軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十七話 亜人と未帰還者

やはり、ドクヤリバチから取得した一つ目の赤い箱に比べると、明らかに出現した宝の量も多く、質も高かった。

◆箱の開封◆

赤い箱B:『★空から来る死』から取得

・?ブーツ

・★フォビドゥーン・サイス

・火柘榴石

・?チャーム

・?細長い布

・金貨×138

・銀貨×655

・銅貨×130

・使用できない貨幣×35

さすが、『名前つき』から手に入れた箱――装備品がいくつも入っているし、貨幣の量もかなり多い。黒箱を開けた時の宝の量を経験すると、それでも少なめだと感じてしまうが。

「これって……大鎌? 何だか、いかにも死神が持っているっていう感じだけど……」

五十嵐さんが見ているのは、箱から出てきた中でも特に目立つ、『フォビドゥーン・サイス』という武器だった。

名前に『★』がついているということは、特殊な武器のようだ。武器にも『名前つき』が存在すると考えていいのだろうか。

「待って、触れるのは鑑定してからにした方がいいわ。呪いの武器だったら、手放せなくなる可能性があるから」

エリーティアの警告に従い、五十嵐さんが大鎌から離れる。まずマドカの技能『鑑定術1』で調べてみたが、完全に鑑定できなかったので、シオリさんから金貨4枚で『中級鑑定の巻物』を購入させてもらった。

「すみません、お兄さん。私、こういう時にお役に立たないといけないのに……」

「いや、マドカには巻物や、箱開けの値引きで世話になってるからな。『価格交渉』のおかげで、いつも助けられてるよ」

「中級鑑定の巻物の相場は金貨5枚だけど、マドカちゃんに頼まれると断れないわね。この子はいい 商人(あきんど) さんになるわよ」

「あ、ありがとうございます……」

「さっきの服屋さんでも、マドカちゃんが居るだけで値引きしてくれましたもんね。私が頑張っても絶対ムリですよ」

俺もコルレオーネさんが自分からサービスしてくれたという体ではあったが、おそらくマドカの技能の恩恵を受けて割り引きしてもらえたようだった。そして物を売る時も最低一割増しで売れるというが、これで『価格交渉1』なので、2以上になるとマドカ無しでの買い物は全く考えられなくなってしまう。

「アリヒトさん、では鑑定してみます」

スズナが俺の代わりに、巻物を広げて読む――すると、ライセンスに鑑定成功の旨が表示された。

◆★フォビドゥーン・サイス◆

・攻撃時に、敵の体力を少し吸収する

・クリティカル時に、一撃で敵を倒すことがある

・両手で持たなくてはならない

・壊れやすい

・一つしか存在しない

「これは……場面によってかなり使えそうだが、普段の戦闘には使えなさそうだな」

「装備できる人が、今のところメリッサさんしかいないみたいですね」

「……興味はあるけど、『肉斬り包丁』には部位破壊をしやすくする能力があるから、今のところ持ち替えなくていいと思う」

「じゃあ、使う場面が出てくるまでは倉庫に入れておくか」

「見るからに禍々しくてかっこいいですけどねー。私が使えたら使ってましたよ」

重量があるというのがネックで、持ち歩いて性能を試すにも腰を据えてかかる必要がある。数回攻撃しただけで壊れてしまったら勿体無いというのもあるが。

(能力の説明だけを見て、有用性を見出すことはできるが……特にクリティカルで一撃必殺できる可能性があるっていうのは、ロマンがあるよな)

考えながら、俺は革製らしきブーツを拾い上げる――この金属光沢は見たことがある。

セレスさんの工房で、『エルミナ鉄』をスズナとミサキの防具の強化に使ってもらった。彼女たちの防具の外観を損なわないよう、内側を薄い鋼板で補強するという方法にしてもらったのだが、このブーツも同じような加工がされている。

「マドカ、このブーツなら『鑑定術1』でも大丈夫そうかな」

「は、はい、やってみます……!」

マドカにブーツを渡して鑑定してもらう。すると見事に成功した――嬉しそうにブーツを差し出してくる彼女を見て、俺も笑う。

今の装備と交換できるとありがたい、というくらいに考えていたのだが。ブーツの情報を見た俺は、思わず声を出さずにはいられなかった。

◆エルミネイト・マウント・ブーツ+2◆

・敵の状態異常攻撃をまれに無効化する。

・物理攻撃を少し軽減する。

・味方を強化する技能の性能が、少し向上する。

「これは……」

「アリヒト、そんなに良いものだったの?」

「ああ、皆を強化する技能の性能が上がる装備だ。この系統を集めたいと思っててな」

「男の人向けのデザインだし、後部くんによく似合ってると思うわ」

「あ、ありがとうございます。前は、あまりこういうのは履かなかったんですが」

どういった経緯で製作され、こういった能力が付加されたのかは分からないが、俺のように男性の支援職が使っていたものだろうかと思う。

他には『 火柘榴石(ひざくろいし) 』があり、これは『ヒート』系列の属性攻撃が可能になるらしい。『チャーム』というのはお守りみたいなもので、『細長い布』はどう見てもリボンだが、ライセンスは未鑑定として表示している。

貨幣については、衣料品などで使った分を補填してもお釣りがくるので有り難い。皆と一緒に散らばった貨幣を集め、袋にまとめたあと、最後の箱を開けようとして、その前にシオリさんと、傍らに立っている甲虫の亜人――タクマを見やる。

「……お願いします、お客様」

『背反の甲蟲』に、タクマが倒されたとしたら――この箱の中身に、それを示す物が入っているのかもしれない。

皆が見守る中で、俺は箱を開ける――そして。

◆箱の開封◆

赤い箱C:『★背反の甲蟲』から取得

・★アンビバレンツ

・★早業のガントレット

・?網状のぼろきれ

・?リング

・?リング

現れたものは、両側に刃がついている、特殊な形状の槍のような武器。それと小手らしき防具――その他には。

俺は無言で、落ちている小さな金属の輪を拾い上げた。もう一つ、同じようなものを、テレジアが拾っている。

鑑定するまでもなかった。俺たちが拾ったものは、指輪――その内側には、迷宮国の文字が刻まれていた。

シオリさんにそれを渡す。彼女は手のひらの上にそれを載せて、愛おしむようにもう片方の手で撫でると、涙をこぼした。

「そんなこと、一言も言っていなかったのにね……こうやって亜人になって帰ってきてから、弟には婚約者がいたと聞かされて……」

刻まれている文字は、おそらくタクマか、彼の婚約者の名前ということだろう。二人の所属していたパーティは『背反の甲蟲』に襲われ、所持品が箱に入っていたのだ。

「この指輪は、弟さんにお返しさせてください」

「……ありがとう。私は本当に、弟たちに何もしてやれなかった……」

迷宮で命を落としても、亜人として帰ってくることができる――しかし、全ての場合でそうなるわけではない。

俺はどこかで、諦めなければパーティメンバーを失うことは決してないと思っていた。その考えが甘いものだという答えをこうして見せられて、少なからず足元が揺らぐ思いを味わう。

なぜ、七番区の探索者たちの多くが探索を停滞させているのか。

死ぬことが恐ろしいから。それで進むことを諦めたとしても、誰にも咎めることはできない。

「アリヒト……」

皆に心配をかけてはならないと思うのに、エリーティアに不安な顔をさせてしまっている。気力を振り絞って自分に命じる――何でもいいから、暗い顔だけはするなと。

しかし、そう決めたときに。歩いてきたタクマが、俺の横に立つ。

彼は無言で手を差し出す。テレジアから指輪を受け取ったシオリさんが、二つともをタクマの手に乗せると、彼はただ指輪を見つめ続ける。

何もかける言葉が見つからなかった。タクマは亜人となって戻り、パーティを組んでいた婚約者は戻らなかった。

それが、どれだけ無念なことか。どんな慰めの言葉も、今は何の力も持たない。

「……箱から出てきたものは倉庫に送っておいて、また後で確認させてもらいます。シオリさん、タクマさん、本当にありがとうございました」

「お礼を言わなくていけないのは、こちらの方……なのに……ごめんなさい、今は……弟と、二人にしておいてください……」

シオリさんは気丈に言うが、そこまでで限界だった。

泣き崩れそうになった彼女を、五十嵐さんが前に出て抱きしめる。

「私には、何が起きたのか、想像することしかできません……だけど、今はこうさせてください。何もせずにこのまま出ていくなんて、できないから」

俺は目を赤くしている皆を見やり、頷く。五十嵐さん以外の仲間たちは、俺の考えを汲み取ってくれて、外に出るための転移扉へと向かう。

最後に扉をくぐる前に振り返ると、タクマは指輪を握りしめ、何もない宙空を見上げていた。失った人に対して、祈りを捧げるように。

◆◇◆

箱から得られた収穫は素晴らしいものだったが、同時に覚悟を問われる機会にもなった。

シオリさんが少し落ち着いたあとで、五十嵐さんも出てきたのだが――フォーシーズンズと約束している中華料理店に向かう途中で、最後尾を歩く俺の横に、五十嵐さんが並ぶ。

テレジアが、逆側の隣にいて、ひたひたと歩いている。彼女も先ほどのことがあってから、何か俺を心配するような素振りを見せていた。

「……大事な人がいなくなってしまったら、迷宮を探索することに目的を見いだせなくなってしまう。それはきっと、どんな人でも同じなんでしょうね」

『北極星』のゲオルグも言っていた。ソフィが居なくなったら、彼らのパーティはそれで終わりなのだと。

前を歩いているミサキとマドカが、何事かを話して談笑している。メリッサはシオンと一緒に少し先行し、スズナとエリーティアが時々言葉を交わしながら歩いている。

みんな、少なからず思うところはあるはずだ。迷いだってあるだろう――だからこそ。

「こんなことを言うのは、青くさいかもしれませんが。俺が、みんなを守ります」

それは絶対に言わなければいけないことだと思った。誰かが脱落する状況を生むことを、俺は俺に対して決して許すことができない。

それが難しいことだというのも分かっている。準備をしても予想を裏切られ、良かれと思って取った行動が窮地を生む――それが迷宮だと分かっていても、誰も死なせたくない。

「シオリさんたちも、何かできることがあれば協力するって言ってくれたわ。大人数で狩り場を独占したり、他の人達を無理やり勧誘するのはよくないと思うけど、たくさんの人と力を合わせること自体は、きっと必要なことだと思う」

「そうですね……俺もそう思います。五十嵐さんは、やっぱり頼りになりますね」

「な、何言ってるのよ……もう、弱気になっちゃって。今までの、何があってもやたらと落ち着いてる後部くんはどこに行ったの?」

五十嵐さんが励ましてくれている。そのおかげで、深みにはまりかけていた気持ちが徐々に浮上してくる。

「みんなを守ります……って言ってくれるのは嬉しいけど。いざとなったら、私は後部くんのことを身体を張って守るつもりだから。もしそうなっても、あまり落ち込んだりすることないのよ。私は、そうしたくて貴方を守るんだから」

あの五十嵐さんが俺の身代わりになってくれるなんて――と、大げさに驚くこともなく、今は自然に受け入れられる。

行き違いがあっただけで、彼女は本気で俺を迫害したいわけでも何でもなかった。守ってくれるというなら、それは今の彼女にとって本音なのだろう――そう思うこと自体が、未だに恐れ多いという思いもあるのだが。

「……私がいなくなっても悲しまないで、とか。五十嵐さんには絶対言わせられないですね」

「そ、それは……まあ、もしそうなっちゃったら、後部くんは無事ってことで、私はそれで満足なんでしょうけど……」

何を言ってるんですか、と怒りたくもなる。同時に、感謝もする――今になってこう思うのもなんだが、俺にとって五十嵐さんの部下だったことは、誇っても良い記憶なのではないだろうか。今となっては、ということではあるのだが。

「…………」

「……テレジアさんのためにも、やっぱり後部くんは無茶しちゃだめよ。さっき魔物にやられたところは大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。そうですね……窮地に陥らないよう、あるいは陥っても脱出できるよう、可能な限り備えをしていきますか」

「それがいいわね。できれば、あまりみんなの心臓に悪いことはしないで」

心配をかけてしまっていたことを反省したところで、前を歩いている皆がこちらを振り返って様子を見ている。バッチリ話は聞かれていたようだ――そして俺は、『心配かけてすまなかった』と手を上げる。

みんなが笑ってくれたところで、目的の店が見えてくる。フォーシーズンズの面々はまだ店に入らず、マドカが予約しておいてくれた時間まで、外で俺たちを待ってくれていた。