軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カステラを焼こう

カステラの材料は卵、小麦粉、砂糖、結晶糖、水飴、蜂蜜だ。

普通のケーキと異なる点は、やはり水飴と蜂蜜を使うところだろう。

このふたつを入れることによって、生地を食べたときのふかふか感と、しっかり噛んだときの、じゅわ、ねっとりとしている、他のお菓子にはない独特な食べ応えを味わえるのだ。

「ミシャさん、僕は何をすればいい?」

「力仕事とか平気?」

「うん、これでも力や体力はあるよ」

「だったら、ジェムと一緒に卵白を混ぜてくれる?」

「ランパク?」

そこから説明しなければならないらしい。

ふと、ヴィルに料理を教えているときのことを思い出し、我慢できずに笑ってしまった。

「どうかしたの?」

「いいえ、ごめんなさい。以前、ヴィル先輩にも料理を教えていたことがあったんだけれど、さっきのノアさんみたいに、材料の一つを言っただけでキョトンとした表情を見せていたの。その様子がそっくりで、おかしくなってしまって。ごめんなさい」

「ううん、いいよ。僕にもお兄様に似ているところがあるんだね」

面差しはぜんぜん似ていない。けれどもノアが低い声をだしたときとか、ふとしたときに見せる明るい笑顔がヴィルに似ているような気がする。

「ねえ、ミシャさん! もっと僕のお兄様に似ているところを教えて!」

「カステラができあがってからね!」

どうやらヴィルと似ていると聞いてノアは嬉しかったらしい。

それについてはあとでたっぷり聞かせてあげよう。

「ジェムはまず、卵を卵白と卵黄にわけてくれる? そのあと、卵白の混ぜ方をノアさんに教えてあげて」

了解したとばかりに、ジェムは二十個もの卵が入ったパックを掲げる。落としたら怖いので、そういうことはしないでほしい。

普段から私の手伝いをしているジェムは、次々と卵を割って卵白と卵黄にわけていた。

その様子をノアは驚いた表情で見つめている。

ふたりの様子を見ている場合ではなかった。私も調理を開始しよう。

まず、粘度の高い水飴と蜂蜜を湯煎にかけてやわらかくしておく。

それを待つ間に、小麦粉や砂糖を計量していく。目分量は絶対にだめ! そう言い聞かせ、正確に計っていった。小麦粉は口当たりが滑らかになるよう、ふるいにかけるのも忘れずに。

ジェムは大きなボウルで卵白を泡立てているのに対して、ノアは小さなボウルでやっていた。

ジェムは業務用レベルの自動ミキサーみたいな早さで泡立てている。ノアも初めてながらいい感じの状態まで仕上げていた。

「料理って、こんなに大変なの!?」

「そうなのよ」

ノアは食前の祈りは今度から料理人への感謝の気持ちも込めよう、と決意を口にしていた。

続いてジェムが分けてくれた卵黄を濾し、砂糖を加えて混ぜる。

「ねえジェム、ふわふわになった卵白に、この卵黄を混ぜてくれる?」

ジェムが頷いたのを確認したあと、ボウルに水飴、蜂蜜を入れて練る。それをノアとジェムが混ぜてくれたボウルに加え、最後に小麦粉を入れてさっくり混ぜ合わせた。

油を薄く塗って結晶糖を散らした型に生地を流し、温めておいたオーブンで三十分ほど焼いたら完成だ。

三十分後――オーブンを開くと、ふかふかに膨らんだカステラが焼き上がった。

「うわあ、いい匂い。それにおいしそう」

「でもカステラは焼きたてよりも数日置いたほうがおいしいのよ」

「そうなんだ。こんなにおいしそうなのに」

焼きたての匂いはたまらないだろう。私も我慢できなくって、毎回端っこを削いで味見してしまうのだ。

「ちょっとだけ食べてみる?」

「いいの!?」

「上手くできているか、味見が必要でしょう?」

「それもそうだね」

型から外すと、生地がぷるぷる揺れる。

ジェムとノアが頑張って卵白を泡立ててくれたおかげで、いつも以上にふっくら膨らんでいるように見えた。

「これくらい食べられる?」

「それって味見の範疇を超えているような?」

「でも、たくさん食べないとわからないでしょう?」

『うんうん、わかるう~』

ノアの相づちでない声が聞こえてギョッとする。思わず隣にいたジェムを見たが、自分ではないと左右に揺れていた。

「え、誰?」

『いい匂いだな~~』

私とノアの間に、カステラをキラキラした瞳で見つめる白いモフモフ――元使役妖精の姿があった。

「――!」

思わず、ノアの顔を見る。

ここで大きな声を上げたり、捕まえようとしたりしたら逃げてしまうだろう。

冷静になるよう努め、包丁を握って元使役妖精に声をかける。

「あなたは、どれくらい食べたいのかしら?」

『たくさん!!』

私を見上げる瞳は、無邪気そのもの。

教師陣を弄び、逃げ回っていた悪い妖精には見えない。

「じゃあ、たーくさん、切るわね」

『わーい!』

充分なくらいたっぷり切り分けて、お皿の上に置く。

すぐに手を伸ばそうとしたので、待ったをかけた。

「ねえ、まだ熱いわ。口の中を火傷しちゃうから、もう少し待って」

『えーーーー』

「口が痛くなるのは嫌でしょう?」

『うん、嫌だ!』

妙に聞き分けがいい元使役妖精は、わくわくした表情を浮かべ、カステラが冷めるのを待っていた。

その背後で、私とノアはどういうふうに捕まえようか、と目と目で会話していた。