軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴィルの疑惑について

ヴィルは私が泣き止み、落ち着くまで傍にいてくれた。

涙が引っ込み、ほんの少しだけ冷静さを取り戻す。

「すみません、なんだか頭の中がぐちゃぐちゃで」

ただ単純に、ヴィルの婚約者に選ばれてラッキー! という話ではないのだ。

まずはヴィルにかけられている疑惑について、話しておいたほうがいいのだろう。

「あの、ヴィルは外部からの介入を遮断する魔法は使えますか?」

「ああ、使えるが、なぜ?」

「内緒話なんです」

「なるほど」

ヴィルはそれ以上深く聞かずに、魔法を展開してくれた。

「これで盗聴される心配はない」

「ありがとうございます」

話が早くて非常に助かる。

胸に手を当てて深呼吸したのちに、私はレナ殿下から聞いた情報について打ち明ける。

「実は、少し前に、ヴィルについての噂話をききまして」

「私の?」

「はい」

「いい噂話ではないようだな」

私の表情から読み取ってしまったらしい。

微かに頷いたのちに、具体的な内容を伝える。

「その、ヴィルが王家の方々を陥れ、謀反を企み、その結果、玉座を狙っているのではないか、と囁く人達がいるようで」

「なんだと!?」

ヴィルの瞳が極限まで見開かれる。

「玉座なんて、狙うわけがないだろう!」

「ええ、わかっています。けれども話を聞いた当初は、私も驚いてしまいまして」

「誰から聞いたのだ?」

「レナ殿下です」

彼女もまた、誰かに騙されている可能性があるのだ。

「実はレナ殿下は魔法学校に入学する前に、誘拐されかけておりまして」

「なんだと!?」

レナ殿下の誘拐事件については、父がなんとかするから口外しないように、と言われていたのだ。

「その誘拐犯の犯人が、先日会った叔父だったんです」

私は誘拐現場を偶然発見し、レナ殿下を助けることができたわけだ。

その後の経緯についても説明する。

「父は叔父を探して問い詰める予定だったそうですが、見つけることができず、騎士隊に通報したそうです。けれども騎士隊はレナ殿下誘拐についての情報をもみ消していたようで……」

「まさか、騎士隊が!?」

護衛対象であるレナ殿下が誘拐されたとなれば、騎士達の世間様に対する面目が丸つぶれとなってしまうかもしれない。

「さらに、その誘拐事件を起こしたのは、ヴィルではないかと疑われているようです」

「いったい誰がそのようなことを?」

「わかりません」

誰かがヴィルを悪人に仕立てようとしているようだ。

「ヴィルに毒を盛っていたのはレイド伯爵だけでなく、ヴィルの謀反を恐れた国の上層部も加担しているのではないか、とも言われているそうです。レイド伯爵がヴィルの命を狙ったことに間違いはないようですが、他の罪も被っている可能性はあります」

「なんて愚かなことを……」

ヴィルは「はーーーーーー」とこの世の深淵に届きそうなくらい、深く長いため息を吐いていた。

「誰かが自らの罪を私になすりつけようとしていることはわかった。その人物が、玉座を狙っていることも」

ヴィルは国王陛下がずっと具合を悪くしている理由を、ようやく正しく理解したという。

国王陛下を暗殺し、その人物が即位しようと企んでいるのだろう。

「いったい誰がこのような愚かな行為を働くというのか」

「ええ……」

犯人に心当たりはないらしい。

突然このような話を聞かされ、ヴィルは眉間に皺を寄せ、苦しげな表情でいる。

「ミシャはそんな話を聞いて、よく私の傍に居続けたな」

「それは、その、いろいろ探りを入れておりましたので」

「世界征服のくだりか?」

「ばれていましたか」

「今思えば、不審な質問だったからな」

私は他人から聞いた噂は鵜呑みにしない。

自分で納得いくまで調べて、見知った情報だけを信じたいのだ。

「ずっと、ヴィルが悪い人ではない理由を探していたような気がします。私はきっと、最初からヴィルが玉座なんて狙っていないと思いたかったんです」

「ミシャ……ありがとう」

ヴィルは少し泣きそうな顔で、私の手を握り返す。

「私に話すことは、勇気がいっただろう?」

「ええ。でも、ヴィルの無欲っぷりを聞いていたら、絶対に玉座は狙っていないな、と確信したので」

「無欲? 私が?」

「ええ、無欲ですとも」

「ミシャと結婚したいと思う男が、無欲だと言えるのだろうか?」

「それは――」

思いがけない方向に話が進んだので、がっくりと項垂れてしまう。

「というか、叔父の誘拐の話を聞いても、私と結婚したいと思ってくださったのですか?」

「もちろんだ。あの者はあの者、ミシャはミシャ、だからな」

その言葉を聞いたのは二回目だ。

ヴィルは本当に、私自身を見て、判断してくれる。

それがどれだけ嬉しいことなのか……言葉にできない。

「ヴィル、ありがとうございます」

「では、結婚に応じてくれるのだな?」

「いえ、それとこれとは別で、結婚については考えさせてください」

そう答えると、ヴィルは呆然とした表情で私を見つめていた。