軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィルからのお誘い

明日はホリデーの最終日。課題はすべて終え、どう過ごそうかと考えていたところに、ヴィルから手鏡を通して連絡があった。

『ミシャ、今大丈夫か?』

「ええ」

夜、いつヴィルから連絡がかかってきてもいいように、寝間着は胸元が大きく開いていないものを選んでいたのだ。

『明日、暇だろうか?』

「はい、予定は何も入っておりませんが」

『だったら、王立魔法博物館にいかないか?』

「王立魔法……博物館ですか?」

『ああ』

初めて耳にするその施設は、我が国〝ソレーユ〟の魔法が関わった歴史を学べるものらしい。

『なんでもそこで、雪属性の杖が展示されているそうだ』

五世紀ほど前に魔王が出現したさい、勇者を支えた雪属性の魔法使いがいたらしい。当時使われていた杖のレプリカがあるそうだ。

「見てみたいです!」

『だろう?』

ヴィルが考えた雪属性の杖は、王立魔法博物館に展示されている物から着想を得たらしい。

『実際に作る前に、実物を見たほうがいいと思って』

いったいどんな杖なのか。想像するだけでわくわくする。

『明日は魔法学校の制服できてほしい。魔法学校の生徒は入場料が無償になるんだ』

「そうなのですね!」

ちなみに、魔法学校の生徒以外の者が入場する場合は、金貨一枚もかかるらしい。

「た、高いですね」

『貴重な品を管理している施設だからな』

人が多く出入りした結果、博物館に保管された品が劣化したり、破壊されたりするのを防ぐための対策でもあるようだ。

王都にある博物館の中でも知名度がほぼないのは、入場料が高いからなのだろう。

「貴重なお休みの日に、付き合ってくれてありがとうございます」

『まあ、ミシャに会って、顔を見たいという口実もあるからな』

「ほぼ毎日見ているではありませんか」

ホリデー期間中は毎日と言ってもいいほど、ヴィルから連絡があった。

通信魔法をしなかった日は、レヴィアタン侯爵邸を訪問していたのに、さらに会いたいと言ってくれるなんて。

『鏡越しでミシャを見るのと、実際に見るのとは大きく異なる』

「そうなのですか?」

『ああ。今は顔しか見えないが、実際に会ったときは全身を眺めることができるだろうが』

「いや、あまり見ないでいただきたいのですが」

『なぜ?』

「恥ずかしいからです!」

アリーセくらい美人だったら、どんどん見てほしいと思う。

けれども今の私の顔立ちはそこまで美人ではない。

せっかく生まれ変わったのに、容姿は前世の私とそう変わらないレベルなのだ。

どうせだったら、絶世の美少女に生まれ変わりたかったのに……。

人生、何もかも上手くいくようになっていないのだろう。

『わかった。なるべくミシャに気づかれないよう、愛でるとしよう』

「いや、それも覗きみたいでちょっと……」

『ならばどうすればいい?』

「普通にしていてください!」

ヴィルは不服そうな声をあげたのちに、こくりと頷いた。

わかっていただけたようで、ホッと胸をなで下ろす。

降誕祭の晩に婚約者になってほしい、と告げて以来、ヴィルは私に対する好意のようなものを表にだすようになっていた。

私はわかりやすい好意をぶつけられたことがないので、先ほどのように戸惑った挙げ句、拒絶するような言動を取ってしまったのだ。

よくないな、と思いつつも、これまでまともな恋愛をしていなかったからか、どういうふうにあしらっていいものかわからないでいるのだ。

前世の婚約者とルドルフのせいで、私の中に誰かを好きになることに対して、トラウマがあるのだろう。

ヴィルも本当の私を知ったら、離れていくのかもしれない。

私がただの十七歳の少女ではなく、前世の記憶があって、そのときの年齢はヴィルよりもずっと上だった。

なんてことを言ったら、ヴィルはきっとがっかりするだろう。

それを思うと、胸がツキンと痛む。

こんなふうに他人に対して切ない気持ちになるのは初めてだった。

『ミシャ、どうした?』

「あ――」

もしも離れていくのならば、早いほうがいい。

そう思って、意を決して言ってみることにした。

「あの、ヴィルに話していないことがありまして」

『なんだ? 後ろめたいような顔をして』

「実は私、前世の記憶があって、ヴィルよりもずっとずっと年上だったんです」

『どういう意味だ?』

「ご、ごめんなさい」

一言で説明するのは難しいことだったのかもしれない。

私は居住まいを正し、前世についてヴィルに告げる。

『ミシャが生まれる前の記憶がある、というのはわかった。間違いないな?』

「はい」

理解が早くて助かる。問題はそのあとだろう。

「記憶を取り戻したのは、ルドルフに婚約破棄されたときでした」

脳天に雷が落ちてきたのか、というくらいの衝撃だったのを思い出す。

「私はミシャ・フォン・リチュオルとして生まれる前の世界で、その、三十年以上は生きていたような気がします。つまり、十七歳の娘の中に、三十歳の女性がいるというか、なんというか……」

『それは記憶が戻る前のミシャと、戻ったあとのミシャは別人だというのか?』

「いえいえ! 私は私でした」

前世の記憶がなかっただけで、誰かの体を乗っ取ったとか、憑依したとか、そういう状態ではない。

『前世か……。なかなか興味深い話だな。明日、会ったときに詳しく教えてくれ』

「は、はあ」

『なんと言っていいのかわからないが、まあ、気にするな』

「はい?」

ヴィルはなぜか、私を励ましてくれた。