軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宴のあとに

降誕祭正餐が終わったあと、レヴィアタン侯爵夫妻はエアに泊まっていくように勧めたが、 保護者(ガーディアン) のおじさんが待っているからと言って帰るという。

見送りにいったさい、私は用意していたプレゼントを渡した。

「エア、これ、降誕祭の贈り物よ」

手作りのベリータルトだと言うと、エアは目をまんまるにして驚いていた。

「降誕祭に贈り物が貰えるなんて、物語の世界だけかと思ってた!」

なんでも初めて貰ったらしく、酷く感激している様子だった。

「ミシャありがとう!! 本当に嬉しい」

「喜んでもらえて何よりだわ」

「でも俺、ミシャになんにも用意してない」

「いいのよ。あなたが元気でいてくれることが、一番の贈り物だから」

「ミシャ……親みたいなことを言うんだな」

「うっ!」

本当に、せめてお姉さんと言ってほしいのだが……。

溢れ出るアラサー感はどうにもならないのだろう。

「ミシャ、また新学期に!」

「ええ」

エアとは笑顔で別れたのだった。

ヴィルは泊まっていくようで、食後はエグモント卿やエグムント卿に誘われてチェスのような遊戯盤で遊んでいるらしい。

エグモント卿が私もどうかと誘ってくれたものの、こういう食後の集いは男女に分かれて楽しむものである。丁重にお断りさせてもらった。

私はレヴィアタン侯爵夫人の私室で、食後の紅茶とジンジャー・クッキーを楽しむ。

「ミシャさん、我が家の降誕祭はいかがでしたか?」

「とっても楽しかったです」

七面鳥の丸焼きは最高だったし、付け合わせのクリームポテトや芽キャベツのソテーもおいしかった。

鯉のパイは初めて食べたのだが、王都では定番のごちそうらしい。

ソーセージのスープは絶品だったし、デザートのプラム・プディングもおいしかった。

こんなに豪華な降誕祭正餐は初めてで、終始感激してしまった。

「ミシャさんとエアさんが参加してくれたおかげで、久しぶりに息子達の顔を見ることができました」

多忙なようで、帰ってこいとも言えなかったらしい。

「今日は一ヶ月ぶりの休日だと言っておりました」

「近衛騎士は大変なんですね」

「ええ……」

ヴィルが毒を盛られていたという事件を受け、国王陛下もそうではないかという疑惑が浮上したため、これまで以上に警備を強化しているのだろう。

「息子達は騎士というよりは、国王陛下のお付きに近い存在ですから」

なんでも近衛騎士は騎士の中でも特殊な立ち位置にいるらしい。国王陛下直属の部隊で、騎士隊とは別の組織になるそうだ。

その話を聞いて、エグモント卿とエグムント卿は騎士隊と深い関わりはないとわかり、安堵してしまった。

降誕祭の晩にまでこんなことを考えてしまうなんて。今日だけは楽しく過ごしてもいい夜なのに。

と、ここでレヴィアタン侯爵夫妻に渡す物があったのだと思い出す。

「あの、レヴィアタン侯爵夫人、こちらをよろしければ」

それは雪結晶を銀糸で刺したハンカチである。レヴィアタン侯爵と夫人の物を二枚縫ったのだ。

「まあ、すてき! ミシャさんは刺繍がお上手なのですね」

「ありがとうございます」

これはただの雪結晶の刺繍ではない。

ハンカチに魔法を込めているのだ。

「レヴィアタン侯爵夫人、このハンカチを外で横に振ると、雪を降らすことができるのですよ」

「魔法のハンカチなのですか?」

「ええ」

さっそくレヴィアタン侯爵夫人は試したいと言って、バルコニーにでる。

「寒くないですか?」

「平気です」

レヴィアタン侯爵夫人は元気いっぱい、ハンカチを右に、左にと振り続ける。

すると、雪がハラハラと降ってきた。

「雪! 雪です!」

レヴィアタン侯爵夫人は少女のように瞳を輝かせながら私を振り返る。

王都ではあまり雪が降らないので、喜んでくれたようだ。

「最高の贈り物をありがとうございます。夫もきっと喜ぶことでしょう」

毎日眠る前に少しずつ縫っていたのだが、間に合ってよかった。

「あら、雪の模様が一つ消えてしまいました」

「雪模様の数だけ、雪を降らすことができる魔法なんですよ」

「まあ! そうとは知らずに、使ってしまいました」

レヴィアタン侯爵夫人は私の刺繍が消えてしまうのがもったいない、と言い始める。

「いつでも刺繍しますので、お好きなときに使ってください」

「ミシャさん、ありがとうございます」

レヴィアタン侯爵夫人は「大切にしますね」と言いながら、宝石箱のような入れ物にハンカチを入れてくれた。

◇◇◇

お茶会が終了すると、お風呂に入り、肌触りのよい寝間着に身を包んで、寝台にダイブする。

枕の下に手を入れると、何かあることに気づいた。

それはベルベットの袋にリボンが結ばれた贈り物。

カードもあって、〝ミシャ・フォン・リチュオルへ〟と書いてあった。

そのきれいな文字を見て、ヴィルが書いたものだと気づく。

ヴィルは私への贈り物を用意してくれていたようだ。

きっとメイドに頼んで、枕の下に入れてくれたのだろう。

リボンを解いて開くと、中には宝石がちりばめられた美しい手鏡が入っていた。

「お姫様の持ち物みたい」

いったいどこでこのような品を探してくるのか。

手鏡の裏を見てみると、魔法陣が描かれていた。

「え、これは――?」

なんの魔法だと思って、呪文を指先でなぞりながら読もうとしたら、鏡が突然光り始める。

「な、なんなの!?」

私の疑問に、答える声が聞こえてきた。

『通信魔法だ』

「ヴィル!?」

手鏡をひっくり返すと鏡にヴィルの姿が映っていたので、悲鳴をあげそうになった。