軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話 第1回探索終了

体力を示す赤いバーを見て、これまでの戦闘から得られた情報から、俺は『支援回復1』もまた、初級探索者にとってはかなり使える技能だと予想していた。

課長の体力が回復するまで30秒――『支援回復1』はそこで発動し、てきめんな効果を発揮した。

◆現在の状況◆

・『アリヒト』の『支援回復1』が発動 →『キョウカ』の体力が回復

(やっぱり……これで検証できたな)

課長の七割ほど減っていた赤いバーが、5割一気に回復した。そしてかなり苦しそうだった彼女の呼吸も楽になり、赤く腫れ上がっていた腕も、少し赤みが残るだけでほとんど腫れが分からなくなる。

レベル1の探索者の体力が10ポイントなら、30秒で5ポイント回復というのは非常に便利だ。もちろん一撃で10ポイント持って行かれては意味がないので、レッドフェイスの一撃が浅く入ったことは不幸中の幸いだった。

しかし激痛が続いたショックからか、課長は意識を失ってしまっている。体力が回復してもそこまでは治らない――ステータス治療は別の方法が必要ということか。

彼女を一度寝かせて、俺は『レッドフェイス』を収穫物として革袋に入れた。倒してしまえばふわふわの赤い毛に覆われたネズミなのだが、やはり顔は凶悪だ。ワタダマより一回り大きいので、通常のワタダマなら四匹は入りそうな革袋がいっぱいになってしまった。

「おい、大丈夫か!? 今、 治療師(ヒーラー) のところまで運んでやるからな!」

テレジアが連れてきてくれたリヴァルさんたち。彼の仲間たちが、担架に課長を乗せて運んでいく。俺はその後から付き添いつつ、リヴァルさんに話を聞かれた。

「一体何があった……ワタダマの集団にでも出くわしたのか?」

「それは、バドウィックさんのパーティに聞いてください。『名前つき』が出て、彼らは『帰還の巻物』っていうのを使って逃げていったんです」

「チッ……『名前つき』は、最初に敵と認識した奴をしつこく覚えていて、迷宮に入るとどこからともなく姿を現すんだ。奴らもそれは分かっていたはずだが、金が必要だったんだろうな。しかしお前たち、よく『名前つき』から逃げられたな」

ここで『倒した』と簡単に言うわけにもいかないのが辛いところだ。俺の職業が特殊でなければレッドフェイスを倒すのは無理だし、話が広まりすぎて目をつけられると何があるか分からない。

(レッドフェイスの件はルイーザさんにだけ報告して、やつが倒されたことだけ時間差で公表してもらおう。バドウィックのパーティには悪いが、しばらくは謹慎してもらうしかない。俺の技能もまだ、盤石とはいかないからな)

『後衛』の技能には難点がある。俺自身に支援がかからないので、隊列次第では簡単にやられる可能性があることだ。そのリスクを回避するための技能、例えば横からの攻撃に対処したり、敵の狙いを前衛に集中する技能があれば、優先して取得しなくてはいけない。

だが、前衛が戦い、後衛が支援する形を築ければ、おそらく初級迷宮は難なく攻略できる。ダメージを無効にできない敵が現れなければだが。

そして、今は有効な「10ポイント」だが、少しずつ魔物の体力値が上がったり、ダメージ量の桁が変わってしまったりすると、途端に頼りなくなる。「支援防御1」があるなら、「2」もあるはずなので、できるだけ強化されることを祈りたい。

――そして俺達は、脱出する前に、エリーティアとスズナの二人とすれ違った。

彼女たちは俺達と離れた場所にいたので、レッドフェイスとの戦闘があったことは知らない。しかし物々しい空気を察したのか、俺のところに駆け寄ってきた。

戦う時はそうしているのか、エリーティアは長い金色の髪を二つのおさげに結んでいる。ツインテール姫騎士だ、と今は茶化している場合ではない。

「一体、何があったの……?」

「『名前つき』が出たんだ。危なかったけど、なんとか対処したよ」

「……対処……まさか赤いワタダマ? あれは一ヶ月に一度しか出なくて、3レベルのパーティでも壊滅させられることがあるのよ。素早くて逃げられないし、どんな方法で……」

エリーティアはレッドフェイスのことを知っているようで、俺達が生き残ったことを奇跡的だと思ったのか、饒舌に質問してくる。しかし途中で、はっとしたような顔をして口をつぐんだ。

「……ごめんなさい、無事に生き残れたことを喜ぶべきなのに、こんなこと聞いてしまって。凄いのね、まだ転生したばかりなのに機転を利かせて対処してしまうなんて」

「いや、運も良かったんだけどな。俺が心配するには及ばないと思うけど、二人もここで狩りをするなら気をつけて。赤いやつはもう出ないから、それは安心してくれ」

情報を出すには慎重にと思いはするが、レッドフェイスが出る可能性があると思わせて、同じ初級探索者のスズナを怖がらせるのは趣味が悪い。俺が倒したと気づかれる可能性はあるが――いや、それは杞憂のようだった。

「名前付きは、最初に姿を見せた相手を執念深く追い続けるから、私たちは別の名前つきに遭うことはあっても、赤いワタダマには出会わないわ。心配してくれてありがとう」

かなりの高レベルに見えるのだが、彼女は謙虚な人物だった。初級者の俺にも礼を以て接してくれる。

「あ……あまり話している時間もなかったわね。あなたのパーティの人に付き添ってあげて……私の名前はエリーティア。あなたは?」

「俺はアリヒト。発音しにくいかもしれないけど、そのままアリヒトと呼んでくれ。君は、確かスズナさんだったな」

「は、はい……あの、先ほど運ばれていった方は、私たちと一緒に転生してきた方じゃ……」

「ああ、でも大丈夫だ。気を失ってるけど、体力は回復してる」

「ポーションを使ったの? すごく貴重なのに、よく持っていたわね……」

そこでエリーティアは俺の顔を見る。彼女の疑問は察しがつく――俺の職業だ。

「……いえ、まさか。そんなに有能な後衛の人がいたら……」

「何か聞きたいことがあるなら、答えるよ」

「な、何でもないわ。そんなわけない……そんな万能の後衛がいたら、大騒ぎになるわ」

エリーティアは優秀な後衛と組みたがっている。ここで俺の職について説明すれば、パーティを組みたいと言ってくるかもしれない。

彼女は 単独探索(ソロ) 向けの職らしく、後衛にとっては何らかのリスクがあるようだが、それについても知っておきたい。このままスズナがエリーティアと同行していると、スズナがそのリスクに直面するときが来る。今すぐ問題になることではないが、それを放置しておくのは気がかりだ。

(そして、そのリスクをもし解消できるなら、エリーティアは優秀な前衛になる。今のところは、可能性があるってだけの話だが……)

今は課長のことが先決だ。もう一度エリーティアたちと会うときがあったら、そのときにもう少し話せるといい。

「じゃあ、俺は行くよ」

「は、はいっ……同じ日本からの転生者の人とお話できて嬉しかったです。また、どこかで見かけたら、挨拶してもいいですか……?」

「もちろん。俺からも声をかけたいくらいだよ」

転生したばかりで、皆心細いのだろう。スズナは何度も俺に頭を下げて、エリーティアと共に歩いていった。彼女たちも今日は小手調べだろうから、少し探索したら出てくるだろう。

俺は待っていてくれたテレジアを見やる。そして行こうと声をかけるつもりだったが――何か、今までと彼女の様子が違って見える。

「……テレジア?」

「…………」

彼女は何も言わないが、じっと俺を見ている。問題なさそうなので歩き出すと、テレジアが後ろをしずしずとついてくる。

俺はふと思い立って、振り返ってテレジアに尋ねてみた。

「……あのさ、明日も傭兵チケットを使うから、俺と一緒に来てくれるか?」

テレジアはしばらく答えなかった。傭兵個人に、雇用主を選ぶ権利は無いのかもしれない――と思ったが。

彼女はこくりと頷く。つまり、明日も一緒に来てくれるということだ。

「よし、決まりだな。今日は斡旋所でお別れになるけど、明日もよろしく、テレジア」

今度はテレジアは返事をしない。俺は苦笑しつつ、かなり引き離されてしまったので、テレジアと一緒に走ってリヴァルさんたちのパーティを追いかけ、洞窟の外に出た。

◆今回の探索による成果◆

・『曙の野原』1Fに侵入した 5ポイント

・『アリヒト』のレベルが2になった 10ポイント

・『ワタダマ』を一体討伐した 5ポイント

・賞金首『★レッドフェイス』を討伐した 200ポイント

・『テレジア』の信頼度が上がった 50ポイント

・『キョウカ』の信頼度が上がった 10ポイント

探索者貢献度 ・・・ 280