああ、間違いないだろう」

ジェムがテーブルになってくれたので、玄関先で開封する。

いったい何を贈ってくれたというのか。箱はそんなに重たくない。

首を傾げつつ、蓋を開いた。

中に入っていたのは――監督生のローブだった。

カードが入っており、そこには校長先生からのメッセージが書かれてある。

「ミシャ・フォン・リチュオルを、本日付で監督生に任命する!?」

突然の決定に、目を極限まで見開いてしまう。

思わずヴィルを見上げると、嬉しそうに微笑んでいた。

「ミシャ、おめでとう」

「は、はあ」

「私が監督生に任命されたのは入学から半年後だったから、それよりも一ヶ月早い任命のようだな」

「なっ――!?」

どうしてこうなったのか。

優秀な人間でないのに、ヴィルよりも早く監督生に任命されるなんて。

思わず頭を抱えてしまったのは、言うまでもない。